「ひき逃げ被害でも守ってもらえない」ウーバーイーツ配達員の苦悩。労災保険ナシの現実

ウーバーイーツの配達員が労働組合の結成に向けて動いている。配達員は「個人事業主」で労災の対象にならないため、事故にあう不安と常に隣り合わせだ。労働組合はそもそも何を目的にするものなのだろうか。

労組は「自由がなくなる」?「利権」?

ウーバーイーツ

ウーバーイーツの労組結成に向けて配達員たちが動いている。しかし、誤解も多いようで……。

shutterstock/JPstock

「デモの問題と構造は一緒なんですよ。超ウザい」

実業家の堀江貴文氏を起用したNewsPicksのネットニュース番組「HORIEONE」(7月8日公開)で、堀江氏はウーバーイーツ配達員が労組を準備しているという報道について、こうコメントした。

以下は同番組でのNewsPicks元編集長・佐々木紀彦氏、実業家でタレントの菅本裕子氏との主なやり取りだ(敬称略)。

堀江「デモの問題と構造は一緒なんですよ。超ウザい。昔からプロ市民的な人がいたわけですよ。労組専従みたいな人がいて、彼らが自分の仕事を作ろうとしてるだけですよ」

佐々木「ああ、そうかぁ。でも正義感でやってる面もあると思うんですよ」

堀江「いや、僕はないと思う。ウーバーイーツ配達員の人もウザいと思ってる人、いると思うよ」

そして話は、堀江氏が友人から聞いたという配達員の実態へ。

堀江「スーツを着た女性がウーバーイーツを運んで来るんだって。僕の友達が聞いたら『休み時間に小銭稼ぎをしようと思って』って」

菅本「それがいいところですよね」

堀江「もっと言うと会社サボってウーバーイーツで副業やってる人もいると思う」

佐々木「自由がなくなるわけですよね。労動組合が出てきたり、いろいろやると

堀江「そうだし、ウーバーイーツの配達員なんてビジネスモデル10年も続かないんだから。ドローンとかロボットになりますよ。こんなの別に意識高めたところで、みんないなくなっちゃうんだから、何やってんのっていう。労組系の人たちの新たな利権確保のための仕組みかなぁと」

プロ野球など個人事業主で労組つくった成功例も

ウーバーイーツユニオン

6月のウーバーイーツユニオンの準備会にて。中央が川上弁護士。

撮影:竹下郁子

ウーバーイーツの配達員らは、話し合いながら労働組合結成の準備を進めている。

配達員らをサポートしている川上資人(よしひと)弁護士は、上記の堀江氏や佐々木氏のコメントは「誤解」だと言う。特に「自由がなくなる」という点についてだ。配達員は「個人事業主」のため、本業の合間などに「自由な働き方」ができることが魅力の1つになっている。

ユニオンの目的は配達員同士が連携し、会社と対等に交渉できるようにすることです。個人事業主扱いされている現在の働き方が変わることはありません。団体交渉を通して、安全に働ける環境づくりを求めていきます」(川上氏)

同じように個人事業主が集まって労組をつくった例としては、プロ野球選手の「日本プロ野球選手会」、建設現場のいわゆる“一人親方”の「全国建設労働組合総連合」などがある。また、結成に向けた準備は弁護士も配達員もボランティアで、「利権には遠い」(川上氏)という。

ひき逃げで骨折しても働き続ける理由

ウーバーイーツ

ウーバーのダラ・コスロシャヒCEOは、日本でシニアは最も熱心なウーバーイーツの配達員になっているとブルームバーグに語っている(写真はイメージです)。

shutterstock/MAHATHIR MOHD YASIN

川上弁護士によると、労働組合を結成する目的として配達員から要望が多いのは、

  1. 事故にあった場合の補償
  2. アカウントの停止などに関する透明性の確保

の2点だ。

特に事故の補償に関しては、心配する人が多い。配達員は「個人事業主」のため、労災や雇用保険の対象にならないからだ「配達パートナー向け保険」はあるが、“配達中の人と物”が対象で、配達員本人への補償はない。実際、事故にあった複数の配達員が川上氏のもとに相談に来ているという。

