ヤフーvs.アスクル問題は親子上場「重大な制度的欠陥」、取締役協会声明を冨山和彦氏が解説

オフィス用品販売のアスクルと筆頭株主ヤフーの対立は、2019年8月2日に開かれた株主総会で、アスクルの岩田彰一郎社長の退任へと展開した。

ヤフーvsアスクル

Business Insider Japan制作

アスクルの個人向けネット通販サービス「LOHACO」の譲渡を、ヤフーが申し出たことから表面化した両社の対立は、支配的な株主による議決権行使という強力な手段が用いられた形だ。

ヤフー・アスクルの対立は、日産とルノー、日本郵政グループの問題にも重なる。

親会社と子会社がともに株式市場に上場している、いわゆる「親子上場」の場合、子会社の少数株主の利益をどう保護するかという問題だ。

LOHACOめぐり、親子の対立深まる

アスクルの定時株主総会の招集通知によれば、ヤフーはアスクルの株の45.13%を保有する筆頭株主だ。アスクルは、ヤフーの子会社にあたる。

ヤフーとアスクル2012年4月に業務・資本提携を締結し、ヤフーが筆頭株主になった。

アスクル側の2019年7月17日付開示資料によれば、2019年1月にヤフー側がアスクルに対して、LOHACO事業の「譲渡の可否」について、検討するよう要請があったという。

アスクルは企業向け(BtoB)のオフィス用品の通販で知られるが、ヤフーの傘下に入ったことをきっかけに、日用品などを幅広く扱う消費者向け(BtoC)ネット通販LOHACOを立ち上げた経緯がある。

アスクル側は、ヤフー側から突きつけられた事実上の譲渡要請を拒否した。

「ガバナンス上、重大な問題」

川邊健太郎

ヤフーの川邊健太郎社長。

撮影:小島寛明

これに対して6月27日、ヤフーの川邊健太郎社長が、アスクルの岩田社長に対して退陣を求め、8月の株主総会では岩田社長の再任に反対するとの意向を伝えたという。

8月2日に開かれた株主総会では、川邊社長が予告したとおり、ヤフーなどの反対で、岩田社長と独立社外取締役3人の再任が否決された。

しかし、このヤフー・アスクル問題に対して、日本取締役協会(会長・宮内義彦オリックス・シニア・チェアマン)はアスクルの株主総会を控えた7月30日、次のような声明を発表している。

「ヤフーとアスクルの間の社長再任をめぐる対立で、アスクルの社長候補の取締役を不再任にしただけでなく、同じ理由で、独立社外取締役まで全員不再任としたのは、親子上場企業のガバナンス上、重大な問題である。支配的株主の横暴をけん制するために存在している、独立取締役を緊急性も違法行為もない状態で解任できるならば、ガバナンスの基本構造が成り立たなくなる。」

同協会で副会長を務める冨山和彦・経営共創基盤CEOは「ヤフーが正しいとかアスクルが正しいということは、まったく関係がない」と、声明の狙いを説明する。

少数株主の保護制度化を主張

ヤフー

撮影:伊藤有

冨山氏によると、協会の声明は、支配的株主による少数株主の保護義務の制度化を促すことに狙いがあるという。

アスクルにとっての支配的株主は、ヤフーだ。少数株主は、ヤフーやプラスといった大株主を除く、一般の株主を指す。

アスクルのBtoC事業は2019年5月期に約652億円を売り上げている。LOHACO事業がアスクルからヤフーに譲渡され、事業の成長性が見込まれる場合、少数株主にとってのアスクルの企業価値は毀損される可能性がある。

日本取締役協会の声明は、こう主張している。

「この紛争当事者、関係省庁において、この紛争がコーポレートガバナンスの基本原則に即した事態収拾及び総括、そして再発防止に関する制度整備を行うことを期待する。特に支配的株主の少数株主保護義務については、ルノー・日産、本件と深刻な紛争が続いていることを受け、米国、英国、ドイツなどの先進事例を参考に、金融庁及び法務省に対して、迅速な制度整備を強く要望する」

アメリカ、イギリス、ドイツなどでは支配的な株主に対して、少数株主の保護を義務付けており、支配的株主が議決権を行使する場合、株主の「共同の利益」のために議決権を行使することが求められる。

したがって、「少数株主の保護義務」があった場合、ヤフーがアスクルの社長の再任を否決し、なかば強引にLOHACO事業の譲渡を受けたときは、ヤフー側の行為は、筆頭株主であるヤフーにとって利益になるのか、あるいは、アスクルの株主全体にとって利益になるのかが問われることになる。

冨山氏は「日本の法律上は、ヤフーは自分たちだけの利益のために議決権を行使してもいいんです。しかし、アメリカやイギリス、ドイツではだめ。親子上場のケースでは、支配的株主は、株主の共同の利益のために議決権を行使しないといけない」と説明する。

社外取締役の不再任は重大な問題

孫正義

ソフトバンクグループの孫正義社長は、今回のヤフーのやり方に「反対」という個人的な意見を述べたと報じられている。

撮影:小林優多郎

今回のアスクルの株主総会では、独立社外取締役3人の再任も否決された。

この点について前述の日本取締役協会の声明は「独立社外取締役まで全員不再任としたのは、親子上場企業のガバナンス上、重大な問題である」と、岩田社長の不再任よりも、独立社外取締役の不再任をより問題としている。

独立社外取締役の役割とはなんだろうか。6月28日付で経済産業省が策定した「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(グループガイドライン)」には次のような記述がある。

「上場子会社の独立社外取締役には、業務執行を監督する役割を果たすための執行陣から独立性に加え、一般株主の利益を確保する役割も期待されるため、親会社からの独立性も求められる。」

経産省のガイドラインは、アスクルの独立社外取締役は、岩田前社長ら会社の執行を担う取締役から独立したうえで、ヤフーからの独立も求めていると読める。

とすれば、ヤフー側の思い通りにならないアスクルの独立社外取締役3人を不再任とした、ヤフーの議決権行使には、法的な問題までは指摘できないとしても、「横暴な支配株主」との批判は成り立ちうる。

ヤフーは、ソフトバンクグループの企業だ。ソフトバンクの広報担当者は、アスクルを巡るヤフーの対応について、こう説明する。

「孫個人は投資先との同志的な結合を何よりも重視するため、今回のような手段を講じる事について反対の意見を持っておりますが、このたびの件はヤフーの案件でありヤフー執行部が意思決定したものです。本件はヤフーの独立性を尊重して、ヤフー執行部の判断に任せております」

冨山氏は「少数株主の利益を守るのは、独立社外取締役の仕事です。しかし、支配的株主と少数株主との間に利益相反性があるときでも、支配株主は独立取締役を選ぶことができるわけです。日本の制度には、そこに構造矛盾があります」と話す。

(文・小島寛明)

編集部より:ソフトバンクグループ広報の回答を追記しました。2019年8月5日11:55

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