独禁法に違反? 契約書なし続く吉本をめぐる2つの法的疑問

吉本興業・岡本昭彦社長

吉本興業・岡本昭彦社長。所属芸人をめぐる「契約書を交わさない」問題がにわかにクローズアップされている。

撮影:西山里緒

吉本興業と芸人との契約をめぐって、公正取引委員会の事務方トップである山田昭典事務総長が7月24日、「契約書面が存在しないということは、競争政策の観点から問題がある」と述べたと、複数の報道機関が報じた。

吉本興業の岡本昭彦社長は「ベースは人間関係」としているが、契約書を交わさない取引は、立場の弱い芸人の側に不利益が生じやすい。

公取委の元幹部は「独禁法(独占禁止法)や下請法に違反する可能性がある」と指摘する。

契約書を交わさない吉本

宮迫さん・亮さん

7月20日の会見で深々と頭をさげる宮迫博之さんと田村亮さん。

撮影:今村拓馬

吉本興業側の説明によれば、約6000人いる芸人と吉本興業はいまのところ、ごく一部の例外を除いて契約書を交わしていない。

契約書のない仕事の関係は、何が問題となるのか。まず、下請法の観点で考えてみる。

芸能事務所と芸人の関係では若干わかりにくいが、大手メーカーと、蒲田や東大阪の町工場の関係を想像すると問題はよりくっきりする。

町工場の社長「契約書はまかないんですか」

大手メーカー担当者「そんな堅苦しいことせんでも、人間関係がベースやろ」

社長「今度の仕事、いくらいただけるんですか」

担当者「会社の方針でそれは答えられへんわ」

社長「こんな工賃では、安すぎます」

担当者「みんなファミリーやんか。こっちはメーカーやで。町工場を育てる責任があるんやから」

発注書にギャラの記載義務

お金

撮影:今村拓馬

下請法は、仕事を出す発注者側に対して発注書の交付を義務付けている。この規定は、企業と企業の取り引きだけでなく、「企業と個人の取り引き」も対象とされる。

発注書の中身は、仕事の内容、代金、いつ支払うかなどを書くことになっている。

例えば、テレビ番組のひな壇にほかの事務所のタレントが座る予定だったが、急病で空席ができ、吉本のマネージャーに急な仕事が来たとする。

マネージャーが明日、どのテレビ局に何時に来てほしいというメールやメッセージを芸人に送る際に、代金や支払期日などを書いておけば、発注書が交付されたものと捉えることができる。

事務所と芸人の間に何らかの取り引きをめぐる問題が生じた際に、立場の弱い芸人の側が、事後的に争えるよう証拠にできるものがあればいい。メールでも、LINEのメッセージでも証拠になりうる。

「事務所が自由に条件を変えたいからだろう」

そして、発注書を交付する日常の取引の前提として、基本契約書を交わして、反社会的勢力との交友など、タレントとして問題になりうる行動があった場合は、契約の解除事由になりうるといった条件を定めておくのが通常の取引だ。

公取委の元幹部は「契約書を交わすのは、取り引きの基本。それさえ守られていないようだ。発注書を渡さないのは、事務所側がいつでも自由に条件を変えられるようにしたいからだろう」と指摘する。

下請法に1000万円の壁

下請法

公正取引委員会の下請法に関する概要ページ。

ただ、吉本興業と芸人の契約のあり方が、下請法で問題となるかどうかについては、法律の壁がある。

下請法上、発注者である親事業者は「資本金1000万円を超える法人」と規定されている。

登記簿によると、6000人の芸人たちが所属しているとされる吉本興業は資本金1000万円、持株会社である吉本興業ホールディングスは資本金1億円だ。社長はいずれも、岡本氏が務めている。

となると、ホールディングスは資本金1000万円を超えているが、吉本興業は超えていない。契約書は存在しないものの、芸人が所属している吉本興業は下請法の対象外である可能性がある。

実態としてテレビ局などとの契約主体は吉本興業の場合が多いので、下請法の対象にならない可能性が高い。

「独禁法違反」の可能性も

吉本興業

吉本興業の会議室の壁にかけられた額縁。

撮影:今村拓馬

もう一つの可能性として浮上するのが、独禁法の「優越的な地位の濫用」だ。

取り引きの関係で強い立場にある企業が、取引先に対して、「正常な商慣習」に照らして、不当に不利益を与えることを禁止している。

公取委はこれまで、優越的な地位の濫用が疑われる事案について、具体的な不利益が確認できたケースを立件してきたという。

今後、契約書や発注書を受け取らずに仕事をしてきた芸人に、具体的な不利益が生じていたかどうかが焦点になると考えられる。

前出の公取委幹部は「公の場で契約書がないことまで明らかになっていて、当局がなにも調べずに終わるということは考えにくい」とみる。

(文・小島寛明)

ソーシャルメディアでも最新のビジネス情報をいち早く配信中

あわせて読みたい

Popular

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み