歌舞伎町キャバクラから起業家に。「投資するからホテルに行こ」女性取り巻くセクハラ環境を変えたい

株式会社祭代表の「しみこ」こと清水舞子さん

株式会社祭代表の「しみこ」こと清水舞子さん。

撮影:稲垣純也

思いのある人がお金を集める仕組みが、徐々に増えてきた。2018年11月に立ち上がった継続支援プラットフォーム「ビスケット」もその一つだ。

クラウドファンディングなど多くの支援プラットフォームが「単発」の企画単位の支援である中、ビスケットは「継続支援」に重きを置く。立ち上げたのは、株式会社祭代表の「しみこ」こと清水舞子さん(31)。信頼で誰かを支える仕組みをつくる彼女の道のりは、波乱に満ちたものだった。

20歳のとき性犯罪の被害者に

清水さんは幼い頃に両親が離婚。自分を育ててくれた母親を喜ばせるために、勉強にも部活にも打ち込んだ。第1志望だった多摩美術大学には実技試験満点で合格。家の経済状況は厳しかったが、母が家を抵当に入れ借金し、入学金を捻出してくれた。

だが、20歳になったある日、清水さんを一つの事件が襲う。好きな人の家で、複数の男から性的暴行を受けたのだ。

あまりのショックに頭が真っ白になった。相談に行った交番では「自分にも非が合ったのでは」と相手にしてもらえず、被害届は出さなかった。周囲に相談できる大人はおらず、母親にも言えなかった。

「お母さんが事実を知ったら、きっと悲しむ。けれども同時に、これまでいかに母の笑顔のためだけに頑張ってきたかに気付かされました」

自分が苦しい状況下でも、母親の心情を優先していたのだ。“誰かのために”は、いずれ“誰かのせいで”に変わる可能性がある。もう一緒にいてはいけない、そう思った清水さんはそのまま何も言わずに家を出た。

友人宅を転々とした。布団から出られず、トイレにも行けない。気付くと涙がこぼれてくるうつ状態に陥り、学校に行けない日々が続いた。

「問題提起はできても解決はできない」

あるとき、多摩美の恩師から連絡がきた。

「あなたは芸術が大好きだったのに、どうしたの?」

清水さんは、数カ月の出来事を告白した。恩師の支えもあり、大学に復帰。それからしばらくして作った作品は、学内外から高く評価された。

清水舞子さん作品

多摩美時代に清水さんが作った作品。

提供:清水舞子さん

しかし、どこかもどかしい気持ちが残った。

「芸術で問題提起はできても、持続的に解決はできない」

清水さんはこのとき、育ち、地域、性別などの生まれ持ったカードによって得られる機会に偏りがあることを問題視していた。生きてきた環境が違うだけで、巻き返すことが困難なほどの差がついてしまう。格差問題を持続的に解決するための仕組みは何か。考えた結果、ビジネスに関心を持つようになり、明治大学商学部に編入することを決めた。

入学資金として、アルバイトで約100万円を貯金。しかし、今度は学費を納入する直前に、近しい人物からお金を持ち逃げされてしまう。信用した人物にさらりと裏切られる失望感は大きかった。

人生は誰とご飯を食べるかで変わる

歌舞伎町

歌舞伎町で働く女性たちの自己肯定感は低い。その女の子たちを救いたいと思っていた(写真はイメージです)。

撮影:サムソン

失意の時期に歌舞伎町を歩いていたら、キャッチのお兄さんに声をかけられた。事情を話すと、キャバクラの仕事を紹介してくれた。大学の学費を稼ぐためにキャバクラで働く道を選んだ。その後、明治大学に編入することができた。

3年生にもなると、大学は就活モード一色になる。だが、就職には全く興味が持てなかった。それ以上に、社会に横たわる“境界”が頭から離れなかった。

「20代の同じくらいの年の人たちが、かたや就活に悩み、かたや中絶やDVに悩み生きていくことに希望を見出せずにいる。この差は一体何なんだろうと思いました」

高校を中退して水商売に入った人、企業からリストラに遭い歌舞伎町で食いつなぐ人、水商売をやめると言って歌舞伎町を去っても数カ月後にはまた戻ってくる人。

歌舞伎町で働きながら、そこを離れられない人に足りないのは「信頼」だと感じていた。

「人生は『誰とご飯を食べるか』で変わる。彼女らは出会う人の幅を拡げる必要があると思いました」

歌舞伎町で働く女性たちの自己肯定感の低さをなんとかしたい。“夜回り先生”のように、歌舞伎町で働く10代20代の話を聞いた。中絶手術に立ち会ったり、彼氏から暴力を受けている女の子を助けに行ったりもした。

