共働きで世帯収入1000万円以上は23区内に集中。都心と郊外で広がる年収格差と働き方による棲み分け

家族イメージ

23区内に住むか、それ以外に住むかは夫婦の働き方と関係している。

GettyImages/Taiyou Nomachi

前回のコラムにて30代子育て世帯の約1割が世帯年収1000万円以上となっていることを紹介した際、多くの反響をいただいたが、その際に、これは大企業の多い東京だけの現象なのではないかとの指摘もいただいた。このため、東京都内における30代子育て世帯の世帯年収分布を調べてみたところ、面白い傾向がみられた。

職住接近で時間買う23区内の共働き世帯

図表1は、東京23区(以下、23区内)在住の「妻が30代の子育て世帯(妻が30代で夫婦と子からなる世帯)」の世帯年収分布である(※)。世帯年収1000万円以上の共働き世帯が実に23.7%を占め、大きな存在となっている。前回のコラムで述べた通り、大企業なら30代で年収が500万円前後になる。夫婦で大企業に勤め、世帯年収1000万円を確保するという世帯が23区内ではある程度の集団となっている。

※前回のコラムでは「夫が30代の子育て世帯」を用いたが、地域別データが得られないため、今回は「妻が30代の子育て世帯」の世帯年収分布を用いた。

世帯年収図表1

妻が30代というと子の多くは小学校入学前だ。未就学児を育てながら夫婦とも正社員で働き続けるためには(夫婦のうち少なくとも一方は)保育園の預かり時間の範囲内に労働時間と通勤時間を収める必要があり、少しでも労働時間を確保するためにはなるべく職場の近くに住むのが合理的である。都心に近付くほど家賃や住宅価格は高くなるのだが、23区内に住む世帯年収1000万円以上の共働き世帯からは、仕事と育児の両立のために「時間を買っている」姿が思い浮かぶ。

23区外は専業主婦かパートが中心

一方、図表2は、東京都のうち23区以外(以下、23区外)の市町村在住の「妻が30代の子育て世帯」の世帯年収分布だ。

23区外にも世帯年収1000万円以上の共働き世帯もいるが、その割合は9.0%と23区内と比べると低い。23区外では23区内と比べ、共働き世帯・片働き世帯ともに世帯年収400万円~700万円台の世帯の比率が高くなっている。社会保障制度の「130万円の壁」や、共働き世帯と片働き世帯の平均年収の差などを踏まえると、23区外では、夫が年収500万円前後を稼ぎ、妻は専業主婦か、あるいはパート等で年収100万円程度を稼ぐという世帯が23区内と比べて多くなっているものと考えられる。

世帯年収図表2

郊外は衰退する?在宅勤務の普及がカギ

近年、育休制度や保育所が整備されていく中で、20代・30代を中心として女性の就業率や就業者に占める正社員比率は上昇しており、世帯の実質可処分所得は共働き世帯の割合が上昇することによって増加している。他方、専業主婦世帯は減少傾向にあり、かつ、なお残る専業主婦世帯の実質可処分所得も減少傾向にある。

都心を選ぶ正社員夫婦の世帯と、郊外を選ぶ専業主婦世帯または正社員+パートの夫婦の世帯。住む場所の選択はそれぞれ個々の世帯の合理的な選択の結果として起こっているようだが、この傾向が強まっていくと、豊かな所得を持つ共働き世帯が都心に一極集中し、郊外は世帯数と世帯あたりの所得の両面から、都心との格差が拡大しかねない。

一つの解としては、在宅勤務が考えられる。もし、夫婦とも週の半分ずつを在宅勤務で働くことができれば、郊外で子どもを育てながら都心の企業で働くことも可能だ。通勤時間の問題が解消されれば、自然豊かな環境があったり広い住居に住めたりするなど、郊外に住む利点は多数ある。正社員として働き続ける夫婦が増える中、郊外が衰退するか否かは在宅勤務の普及の有無にかかっているのかもしれない。

母と子供イメージ

在宅勤務など、多様な働き方がさらに普及することによって、郊外に住む人々は自然と増えるだろう。それが郊外人気を生むことにも繋がっていく。

GettyImages/kohei_hara

是枝俊悟:大和総研研究員。1985年生まれ、2008年に早稲田大学政治経済学部卒、大和総研入社。証券税制を中心とした金融制度や税財政の調査・分析を担当。Business Insider Japanでは、ミレニアル世代を中心とした男女の働き方や子育てへの関わり方についてレポートする。主な著書に『NISA、DCから一括贈与まで 税制優遇商品の選び方・すすめ方』『「逃げ恥」にみる結婚の経済学』(共著)など。

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