2018年9月、国連安保理の経済制裁に苦しむ北朝鮮が、首都・平壌で繰り広げた大規模な軍事パレード。背後に最高指導者の金日成主席と金正日総書記の銅像が見える。
REUTERS/Danish Siddiqui
韓国銀行(中央銀行)は7月26日、北朝鮮経済に関する年次報告書を発表した。主な内容は以下のとおり。
・2018年の国内総生産(GDP)はマイナス4.1%。1997年以降で最低
・鉱工業生産高の下落が著しく、とくに鉱業は前年比マイナス17.8%
・2018年の輸出額は前年比でマイナス86.3%の大幅減
2016年に3.9%増の伸びを記録した国内総生産は、2017年のマイナス3.5%からさらに下がって、マイナス6.5%を記録した1997年以降で最低となるマイナス4.1%だった。
【図表1】北朝鮮の実質国内総生産(GDP)の推移。ただし、2010年以前は5年ごとの数字を用いている。
Bank of Korea "Gross Domestic Product Estimates for North Korea in 2018"から編集部作成
安保理制裁で鉱業生産は「2割減」
2017年4月、平壌市内の地下鉄構内で撮影された市民の様子。国連安保理による制裁で、この時期すでに経済減速が深刻化しかけていたとみられる。
REUTERS/Damir Sagolj
2017年8月に国連安全保障理事会が採択した決議により、北朝鮮の主な収入源とされる石炭、鉄、鉄鉱石などの輸出が全面的に禁止された影響はあまりに大きかった。特に鉱業は2017年に続く2桁下落のマイナス17.8%を記録した。
【図表2】北朝鮮の産業別GDPの推移(2016〜18年)。
Bank of Korea "Gross Domestic Product Estimates for North Korea in 2018"から編集部作成
また、2017年12月に採択された国連安保理決議では、2018年1月1日から北朝鮮への石油精製品の輸出を約9割削減し、北朝鮮からの機械や電気機器の輸入も全面禁止。結果として、工業生産額はマイナス6.1%を記録した前年からさらに下がって、マイナス9.1%だった。
北朝鮮の産業構造は、鉱工業の稼働率が落ちた影響か、農林水産業やサービス業(公共部門)が微増した。
【図表3】北朝鮮の産業構造の推移(2016〜18年)。
出典:Bank of Korea "Gross Domestic Product Estimates for North Korea in 2018"から編集部作成
輸出額は「9割減」、しかし人口は「12万人増」
2017年9月、中国との国境に近い北朝鮮の街、新義州にて。1人当たりの国民総所得は13万円を切る勢いで下落が続く。
REUTERS/Aly Song
経済制裁に起因する上記のような経済の失速を受け、上昇基調だった国民総所得(GNI)も下落。1人当たりの国民総所得は142.8万韓国ウォン(約13.1万円)で、同年の韓国の1人当たり国民総所得のわずか4%程度だった。一方、人口は約12万人増えた。
【図表4】北朝鮮の国民総所得、人口、輸出入額の推移(2017〜18年)。2018年の韓国の数字を参考に付した。
出典:Bank of Korea "Gross Domestic Product Estimates for North Korea in 2018"から編集部作成
また、産業の停滞と同時に、海外への輸出額は前年比マイナス86.3%、わずか2.4億米ドル(約261億円)にとどまった。そのうち韓国への輸出は、1050万ドル(約11億円)だった。
なお、韓国銀行は独自の推計により、1991年からこの年次報告書を作成している。
(文:川村力)