「でも、限界がありました。対処療法的な手段では、私が100人いても根本的な解決にはならないと思ったんです」

人と人が手を取り合って、という願いを込め

清水さんの手

撮影:稲垣純也

そんなとき、早稲田大学にいながらITで起業している数人の大学生に出会う。女性向けメディアを立ち上げ不特定多数の女性に情報を届けており、一人の言葉が大勢に届くインターネットの力に可能性を感じた。

この大学生らが暮らす8畳ほどの部屋に転がり込み、プログラミングを学んだ。25歳になっていた。

3分動画で学習できる「ドットインストール」を活用し、HTML&CSSの勉強から始めた。同時にクラウドソーシングでデザイナーを名乗り、自分でWebサイト制作の案件を受注。パソコンに向かう時間は、1日15時間を超えた。

プログラミング言語のRubyやSwiftを習得する頃には、企業からの受注金額が月200万円を超えるようになっていた。

起業資金を貯め、27歳のときに設立した株式会社祭では、美大生とIT企業をつなぐマッチングイベントや、低用量ピルの遠隔診療、下着のサイズが分かるARなど、いろいろな事業を試した。会社の名前「祭」には人と人とが手を取り合って生きていきたいという願いを込めた。

目指したのは信頼の可視化

ビスケットのサイトキャプチャー

ビスケットを渡すような感覚で、誰かの営みを応援するサービス「ビスケット」。

公式サイトよりキャプチャー

そして行き着いたのが、今のサービス「ビスケット」だ。ビスケットを渡すような感覚で、誰かの営みを応援する。クラウドファンディングと異なる点は、毎月継続的に支援ができる点と、リターンのような「見返り」を求めない点だ。

「財布の中にある自分の1000円と、『あなたを信じて応援したいから』ともらえる1000円。同じ金額でも、価値が違うと思うんです」

ビスケットが目指すのは、信頼を可視化すること。目標に向かって頑張る人が、誰かの肩を借りられるようにすること。

ローンチから半年ほどで、約500人がビスケットを利用している。精神疾患のあるアクセサリー作家や、障害のあるマンガ作家など、利用者は年齢も職業もさまざまだ。

「影響力のある声の大きい人にしかお金が集まらない状況をどうにかしたかったんです。劇的な変化じゃなくても、日々起こる些細なことが、誰かの明日を支えることができる。そんなサービスを作りたいと思いました」

女性起業家を取り巻く厳しい環境

清水さんが起業して感じるのは、女性起業家をとりまく環境の厳しさ。多くのセクハラを受けてきたからだ。特に「水商売出身」というラベルは、一部の男性にセクハラの免罪符を与えたようだった。「お前は酒を注ぐことしかできない」と言われたこともある。

特に悪質だったのは、資金調達の局面だ。

清水舞子さん

撮影:稲垣純也

「相談した先輩に『投資するからホテル行こ』や『服脱いで』と言われたのは1回や2回ではありませんでした。またお酒に強い私が一口で意識が遠のくなんてことは通常なく、飲み物に薬を入れられたのではと疑うシーンもありました」

ショックだったのは、セクハラをしてくる投資家が表では“ソーシャルグッド”をウリにしていることだった。

女性というだけではない。投資界隈には学閥があり、有力な学閥外の自分には初めから門が閉ざされているように感じた。早慶出身の男性起業家たちが順調に資金を調達する姿を横目に見ると落ち込んだ。

「VCや投資家には女性が圧倒的に少ないので、必然的にマイノリティになってしまう」

6人にまで増えた社員を守るために、先輩起業家からの「体で稼いでこい」という言葉を間に受けそうになることもあった。けれどもそれでは、次世代の女性起業家へ負の連鎖が止まらない。

「投資環境に置かれたことのある女性は少ないので、私を含め、セクハラを受けても誰に相談したらいいか分からないんです。そういうときにセーフティネットになるような場所が必要です」

現在はビスケットを成長させながらも、女性起業家のための協会を作れないかと思案中だ。

(文・ニシブマリエ)

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