スマホ中毒はこう防ぐ。グーグル流「テクノロジーとの良い付き合い方」サムイ島で学んできた

Digital Wellbeing Summit

グーグルは「Digital Wellbeing Summit」を、リゾート地として知られるタイ・サムイ島で開催。会場にはアジアなどの地域から記者やインフルエンサーが訪れた。

撮影:小林優多郎

グーグルやアップル、Facebookなどの大手ITプラットフォーマーが「デジタル・ウェルビーイング(Digital Wellbeing)」などの呼称で「テクノロジーと人の付き合い方を見直そう」と声をあげ始めている。

Pixel 3

日本でも2018年11月から発売となったグーグルの「Pixel」シリーズ(写真は「Pixel 3」)。

例えば、グーグルは同社のスマートフォン「Pixel」シリーズや「Android One」シリーズの端末に対して、「Digital Wellbeing」という名称の使用状況管理機能を提供。アップルがiPhone/iPad向けに提供している「Screen Time」なども、同様の取り組みの1つと言える。

FacebookはスマートフォンのOSやPCを展開していないため、利用時間を管理したり、特定の時間にアプリの利用を制限する機能は提供していないが、ファミリーアプリである「Instagram」では、自分の投稿以外の「いいね」の数が表示されなくなるなど、利用動機の見直しがはかられている(日本を含む7カ国でテストを実施中)。

なぜ、大手ITプラットフォーマーは、自らのサービスとユーザーの距離を広げる試みをするのか。グーグルがタイ・サムイ島で開催した「Digital Wellbeing Summit」で、取り組みを体験してきた。

「テクノロジーとのよりよいバランス」を求める声

アプリタイマー

グーグルの提供するDigital Wellbeing機能は、アプリやスマートフォン自体の利用時間を管理できる。

Android向けDigital Wellbeingの機能をおさらいすると、代表的な機能は以下の通りとなる。

  • ダッシュボード:1日ごとの端末の総利用時間、各アプリの利用時間、ロック解除数、通知の数などがわかる
  • アプリタイマー:アプリ別に1日ごとの利用時間を設定できる。利用時間を超えるとアプリの起動ができなくなる(その場で利用時間の変更や解除は可能)
  • おやすみモード:指定した開始時間から指定した終了時間(もしくはアラームの時間)まで画面をグレースケールにしたり、通知をオフにする

Rose La Prairie氏

グーグルで、Android向けDigital Wellbeingのプロダクトマネージャーを務めるRose La Prairie氏。

こうして機能の詳細を見ると、いずれも「スマートフォンの利用を制限する機能」に見える。

しかし、グーグルにとってスマートフォンは自社サービスや広告ビジネスにユーザーを誘導するための重要な入口のはずだ。

なぜ、わざわざその間口を狭める機能に注力するのだろうか。Android向けDigital Wellbeingのプロダクトマネージャーを務めるRose La Prairie氏は、筆者の質問にこう答える。

「私たちが世界中で行っている研究をさかのぼると、JOMO(Joy of Missing Out)に関するリサーチで、人々がテクノロジーとのより良いバランスを望んでいることや、不満な点があることがわかってきました。

GoogleはAndroidの観点から、ユーザーのニーズと人々が呼び起こしている懸念について対処する、深い責任があると考えています。

人々がテクノロジーとのより良いバランスを求めているのであれば、私たちは、人々がそのバランスを達成できるような製品を構築したいのです」(Prairie氏)

JOMO(Joy of Missing Out)とは、直訳すると“あえて見逃すことの喜び”のこと。リラックスや自分自身を見つめ直す時間を増やすために、スマートフォンを使う時間を減らしたり、使い方を変えるという考え方だ。

スライド

世界で寄せられたメッセージの中には、「私の電話は独裁者だ……」という声もあった。

スマートフォンでの例にしぼれば、日本では「SNS中毒」というワードで言われる概念に近い。特に用事もなく通知も来ていないのに、夜に何度もSNSを確認してしまう現象や心境を減らすことも、このJOMOの範疇に入る。

グーグルは自社のミッションを「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすること(to organize the world’s information and make it universally accessible and useful)」としているが、 Prairie氏は「(ミッションの中で)私にとって、最もワクワクして楽しい単語は“使えるようにする(useful)”だ」としており、Digital Wellbeing担当のプロダクトマネージャーとして、「ユーザーが必要としているものを考えることに、時間を費やしている」と話している。

対応端末が限定的な理由

スライド

グーグルのDigital Wellbeing機能は、現状PixelシリーズやAndroid One向けに提供されている。

なお、前述のとおりAndroid向けのDigital Wellbeing機能は、Pixelシリーズ(日本では「Pixel 3/3 XL」「Pixel 3a/3a XL」)か、Android One向けにのみ提供されている。グーグルがそのミッションを果たすためには、すべてのAndroid端末向けに機能を提供する必要があるはずだ。

そもそも、Digital Wellbeing機能は特定のハードウェアに依存した機能ではない。だから、アプリとしてGoogle Playで配信することも可能ではないか。

