あなたは意味のない「クソ仕事」をしてないか。山口周さんが提唱する「ニュータイプ」とは

『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか〜経営における「アート」と「サイエンス」』や『武器になる哲学〜人生を生き抜くための哲学・思想のキーコンセプト50』などの著書で知られる山口周さんの新刊は『ニュータイプの時代〜新時代を生き抜く24の思考・行動様式』。

ビジネスモデルだけでなく、何のために働くのか、という意識まで問い直されている時代。山口さんの言う「ニュータイプ」とは。

山口周さん

新刊の執筆の背景には、山口さん自身の経験、体感が大きく影響しているという。

撮影:竹井俊晴

浜田敬子(以下、浜田):Business Insider Japanの企画で、この5月から1カ月長崎・五島列島で行ったリモートワークの実証実験では、山口さんと参加者で「humanity(人間性)」について考えるセッションをしました。みんなほぼ初対面にも関わらず、それぞれの内面のかなり深い部分を語りましたよね。

それも、事前の課題図書として山口さんの新刊『ニュータイプの時代〜新時代を生き抜く24の思考・行動様式』(以下、『ニュータイプ』)の草稿を読ませていただいていたからかと思います。山口さんの問題提起について考えることで、私自身、組織と自分のあり方、働くとは、仕事とは何か、を深く考えることになりました。

著書『ニュータイプ』で印象的だったのが「オールドタイプ」(従順で論理的で勤勉で責任感の強い、いわゆるこれまでの「優秀な人材」)が問題を拡大再生産しているということ、そして多くの日本企業には問題を解決する人は過剰にいるが、問題を発見できる人が少ないという部分です。 それから、「意味のない仕事=クソ仕事の蔓延」という言葉が強烈で刺さりました。

山口周さん(以下、山口):浜田さん、それ、ずっと言っていますよね(笑)。

「役に立つ」を追求しすぎると「役に立たなくなる」

『ニュータイプの時代−新時代を生き抜く24の思考・行動様式』

山口さんの新刊では、これまで“優秀”だと思われてきた人材が、「オールドタイプ」になると指摘する。

撮影:竹井俊晴

浜田:はい、日々、その蔓延を強く感じているので(笑)。改めて「クソ仕事」はなぜ蔓延しているのでしょうか。

山口:労働に関する需要が減っているにもかかわらず、労働の供給量が変わらないので、本来的な意義がないうえ、社会にとって意味のない「クソ仕事」に多くの人が携わっていると僕は見ています。

浜田:「自分の仕事の100%に意味がある」と胸を張って言える人ってどのくらいいるのかということですね。

そのクソ仕事は自分のキャリアの迷いにつながるだけでなく、社会に対しても悪い影響を与えてしまうということに深く共感しました。

山口:「役に立つ」を追求しすぎると「役に立たなくなる」と思うんです。

例えば、うちにあるテレビのリモコンには65個のボタンがあるんです。もはやどのボタンが何のボタンかわからない。他社との競争の結果、もっと機能を、と追求した結果、使われないものを作っている。

また例えば「8Kテレビ」。若い世代はテレビや映画はスマホで見るので十分なわけです。それなのに、テレビの画質競争をしている。この機能必要なのか、というところに大きなリソースを割いているわけです。 犬が1回回って「ワン」って言ったらごほうびがもらえた。だから、無自覚に100回回ろうとしているというだけのことじゃないかと。自分の仕事にどんな意味があるのか、それをやることで誰が喜ぶのか、ということまでは考えていないと思うんです。

浜田:なるほど。

文明の中にあるコントロールできない“野生”

薪ストーブ

スマートスピーカーに話しかければ快適な温度になるはずなのに、人はなぜわざわざ火をおこすことに魅力を感じるのだろうか。

Shutterstock/ guruXOX

山口:「役に立つものを作るのが文明化。意味をつくったり、人に生きがいを与えたりするのが文化」というケインズの言葉があります。 16世紀以降、日本は文明化に邁進してきたけれど、もう文明化はし尽くしたと。今は、近代的価値観の終焉に直面しているのだと思います。

