【吉本騒動】「反社会的勢力」とはそもそも何か? 暴力団“以外”の見きわめが難しい

吉本会見

吉本興業の芸人らの騒動でにわかに注目を集めている「反社会的勢力」。

撮影:今村拓馬

吉本興業所属の宮迫博之さんらが振り込め詐欺グループのパーティーに参加して金を受け取った問題が表面化して以降、「反社」(反社会的勢力)という耳慣れない言葉がニュースに頻繁に登場するようになった。

そもそも反社とは誰を指す言葉なのか。そして、企業はなぜ反社対策をしなければならないのか。

専門家らに話を聞くと、企業側の対策は近年、困難さを増しているという。

反社のあり方が多様化し、反社と一般、あるいはヤクザとカタギの境目が見えづらくなっているからだ。

警察にも見分けるのは難しい

「法律の目をかいくぐる個人・団体が多くなっているため、だれを反社とするかは、警察にとっても難しくなっている」

警察庁キャリア出身で、危機管理を専門とする「Y's LAB」(ワイズラボ)を経営する屋久哲夫氏は、こう話す。

入れ墨をしていたり、顔が怖かったりするからといって、ただちに暴力団員というわけではない。

暴力団対策法で各都道府県の警察が指定した組織は、「指定暴力団」と呼ばれている。ときどきニュースになる六代目山口組や、稲川会、住吉会といった組織が指定暴力団にあたる。警察白書によれば、2018年6月の時点で24団体が指定されている。

指定暴力団の内部で活動をしている人たちが「構成員」と呼ばれる。直接の組員ではないが、周辺で活動をしている「準構成員」と呼ばれる人たちもいる。2017年末時点の警察庁のまとめでは、構成員と準構成員をあわせて、3万4500人が認定されている。

この構成員と準構成員が狭い意味での「反社」にあたる。構成員や準構成員については、警察もおおむね個人を特定し、データベース化しているようだ。

吉本興業に所属し、2011年に引退した島田紳助さんは、この指定暴力団と長期の交際があったとされる。

「反社」の定義は広い

吉本会見

出席したパーティーが反社会的勢力のものとは知らなかった、と語った宮迫さん。

撮影:今村拓馬

しかし、反社という言葉はさらに広がりがあるため、事態はややこしい。

表向きは暴力団とは一定の距離を置く普通の企業を装いつつ、実は暴力団の資金集めに協力する企業もある。あるいは、暴力団とは距離を置く元暴走族のメンバーらが組織する「半グレ」と呼ばれる集団もある。

暴力団の構成員や準構成員は年々減っているが、その代わりにグレーゾーンにいる人たちが増え、警察にとっても今まで以上に実態がつかみにくい状況が生じている。

企業はなぜ反社対策に神経をとがらせるのだろうか。

その理由は、10年ほど前から全国の都道府県で施行された暴力団排除条例(暴排条例)の存在だ。東京都では2011年10月に施行された。

条例は、暴力団を恐れない、金を出さない、利用しない、交際しないという理念で組み立てられている。

「興業」の運営に関与させないとの規定もあり、芸能事務所にとっては、影響の大きな条例だ。

吉本は半年に一度研修

吉本興業

吉本興業は、所属する全芸人・タレントにコンプライアンス研修を設けているという。

撮影:今村拓馬

このため、吉本興業は暴排条例が施行された8年ほど前から、半年に1度のペースで、6000人ほどが所属する全芸人・全タレントを対象に研修を開いている。

「コンプライアンスに関するお願い」という小冊子も配っている。小冊子には暴力団との関わりについて、次のような記述がある。

「暴力団関係者から酒・食事の席に誘われても、絶対に同席してはいけません。また、『小遣い』や『交通費』の提供についても断ってください。」

宮迫さんやロンドンブーツ1号2号の田村亮さんらが出席したとされるパーティーは、振り込め詐欺グループの主催だった。

吉本側は「事前に知らせてくれれば会社で“反社チェック”もできた」(大﨑洋会長)としているが、実際には極めて難しい実態がある。

警察庁は「暴力団排除等のための部外への情報提供について」という文書を公開している。

企業が取引先と契約を結ぶ際に、相手方が暴力団と関係する企業でないかなどを確認するため、警察が情報を提供する仕組みだ。

文書からは、情報の提供について、警察側の慎重な姿勢が読み取れる。

「暴力団排除等の公益目的の達成のために必要であり、かつ、警察からの情報提供によらなければ当該目的を達成することが困難な場合行うこと」としている。

「元反社の人」の社会復帰を阻みかねない

パチンコ屋

反社会的勢力の実態が見えづらくなってきている中、企業としてできることは?

Shutterstock / Nicolas Maderna

警察側にも、企業からの要請に積極的に応じるわけにはいかない事情がある。

屋久氏は「これだけ反社が糾弾される中、安易に情報公開することはレッテル貼りにつながり、元反社の人たちの社会復帰ができないと逆に反社を増やしてしまう、という見方もできる」と話す。

つまり「この人、反社ですか」という企業からの問い合わせに、警察が気軽に教えてくれるとしたら、暴力団から足を洗ってカタギになろうという人も、再就職がさらに難しくなってしまう、ということだろう。

タレントが参加するパーティーが、怪しげなものかどうかを判断するのも難しい。

事前に参加者のリストを入手して、1人ずつ新聞社のデータベースに氏名を入力し、出席者が刑事事件でニュースになっていないかを検索するぐらいしか方法がないのが実情のようだ。

確約書を書かせることがもっとも確実

好感度が売り上げに直結する芸能事務所や所属タレントにとって、反社チェックは死活問題と言えるぐらい重要だが、事前のチェックをするには限界がある。

現時点では、取引先との間に、反社との関わりがないことを文書で残しておく、誓約書を交わすことが、最低限の対策と言えそうだ。

屋久氏は「最も確実な方法は、表明・確約書を書かせることだ。警察も推奨しているのがこの対策だ」と指摘する。

今回の件について、反社会的勢力に詳しいジャーナリストの伊藤博敏氏は、こう指摘する。

「今回、芸人たちと付き合いがあったとされるグループが厳密な反社と呼べるかどうかについては、疑問がある。週刊誌に書かれたからといって、あいまいな基準で芸人に全責任を押し付けるのはやってはいけない。この際、吉本として、どんなグループと付き合ってはいけないのか基準を明確化する必要がある」

(取材・文、西山里緒、小島寛明)

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