プロ広報が見抜く宮迫・亮の「戦略的会見」。2人の役割分担と“二項対立”がカギだ

宮迫博之さんと田村亮さん

なぜ、宮迫博之さんと田村亮さんは、あの緊急謝罪会見で世の中の空気を変えられたのか?

撮影:今村拓馬

吉本興業の闇営業問題に端を発した騒動。タレント側の言い分と会社側の言い分の食い違いから、反社会的勢力からの金銭授受という当初の問題からはかけ離れているものの、戦略的なPRという観点では学ぶ点が多くある。

ここ数日は、吉本興業経営陣の記者会見に対する世間の非難が高まり、連日、テレビなどのメディアで危機コンサルタントが取材に応えている。

いまではかなり定着した「危機管理コミュニケーション」だが、日本国内で注目されたのは、2000年の雪印食品による「集団食中毒事件」だった。

このときの記者会見の対応のまずさ、そして決定的だった「寝てないんだよ!」という当時の役員から取材記者へ発した失言から、企業広報のひとつとして危機管理が注目された。

宮迫・亮会見は「きわめて戦略的」

田村亮

「ファミリーというなら、謝ろうとする子どもを止めるのではなく、背中を押してほしい」と訴えた亮さん。

だが、私が注目したのは、危機管理としての岡本社長の会見ではなく、宮迫博之さんと田村亮さんの記者会見の戦略性だ(反社会的勢力のパーティーに参加して金銭授受があったのに、当初否定した問題は今回はいったん置いておく)。

なぜ、宮迫さんと亮さんは、あの緊急謝罪会見で世の中の空気を変えられたのか。PRパーソン目線からみると、それは「2人の記者会見のゴールがとんでもなく高いところに設定されていた」からではないかと思う。

7月20日、Webニュースの速報で「14時から宮迫さんと亮さんの記者会見」とスマホに通知があった。

筆者も「謝罪会見」か「引退会見」になるものとばかり思って会見を見たが、その内容はPRのプロとして20数年間、第一線で仕事をしてきた筆者も舌をまく、戦略的な記者会見だった。

彼らの開いた記者会見は、一般的に「謝罪会見」「釈明会見」と言われるものだ。目的はマイナスイメージを少しでも回復させる、ゼロにならないまでも、ゼロに近づけるようとすることだ。

それが、ゼロどころか2人のイメージをプラスに転じさせていた。成功要因として最も注目すべき点は、以下のような宮迫さんと亮さんの役割分担だ。

  1. ストーリー担当は宮迫博之さん
  2. 感情(演出)担当の田村亮さん

宮迫博之

ことの経緯をメモを見ず、細かく説明した宮迫博之さん。

宮迫さんは非常にわかりやすく整理された経緯を、吉本興業経営陣との細かなやりとりやそのときの語調、岡本社長の間の取り方まで、会話を再現した。あたかもその場にいたかのような臨場感を伝えることで、日本を代表するエンターテイメント企業のなかで起きている「ドラマ」を通じて、人々は真実味を感じた。

しかし、これだけでは、途方もないマイナスイメージからの大逆転は起きなかったはずだ。そこで、大きな役割を果たしたのが亮さんだ。

亮さんは会見の中盤まで、言葉少なに宮迫さんの右隣に座っていたが、会見終盤で、「謝ろうとする子どもを止めるのではなく、背中を押してほしい」と、泣きじゃくりながら吉本興業の経営陣に対する不信感、経営陣との大きな溝を訴えた。

宮迫さんの会見をどこか疑う思い、半信半疑で見ていた人も、あれで感情を揺さぶられ、気持ちを持っていかれたのではないだろうか。

事実、記者会見後、吉本芸人のひとり、陣内智則さんは「亮のファミリー発言が全て」とSNSに投稿している。あの涙の訴えで一気に世論に共感を巻き起こし、宮迫さんと亮さんを取り巻く目線は大きく変わった。

強者による強要、二項対立の構図を印象づけた

今、多くの人にとって、吉本興業の「経営陣」対「所属芸人」の構図は、私たちの社会にある二項対立の縮図と捉えられている。この二項対立は企業に限らず、お金持ちとそれ以外、都心と地方、上司と部下、男女、私たちの周りに数多く存在する。

よしもとのロゴ

吉本の「経営陣」の記者会見の歯切れの悪さも、印象を悪くしてしまった大きな要因の1つと見る人は多い。

撮影:今村拓馬

私たちは日々、強者による強要を感じている。そして、この二項対立の弱者の方が実は多数派だったりエネルギーが強かったりすることが多い。

2012年から2016年の間で、グラノーラの代表ブランド、カルビーの「フルグラ」が5年間で約8倍近くの売上規模に成長した。筆者は「フルグラ」のPRエージェンシー側の責任者として、カルビーのマーケティング担当者と二人三脚で多くの施策を実行した。

当時は、朝食に対する義務感や退屈な印象、また、朝食を食べないことも大きな社会問題になっていた。そこで、筆者が目指したのが「グラノーラで朝食を楽しくすること」だった。

ただ、それだけでは世間は味方になってくれない。そこで「朝食弱者の救済」というコンセプトを考えた。義務感や退屈な朝食を食べている人、経済的な理由以外で朝食を食べない人に向け、「第三の朝食」としてグラノーラを提案し、社会の支持を得て、パワーブランドになった。

今回の騒動をこの二項対立で考えると、会見前は宮迫さんと亮さんも強者側の人と思われていた。しかし、亮さんの泣きじゃくり会見がスイッチとなって、一気に、2人は「弱者」のポジションを得た。当初は、世間の評価が厳しく、そのままいけば社会から消えてしまう可能性さえあったのに。

一方、日本を代表するエンターテイメント企業である吉本興業の経営陣は、あたかも国民の敵のようにそっぽを向かれてしまっている。

事実関係はともかく、戦略的釈明会見の成功例としては、一級品だったのだ。

(文・松本淳、写真・今村拓馬)


松本淳:エムスリー・カンパニー社長、コミュニケーション・ストラテジスト 。1995年 大手PR会社入社。キシリトール日本上陸プロジェクト、P&Gファブリーズ、ダイソンなどの戦略的広報活動に従事。その後、飲料メーカー宣伝部を経て、食とヘルスケアの専門のPR会社、エムスリー・カンパニーを創業。 カルビー「フルグラ」の大ヒット、まいたけブーム、レモンブームなど、キウイフルーツのメジャー化など多くの事業成長を加速させる。

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