薪ストーブを新築の住宅に入れる人が増えていると聞きます。ボタン一つで操作できるエアコンがあるのに、わざわざ薪を用意して、暖まるまでに時間がかかり、失敗すると煙が大量に出る薪ストーブを選ぶ。決して便利とはいえないのに。 実はうちにもあって、冷えてくると子どもたちが「火を入れようよ」と言い出す。家の中で火が燃えているのって、コントロールされている文明の中にコントロールされていない“野生”があるという不思議さがあって、それがいいんですよね。

浜田:ある意味、「OK Google」の対極ですよね。薪ストーブがいい人とスマートスピーカーでエアコンのスイッチを入れる人の違いはどこにあるんでしょう?

山口:センスがあるかないかということだと思います。 優れたアートや建築、クラシック音楽はおしなべて情報量が多い。

子どもの好きなものって情報量が少ないんです。例えば、宮崎駿監督の『ルパン三世 カリオストロの城』は影の付け方を細かく変えるなど情報量がすごく多い。一方、同じアニメーションの『それいけ!アンパンマン』シリーズは情報量が少ない。

センスのいい人は情報量の多い物を観て、ますますセンスを磨く。一方、センスがないと情報量の多い物は処理しきれなくて、日常生活でも情報量が少なくて手間のかからない便利な物を使いたいと思うのではないでしょうか。

より高級な車、より広いマンションという競争から降りた

鎌倉

わざわざ都心を離れて、通勤時間がかかる郊外に住みたいという人も。

Shutterstock/ numberwan

浜田:そう言えば、都心で働いているのに、わざわざ鎌倉や葉山に住む人も増えています。山口さんも都心から早めに移られましたよね?

山口:皮膚感覚に近いものなので言語化が難しいのですが、父が由比ヶ浜に住んでいたこともあって、昔から無性に惹かれるんです。 葉山の前は世田谷のマンションに住んでいました。かなり広くて駐車場にはポルシェやフェラーリが並んでいて。「ここまで来た自分を褒めてあげたい感」がありましたね。ただ当時、自分自身は不定愁訴があったり、帯状疱疹みたいなのになってしまったりして。

浜田:ストレスが体に出てしまっていたんですね。

山口: 自分の中でもKPI(企業目標の達成度を評価するための指標)を意識して、自分で頑張ってキャリアをマネジメントしていた。当時の自分の指標の一つは給料や役職だったわけですが、その方向を追求していっても幸福はない。地獄への螺旋(らせん)構造の競争からもう降りようと思ったんです。

浜田:その KPIはきりがないと気づいたんですね。

キャリア

給料や役職という指標でキャリアを追求しても、幸福はない。

撮影:竹井俊晴

山口:そうなんです。住む場所のランクを広尾から松濤に上げる、年収を上げる、乗る車のランクを上げる、子どもが通う幼稚園や私立小学校の偏差値を上げるとか。KPIでバリューカーブの足りないところを全て上げていくというゲームをやっているみたいで。

直感的にそこから自分を救おうとしたんでしょうね。それができたのはある種の嗅覚みたいなものがまだ残っていたのかな。

浜田:不登校になったりひきこもったりする人もある意味、社会に対しての嗅覚が鋭すぎるのかもしれないですね。

山口:KPI思考やオールドタイプ思考に適応できない人は不登校やひきこもりになり、適応しすぎる人は「オールドタイプ」になって時代から取り残される。

ニュータイプは「組織を越境」、自分の資本を移動させる

浜田: 『ニュータイプ』には「『問題が希少で解決策が過剰』という時代に突入している」と書かれています。しかし一方で、社会を見回せば子どもの虐待や高齢者の自動車事故、奨学金返済問題など、社会問題は山積みです。決して問題は「希少」になってないと感じるのですが、こうした問題が「見えにくくなっている」のか「気づけなく」なっているということなんでしょうか?

