撮影:山口健太
「LINE BRAIN」事業について語る、LINE 取締役 CSMOの舛田淳氏。
撮影:山口健太
7月23日、LINEはAIソリューションサービス事業「LINE BRAIN」の説明会を開催。チャットボットや文字認識(OCR)、音声認識などの技術をソリューションとして「外販」(社外にソリューションなどとして販売)していく構想を語った。
LINE BRAINは、同社が6月の年次イベント「LINE CONFERENCE 2019」で概要を明かした新事業だ。記者説明会では、「AIを外販する」ための具体的なロードマップが語られた。順を追って見ていこう。
LINEは「AIソリューションカンパニー」へ
提供:山口健太
これまでLINEは音声アシスタント「Clova」の提供などを通じて、AI技術を培ってきた。Clovaはユーザーの声を聞き取り、意味を解釈して音声で応答する。その裏では音声認識や自然言語処理、音声合成といった処理が行われており、その精度を上げるにはディープラーニングなどのAI技術が必要不可欠となっている。
そんなLINEの「頭脳」とも言えるAI技術を切り出し、外部の企業向けにパッケージ化して売っていくのがLINE BRAIN事業だ。「LINEは、AIソリューションカンパニーへと進化していく」とLINE 取締役 CSMOの舛田淳氏は語る。
LINE BRAIN事業が販売する製品群(開発中のものを含む)。
撮影:山口健太
AIソリューションといっても、具体的に何ができるのだろうか。LINE BRAINを象徴する開発プロジェクトとして紹介されたのが「DUET」という名のAI自動応答システム。飲食店の電話予約の完全自動化を目指している。
DUETによる電話応対は「いつのご予約でしょうか」「その日は満席です」など、あたかも人間が話しているかのような受け答えをしながら、予約日時を調整していくレベルに達している。6月のイベントで披露した後、チューニングを重ねることで精度が上がっているという。
電話口で人間のような受け答えができるAI自動応答「DUET」。
提供:山口健太
すでに企業の電話窓口ではメニューを読み上げて番号選択をさせるなどの自動音声応答装置(IVR)が広く使われている。だがDUETは自然な日本語で柔軟な受け答えができるのが特徴で、このまま進化していけば電話の相手がAIとは気付かない人が出てきてもおかしくない。
舛田氏はDUETの提供時期を「ほんの少し先」としたが、実際には2020年になるようだ。国内展開にあたっては飲食店向けの予約サービスを手がけるエビソル、Bespoの2社と基本合意に至ったことを発表した。今後は実証実験などに取り組んでいく。
背景には、飲食店における人手不足問題がある。AIによる自動化で電話応対の時間が減るのはもちろん、24時間対応が可能になることで営業時間外の機会損失を減らすことも狙う。
その結果、飲食店は現場での接客に集中できるというわけだ。「AIに人間の仕事が奪われるといったイメージを持つ人もいるが、人間にしかできないことに時間を割けるようになる」と舛田氏はメリットを強調した。
チャットボットやOCR、音声認識を製品として提供
LINE BRAIN事業を統括する砂金信一郎氏。
撮影:山口健太
DUETのようなAI自動応答は、LINE BRAINを活用したソリューションの一例だ。今後はAIチャットボット技術の「LINE BRAIN CHATBOT」、文字認識の「LINE BRAIN OCR」、音声認識の「LINE BRAIN SPEECH TO TEXT」といった製品を順次発売していくという。
その事業を統括するのがLINE BRAIN室 室長の砂金信一郎氏だ。「いわゆるGAFAがマーケットを取ろうとしている中で、LINEのAIは日本語とアジア言語にフォーカスする」として、英語圏以外に注力していく姿勢を示した。
LINE自身が提供するサービスの中でもAIの活用を進めている。カスタマーサポートのLINE Quick Helpではチャットボットが応対しており、LINE Shopping Lensでは画像認識を、LINE CONOMIではレシートの文字を認識する機能を活用している。
LINEが提供するサービスでも自社のAI技術を活用する。
提供:山口健太
LINE BRAINを利用することで、外部の企業もこうした機能を実現できるという。「チャットボット」は一問一答のFAQを元に回答する、テンプレートに従って店舗の営業時間や場所を返す、予約のように必要事項を聞き出していく「Slot Filling(スロットフィリング)」といった用途を想定する。
OCRは、請求書のようなビジネス文書の文字を認識できるのはもちろん、どこに何が書いてあるのかフォーマットを指定することで、データを構造化できるのが特徴だ。運転免許証の画像から名前を読み取り、本人確認をするeKYC(electronic Know Your Customer)も実現できるという。
請求書の文字認識ではデータの構造化ができる。
撮影:山口健太
LINE BRAINを活用するパートナーとも積極的に組む構えだ。音声会議用のシステムを展開するDialpad Japanの代表取締役社長の安達天資氏は、「ビジネスにおけるコミュニケーションの70%は声だ。電話は記録が残らずブラックボックスという指摘もあるが、AIが処理してくれれば利便性はもっと上がる」と可能性を語った。
エンジニア以外が扱えるツールも提供
チャットボットに「社内でWi-Fiルーターを借りる方法」を答えさせるための質問の設定例。
提供:山口健太
LINEがAIを売ってくれることは分かったものの、それは一般企業の社員でも使いこなせるものなのだろうか。
ビジネスの現場に、AIのエンジニアや専門家が必ずしもいるとは限らない。そこでLINEが提供するのが「Builder」というチューニングツールだ。
チャットボットのBuilderでは、1つの質問について10種類くらいの言い回しを入力することで、「あとはディープラーニングによって、他の表現にも対応してくれる」(LINE BRAIN室プロダクト企画チーム マネージャーの佐々木励氏)という。
チャットボットが取り扱う質問の数が増えると、正答率は落ちるのが普通だ。だがLINEのAIは、グローバル企業と比べてもその落ち幅が少ないという自社調査を示した。こうしたデータから、佐々木氏自身も「LINEのAIが十分に戦えると思えるようになった」と自信を深めたという。
AIチャットボットが扱う質問の数と正答率の比較(LINEによる自社調べ)。
撮影:山口健太
今後のLINE BRAINのロードマップとして、2019年第3四半期にはチャットボットやOCRの実証実験を開始する。チャット中に決済ができるLINE Payへの対応も明らかにした。その後はOCRの手書き認識や音声認識、音声合成を提供し、2020年にはSaaS(Software as a Serviceの略。月額課金などの形でサービス提供していくこと)として一般に開放する予定とした。
LINE BRAINのロードマップ。
撮影:山口健太
提供形態は、ユーザー企業向けには3カ月で100万円から、ソリューションを開発するパートナー企業向けには機能検証を目的とした無償プランも提供する。
いずれもパッケージを売るだけでなくサポートしていくために提供数は限定する。共同でビジネスモデルを作り、マーケティング活動をしていくプランも用意したという。
LINE BRAINの個々の製品は、まだ報道関係者が実際に試せる状態ではない。そのため、LINEが一般に提供するサービスから大まかに予想するしかない段階だ。だが、LINEが説明会の終了後に開いた商談会には、多くの来場者が関心を寄せていた。
電話応対の自動化だけを見ても、飲食店以外の業種に活用範囲が広がれば電話を使うあらゆる企業から引き合いがありそうだ。
(文、写真・山口健太)