こう聞くと、Prairie氏は「(Digital Wellbeing機能の実装には)デバイスメーカーとの協力が必要不可欠」と話す。

「このような仕様になったのは、Digital Wellbeingアプリの機能によるものです。Digital Wellbeingアプリは、あなたがどれだけ(他のアプリに)時間を費やしているかを示すAPIを、確実に取得できるようにするためのアクセス許可を持っています。

これらのアクセス許可は、デバイスのシステムイメージに含める必要があります。例えば、アプリタイマーではアプリを一時停止したり閉じたりしますが、Google Playで配布できるアプリではそのような動作はできません。そのような挙動をするアプリを信頼できるか確認する必要があります。

だからこそ、私たちはすべてのパートナーと協力して、彼らにDigital Wellbeingの体験を各自で構築してもらうか、グーグルが提供する機能を採用してもらわないといけません」

Google Playキャプチャ

Digital Wellbeing機能は、その利用するAPIや有する機能ゆえに、メーカー側との協力が必要。

出典:グーグル

実際、中国のHMD Globalが展開するNokiaブランドや中国のスマホメーカー・OnePlusの製品では、正式もしくはベータ版という形でグーグルのDigital Wellbeing機能を採用。サムスンやファーウェイの一部端末では各自のDigital Wellbeing機能が展開されているという。

単なる“制限機能”とは違う

Tech-Free Zone

だが、いきなり“スマホゼロ”もしくはそれに近いの生活や仕事なんて想像できない、というのが本音(写真はDigital Wellbeing Summitに設置されていた「Tech-Free Zone」)。

とはいえ、スマートフォンを仕事でもプライベートでも“なくてはならない”ほど使い倒している人ほど(筆者もそのひとりだ)、このDigital Wellbeingの機能を受け入れるのには抵抗があるだろう。

そう考えながら半信半疑で訪れた「Digital Wellbeing Summit」だったが、参加してみて筆者が感じたのは、グーグルのDigital Wellbeingはシンプルな制限機能とは違う、ということだ。

まず、“制限機能がある”と書いてきたが、Digital Wellbeingには、実際のところ強制力のある制限機能はほぼない。

おやすみモード

例えば、おやすみモード有効時、解除は通知領域から一発で完了する(写真は実際の画面のイメージ)。

子ども向けの携帯電話やフィルタリング機能では、実際の利用者である子どもが操作できる内容はかなり限られているが、グーグルのDigital Wellbeing機能のほとんどには解除までの導線がしっかりと用意されている。

例えば、夜中に設定した時間におやすみモードがオンになったとしても、通知領域を引き下げて「おやすみモードをオフ」のボタンを押せば一発で元の状態に戻せる。

「どうせ解除してしまうなら、そんな機能はいらないのでは」と考えてしまうが、実際に使ってみるとそうでもない、と筆者は感じた。

ダッシュボード

写真は筆者のある週のスマホの利用状況。

グーグルのDigital Wellbeing機能に備えられたダッシュボードもアプリタイマーもおやすみモードも、言ってみればすべては“気付き”のための機能だ。

画面がグレースケールになれば「もう寝ないといけない時間か」と布団に入り、アプリの動作が止まれば「こんなに時間を費やしているのか」と実感した。

また、ダッシュボードをチェックしたときに、仕事でメインに使っている「Slack」や「Googleドライブ」の利用頻度が高いと、平日には「今日もがんばった」と少し満足げに感じる一方で、逆に休日にこれらの時間が長いと、ハッとさせられる。

そうした気付きが必要な人にとって、つまり、あなたが自分の生活バランスや人生の幸福度に疑問がある、見直したいとどこかで思っている人なら、Digital Wellbeing機能を試してみる価値はある。

逆に言えば、とくに生活に問題や不安がないと感じている人には、この機能をオンにする必要性はさほど感じられないかもしれない。

“使いこなす”の真の意味が問われる

クルージング

夏休みシーズン到来。旅行先でキレイな写真がたくさん撮れたとしても、実は、一番見ていたものが景色や友だち・家族ではなくスマートフォンだとしたら?(写真はイメージです)

筆者は10年以上前の高校時代に、情報の授業の中でパソコンの使い方を学んだ。そのときに学んで今でも使われている言葉の1つに“情報リテラシー”がある。「情報リテラシーが高い人」というと、それはパソコンやインターネットをうまく使いこなしている人という意味だと、生活を通じて何となく信じ込んできた。

でも、それはあまり正確な認識ではなかったと、今になって思う。

このわずか10年の間にインターネットを使ったサービスは激増し、スマートフォンはそれらの入口となり、高性能カメラや万能辞書、持ち歩ける本棚や財布の代わりとなってきている。まさに生活必需品だ。

そんな生活必需品をどう使うか、どう自分の人生に役立たせるか。

今後もどんどんテクノロジーが生活に浸透していく中、「情報リテラシーが高い人」というのは、「テクノロジーに支配されず、コントロールできている人」を指すようになるのではないだろうか。

(文、撮影・小林優多郎 取材協力・グーグル)

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