山口:難易度が低く、かつ、登ることで賞賛されてリターンがきちんとあるという山はことごとく登り尽くされているんです。あとは、そびえ立つ大きな山のみ。そこは、コストがかかるばかりでリターンにならない。

つまりよほどビジネスのセンスのある人でないと、今起きている問題は経済性と両立しつつ解決することはできないのです。そこにチャレンジする人が出てきたら、すげーかっこいいと思います。

浜田:なるほど。本当に解決すべき、解決したい問題は、企業が「経済的には割りに合わない」と感じれば手を出さないわけですね。とすれば、最後に残っている超難問はいったい誰が手を付けらるのでしょうか?政府や行政、NPOのような団体に頼るしかないのでしょうか。

ニュータイプの条件

「自分が組織間を越境し、さらには自分の中で資源を移動させなければならない」。

撮影:竹井俊晴

山口:本の中で、ニュータイプの条件として「組織間を越境する」という項目をあげました。

近代が終焉し、メカニズムが機能不全を起こしている今、政府には頼れません。自分が組織間を越境し、さらには自分の中で資源を移動させなければなりません。

例えば、貧困削減をめざすNPO法人「Living in Peace」は専従職員がいません。皆本業がありながら、NPOの活動は副業でしなければいけないんです。これは個人の中で社会資本をトランジットするということです。

浜田:働く時間の何分の1かをNPOなどの活動に費やすという方法ですね。

お金の使い方は“選挙”、どの企業を残すか選ぶ自由がある

山口:お金の使い方って一種の“選挙”だと思うんです。資本主義で自由主義経済の社会では、どの企業を残すのかを選ぶ自由は私たちにあります。 単に安いとか便利だからということより、将来的に生き残ってほしい企業にお金を回す、つまりそこの製品を買う。こんなふうに意識的にお金を使えるようになると個人の持つパワーを有意義に活かせます。

アウトドア衣料品メーカーの「パタゴニア」のミッションは地球環境の保全。これは非常に金がかかることで、そのために高品質なアウトドアグッズを高価格で売っている。ユニクロの3倍くらい高いけれど、僕はなるべくパタゴニアで買います。 なぜなら、パタゴニアには「パーパスアドバンテージ」「ビジョンアドバンテージ」があるからです。個人が経済的投資をする時には、そういうパーパスを掲げている会社の品物を選びたいし、多くの人にそうあってほしいと願っています。

多くの人は社会課題を解決するというと、企業のCSV(クリエイティング・シェアード・バリュー)について「課題の解決=直接的な経済的リターン」というビジネスモデルをつくろうとして、結局うまくいかないということが多い。でも個人レベルでは実はこんなふうに、いくらでもレイヤーがあるんです。

浜田:20、30代の人はファストファッションをどんどん買ってどんどん捨てる生活より本当に好きなものだけ買って大事にしたい、なるべくモノを持ちたくない、家も持たずにアドレスポッパーみたいにその時の生活レベルや気分によって住む場所も変えたいという人が多いです。仕事で一人勝ちのように成功して六本木ヒルズに住むより、世の中のために働きたいと考えている人も増えています。とても本質的だと思います。

山口:たしかに僕より若い世代、例えばメディアアーティストの落合陽一君はとても健全で地に足が着いた暮らしぶりです。いいジェネレーションが出てきたなと思います。

上の世代にも彼らみたいな思考様式や行動様式が波及して、お金を意識的に使い、意に反するものからはエグジットする人たちが出てきたら、世の中どんどん面白くなるだろうなと思います。この『ニュータイプ』は、そんなことを願って書いたマニフェストです。

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山口周:独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。1970年東京都生まれ。慶應義塾大学大学院文学研究科修了。電通、ボストン コンサルティング グループ、コーン・フェリー・ヘイグループなどで戦略策定や文化政策立案、組織開発などに従事。著書『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』は「ビジネス書大賞2018」準大賞受賞。

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