妻と子どもがおり、家計をウーバーイーツで支えているという男性は、これまで2度配達中に事故にあっている。

ウーバーイーツ

イギリス・ロンドンで賃金と労働条件の改善を訴えるデモの様子。

Reuters/Peter Nicholls

1度目は加害者がいたため、治療費なども加害者側の保険で全てカバーできた。しかし2度目はひき逃げ事故で、加害者が特定されていない。

政府(国土交通省)は、男性のようなひき逃げ事故の被害者に対して救済制度を設けているが、治療など全てが終わった後で申請する仕組みのため、男性は現在何の補償も受けられない状況だ。

骨折し、医師からは2カ月間の安静・加療が必要という診断がおりているが、それでは家族が生活できない。頭痛や吐き気などの後遺症がある中、配達を続けているという。

こうした実態もあり、ユニオンを結成して配達員自身をカバーする保険を整えるようウーバーと交渉するのが急務だと、川上弁護士は考えている。

本当に必要なのは法整備

国会議事堂

shutterstock/Albert H. Teich

また同時に、配達員自身に労災保険の補償が及ぶよう、国の法制度を変えることも必要だという。

例えばフランスではシェアリングエコノミーのプラットフォームに対して、労働者が年間5100ユーロ(約62万円)以上を稼いだ場合、個人事業主など雇用関係の有無に関わらず本人の事故のリスクをカバーする保険をつけるよう、2018年から義務付けている。

「日本の労災保険制度(労働者災害補償保険法)は『労働基準法』上の労働者を対象としていますが、そこに必然的な理由はありません。

アメリカ・カリフォルニア州のように立法で原則労働法の保護対象にするという方法もありますし、フランスのように立法でプラットフォームに配達員自身が保護される保険の負担義務を課すことも考えられます。

企業が労働力で利益を上げているならば、危険があった時は負担を負わなければならないのは、労災保険制度の趣旨からして明らかです。

日本の現状が公平と言えるのか、社会全体で考えるべきです」(川上氏)

欧州ではデリバリー配達員が労組で団結

スマホ

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川上氏は2016年にウーバーイーツ が日本で事業をスタートさせて以降、配達員たちと関わり続けてきた。

自身も大学生時代に個人事業主としてバイク便のアルバイトをし、卒業後は3年間の派遣労働も経験。1カ月ごとに契約更新がある仕事もあり、経済的にも精神的にも不安定な働き方への疑問から、労働者が安全に働ける環境づくりの役に立ちたいと司法試験を志したという。現在は日本労働弁護団の事務局次長も務めている。

先日、ドイツで配達員の労組を運営する男性が川上氏の事務所を訪ねてきたそうだ。

ドイツ、イタリア、フランス、スペイン、ベルギーでは「ウーバーイーツ 」「デリバールー」「フードラ」などフードデリバリー3社の配達員の労組が各国にあり、年1度の国際会議も開いているという。

ちなみにドイツの労組の組合員は10数名ほどで規模は大きくない。しかし、その影響力は確かにある。賃上げなど毎年1つ要求事項を決めて配達員から署名を集めて企業と交渉しているそうだが、こうした申し入れに対して企業側が「ゼロ回答」だったことはないそうだ。

amazon

ウーバーだけでなく、アマゾンも個人事業主としてアマゾンフレックスとして配達員を募集している。

出典:アマゾンフレックスHP

一方で深刻なのは、男性が把握しているだけでも2018年にヨーロッパで12人の配達員が配達中の事故で死亡していることだ。背景には、危険な運転を選ばざるを得ないような報酬制度の問題があるとも報じられている。

川上氏は「日本でも(個人事業主の)“配達員”の死亡事故がすでに起きていても不思議ではない」と見ている。ウーバーイーツだけでなく、アマゾンフレックスや多くのバイク便で、配達員は同様の働き方を強いられているからだという。事故の現状把握も困難なのが現状だ。

配達員の事故の事例を集めたいと思っているのですが、職場がないため難しい。実態把握をするためにも、ユニオンのような横のつながりが大事だと考えています。

2016年のサービス開始時にはなかったような距離の計算の誤りが増えるなど、配達員が増えサービスが軌道に乗るほど、企業側のいいように仕組みが変えられていく傾向が日本でもすでに起きている。労働者が企業と交渉できる仕組みが必要だと思います」(川上氏)

(文・竹下郁子)

Business Insider Japanでは個人事業主の働き方についての取材を進めています。記事にあるような配達員の方で不安を抱えている方、ご意見や情報提供をお待ちしています。ikuko.takeshita@mediagene.co.jp

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