在大阪ロシア連邦総領事館で「CLUBソビエト」を開催のFacebook上の告知。
Facebookより
在大阪ロシア連邦総領事館で「CLUB ソビエト」を掲げて、総領事館をディスコ化するというぶっ飛んだ企画が7月末にあった。しかも、ソビエトという旧ソビエト連邦の冠を付けている大胆なイベント。
「CLUB ソビエト〜ソビエトを知る音楽・映画・食のイベント〜」は2019年4、5月頃に突如、Facebookのイベント広告で表示され始めた。記者のようにロシアなどの関連ファンページを登録している人だけかとは思われるが、イベント紹介に「おそらく日本初!ロシア総領事館のクラブ化実現!」と出てきた。誰もが「本当かよ!?」と思うような言葉がうたってあり、瞬く間にイベントが話題に。すぐにチケットは完売した。
大阪郊外に総領事館の理由「その時は土地が安かった」
壁にかかっているオブジェ。
撮影・大塚淳史
7月27日のイベント当日、記者も取材のためにロシア総領事館のある大阪府豊中市へ向かった。総領事館は高級住宅街にあり、一見わかりづらい。ただ、近くには警察が四方を警備している。中に入ると、庭は日本式庭園、建物内部は中世ロシアを思い起こさせるような立派な内装だった。
札幌や東京でも勤務し日本在住歴20年を超えるリャボフ・オレグ総領事。
撮影・大塚淳史
大阪の総領事館は1976年に、豊中市に建てられた。
郊外にした理由を、リャボフ・オレグ総領事は、「その時は土地は安かったし、近くに伊丹空港があったからです。周りは自然豊かですし、大阪市内からも近いので仕事するにも便利です」と日本語で説明した。
今では毎月、クラシック音楽やバレエのコンサートなどのイベントを開催している。
イベント冒頭、オレグ総領事は、こうあいさつ。
「最近ソビエト(連邦)に関する関心が高まっています。ソビエトは崩壊したので、知っている日本の方は年配の方だと思います。このイベントを通じて、ソビエトとはどういった国だったか、ロシアに伝わってきた音楽と文化などを知って頂けたら」
コテコテ大阪弁のロシア人登場
大阪が好きだというミルチャさん。
撮影・大塚淳史
第1部はソビエト時代に関する文化のトークと音楽ライブ。まず、大阪在住歴8年のアントン・ミルチャさんが「映画を通してみたソビエト時代とは?」をテーマに話した。ミルチャさんは大阪市立大学の修士課程と博士課程で学び、現在は旅行関係の仕事をしている。あまりのコテコテの大阪弁に、思わず笑ってしまった。
次に、旧ソ連発の電子楽器テルミンと琴によるユニット「短冊」(テルミン・児嶋佐織さん、琴・今西紅雪さん)とパーカッション演奏家の田中良太さんによる音楽ライブ。
来場者の大変が始めて見るテルミンの演奏に興味津々。不思議な手の動きにあわせて独特の電子音が流れていた。
ディスクではなくテープを回すジョッキー
第1部最後は、音楽発掘家の四方宏明さん、在日ロシア連邦大使館付属ロシア人協会のカザントセヴァ・ヴェロニカさんによる「ソビエト・ディスコ」についての解説。
旧ソ連におけるディスコ音楽の普及の発信源は、現在のラトビア共和国と言われている。旧ソ連時代はアメリカや西ヨーロッパなど西側諸国の文化流入が厳しく制限されていた中、ディスクの持ち込みが難しかったがテープをこっそり持ち込んだりすることで広まっていった。
四方さんはいくつかの映像を紹介したが、中でも面白かったのがディスクジョッキー(DJ)ならぬテープジョッキー(TJ)。DJといえば、レコードなどディスクをターンテーブルで回して音楽を楽しませるはずが、ディスクを手に入れるのが難しいからか、テープを”回して”いた。有名なTJの「ミスター・テープ」の動画を紹介してれた。
ノリノリでCLUB ソビエト開催!
立食パーティーで振る舞われたロシア料理。
撮影・大塚淳史
第2部ではまず立食パーティーが行われ、一息をついた後にいよいよ「CLUB ソビエト」始まった。旧ソ連時代、80年代の音楽を中心に音楽が流れ、2時間以上にわたって総領事館がディスコと様変わり。参加者たちがノリノリで踊っていた。
ロシアは「恐ロシア(おそろしあ)」じゃない!
ディスコと変貌した在大阪ロシア連邦総領事館。
撮影・大塚淳史
この大胆な企画を発案した一人、古池麻衣子さんは、
「ロシア好きで年数回遊びに行っています。そして、総領事館で開かれているイベントにも参加しているんですが、1年前に、もっと面白いイベントできないかなあと思って、アントン(・ミルチャ)さんに話を持っていって、その後、ヴェロニカさんにも相談した中で、何がいいかなとなって『ソビエト時代の音楽でディスコはどうでしょう』となり、総領事に企画を提案したらあっさり通りました」
と思わぬ理由を明かしてくれた。そして、このイベントを開くために「関西ソビエト文化サロン実行委員会」を立ち上げて、この日の開催に繋がったという。
古池さんと一緒にイベントを作り上げたミルチャさんは、企画の意図をこう説明する。
「私が日本に来てから、日本ではロシアのことを『おそロシア』というイメージが強い。ウオッカ、プーチン(大統領)、寒い、とかそういう言葉が並ぶ。なんか違うなあ、そんな国ではないのに。そのイメージを変えていくとを考えていく一つに今回のイベントとなりました。ロシアって怖い国じゃないよ、おもろいよ、って伝えたい」
最近でこそ、日本に面したロシアの沿岸都市ウラジオストクやハバロフスクなどが、ビザを必要としなくなり(一部都市のみでモスクワなどはビザが必要。また電子申請は必要)、海外旅行先として人気が急上昇しているが、それでもロシアに対する印象はおおむねミルチャさんの指摘通りだろう。
ロシア人にとってのソビエト時代
愛知県から来たエリさんは旧ソ連時代のロゴが入ったTシャツを購入して参加。
撮影・大塚淳史
オレグ総領事が冒頭話したように、ロシアではソビエト時代の関心が高まっているという。36歳のミルチャさんにとって、ソビエトは身近だったという。
「私の世代はソ連時代に生まれましたし、まだ記憶がある。ソ連が崩壊後したもすぐに何もかもなくなったわけではなく、その価値観や文化が残っていました。私の中にもです」
今の日本人にはなかなか知る機会がない、ソビエト時代の文化について、今回のイベントを通じて紹介したかったのだという。
今回参加した人たちは、大阪からだけではなく、愛知県や京都府、兵庫県など各地から来ていた。総領事館の中に入ることができるから、踊るのが好き、ロシアが好きなど、参加した理由はそれぞれだ。
愛知県在住・30代男性の会社員タイジュさんは「ロシア総領事館の中に入れる貴重な経験ができる」と駆けつけた。同じく愛知県から駆けつけた40代女性の会社員エリさんは、わざわざネットで旧ソ連のマークが入ったTシャツを購入して着てきた。自身も趣味でテルミンをしているそうだ。
日本とロシアは現在も北方領土問題や平和条約締結をめぐり、政治面では難しい局面にある。一方で、そもそも日本人がロシアのことを知らなさすぎるというのも事実だろう。こういったイベントを通じて、ロシアに対する理解と親愛が深まることが、小さくても着実な、両者の前進なのかもしれない。
(文、写真・大塚淳史)