韓国、釜山をブロックチェーン特区に。文在寅大統領は「国の生き残りかけた規制緩和」と発言

文在寅 韓国

2019年2月、電話会談する韓国の文在寅大統領。規制緩和は「死活問題」と断言。

South Korean Presidential Blue House via Getty Images

米中貿易摩擦の影響に加え、日本政府による半導体材料などの輸出管理厳格化で、経済状況の悪化が伝えられる韓国だが、一方で「逆転打」につながりそうな動きも見え隠れしている。

韓国政府は7月24日、同国第2の都市である釜山(プサン)広域市を規制緩和特区に指定し、観光や金融、流通、治安などの分野でブロックチェーン技術の社会実装に取り組む方針を明らかにした。

文在寅大統領はプレスリリースの中でこう述べている。

「工業化の時代における規制は、どんな選択をするかの問題にすぎなかった。しかし、私たちがいま身を置く第四次産業革命において、規制(緩和)は国家の生き残りをかけた死活問題なのだ」

複数の韓国メディアの報道によると、規制緩和特区の活用に向けて、釜山に拠点を置く以下のような企業が参加する。

BNK釜山銀行(BNKフィナンシャルグループ)

釜山 港湾

世界第5位のコンテナ取扱量(2018年速報値、国土交通省)を誇る韓国・釜山の港湾エリア。

Insung Jeon/Moment/Getty Images

金融分野の公式パートナーとして、「釜山電子バウチャー(BDV)」の発行や管理運営を担当する。バウチャーはプリペイド式の電子決済手段で、最近話題になったFacebookの暗号通貨リブラなどと同様のステーブル(安定的)コインの一種。法定通貨(韓国ウォン)と1対1で交換できる。

暗号通貨決済事業者と協力して、バウチャーを使うための新たなプラットフォームを構築する計画で、2019年中に作業を終え、翌2020年内にも日常的な預金や送金などに対応するという。

釜山銀行はバウチャーの他の通貨との交換業務はもちろん、行政による予算執行、行政区域の統合などへのブロックチェーン技術の導入も担当する。

ヒュンダイ・ペイ(現代自動車グループ)

現代自動車 ブロックチェーン

ブロックチェーン技術でも存在感を放つ現代自動車グループ。ただし、LGグループ、サムスングループも同様に研究開発を進めている。

REUTERS/Aly Song

韓国自動車大手現代グループの電子決済子会社。スイスで新規暗号通貨公開(ICO)を行って話題を呼んだヒュンダイコイン(Hdac、エイチダック)を発行するHdacテクノロジーと協働関係にあり、同社のブロックチェーン技術を活用したスマートシティ化推進について、両社と釜山は特区指定以前(2019年2月)に協力合意を交わしている。

規制緩和特区では、上記のスマートシティ化だけでなく、旅行客向けに交通機関や宿泊・飲食施設などでの割引サービスを提供するコリア・ツアーパスと組み、ブロックチェーン技術を活用した新たな観光サービスを展開する。

コインプラグ

韓国で暗号通貨取引所を運営する。ブロックチェーン技術を活用して、ソウル交通公社(ソウルメトロ)と観光プラットフォームの構築を進めたり、韓国郵政事業本部(コリアポスト)と郵便サービスの決済手段を開発したり、行政機関との先進的な取り組みを行っている。

規制緩和特区では、市民が交通事故や自然災害の現場で撮影した動画を投稿するアプリの開発を担当。関係当局が円滑に動画を確認し、対応スピードを向上させる仕組みを生み出す。投稿動画の信頼性の担保などにブロックチェーン技術を活用するとみられる

なお、コインプラグは2017年に、日本のSBIフィンテックソリューション(SBIホールディングス子会社)と共同で、韓国での国際送金事業を手がけるSBIコスマネーを設立している。

シグマチェーン

釜山 コンテナ

所狭しと並び積み上げられた釜山港のコンテナ群。貨物の追跡や畜産物の出荷管理などにブロックチェーンを活用する動きが活発化している。

penboy/Moment Open/Getty Images

法人向けのブロックチェーン実装サービスなどを手がける。同社のサービスを利用する100社以上の企業をネットワーク化し、さまざまな分野の企業が発行するコインやトークンを交換・売買できるマーケットを運営するサービスも運営している。

規制緩和特区では、世界5位の取扱量を誇る港湾都市・釜山の経済発展のカギを握る海上物流システムに、ブロックチェーンを実装する役割を担う。

釜山市はすでに2019年1月から、ブロックチェーン技術を活用した貨物追跡など、港湾業務を効率化するための実証実験に取り組んでいる。

自動運転特区なども同時に指定

今回、特区に選ばれたのは釜山市だけではない。

韓国中部の世宗特別自治市は「自動運転」、北東部の江原道は「デジタルヘルスケア」、東南部の慶尚北道は「次世代バッテリーリサイクル技術」など、7つの自治体がそれぞれ異なるテーマのもとで規制緩和措置を受け、技術開発や社会実装に取り組むことが決まっている。

日本の輸出規制措置により悪化する経済状況、元徴用工問題や北朝鮮問題への曖昧な対応で指摘される文政権の指導力不足など、日本では何かと「韓国の危機」的な報道が目立つが、「戦後最長の景気拡大」のぬるま湯につかったままで、ブロックチェーンのようなテクノロジーの活用促進に本腰を入れられない日本こそ、危機感をもつべきだろう。

(文:川村力)

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