愛知県で開催中の国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」でもその展示を巡り、大きな議論となった慰安婦を表現する少女像。今の日韓関係が悪化の一途をたどる背景には、慰安婦、徴用工問題をめぐる日韓の認識の差がある。
そんな中、ある慰安婦問題に関わる日本人団体が、いじめ問題の窓口として政府の委託を受けていたことが分かった。
ニューヨーク総領事館が入るビル。
撮影:筆者
その団体とは、慰安婦問題に関する「偏向教育」に反発する「ひまわりJAPAN」。ニューヨークに住む日本人で結成され、協力者にLGBTへの差別的な主張などが2018年に問題となった杉田水脈(みお)衆議院議員らがいる。
ニューヨーク総領事館が、現地に住む日本人子女のいじめ相談窓口業務を「ひまわりJAPAN」へ委託、本格的な運営が7月から始まった。
総領事館と連携するいじめ相談窓口は以前からすでに別のものがある。今回の委託は“屋上屋を架す”形となっている。ひまわりJAPANには委託費として総領事館から2020年3月末の契約終了まで、円換算で計約100万円が支払われる見込みだ。
いじめ窓口が3つ
サンフランシスコにある慰安婦を表す少女像。アメリカでは韓国系住民らの働きかけで、各地で少女像が建てられている。
Getty Images/Justin Sullivan
ニューヨークなどアメリカに住む日本人の子どもを対象としたいじめの相談窓口は従来、総領事館本体と、全米でいじめ相談を受け付けている公益財団法人「海外子女教育振興財団」(東京)があった。
しかし総領事館は2019年、「邦人子女に対するいじめの相談窓口委託事業」として別途「ひまわりJAPAN」と業務委託契約を結んだ。
ニューヨーク総領事館は「3カ所の窓口はすべていじめについての相談を受け付けていますので、相談者の都合に合わせてご利用下さい」としている。すでに窓口があるにも関わらず、同様の窓口を委託費を支払って別途設ける意図は判然としない。
アメリカには日本の大使館と17の総領事館と領事事務所があるが、いずれも海外子女教育振興財団がいじめ相談の窓口として機能し、相談内容に応じて総領事館などと連携して問題解決に当たっている。
「歴史問題に起因するいじめ」対象
ひまわりJAPANのHPには「嫌がらせ・いじめ」という項目がある。
ひまわりJAPANHPより
ひまわりJAPANは2018年度も総領事館から相談窓口業務を請け負っていた。ただ、2018年度の委託内容は「歴史問題に起因するいじめ」と対象が限定されていた。
ひまわりJAPANはニューヨーク、ニュージャージー両州に住む日本人女性らで2016年に結成され、「アメリカにお住まいの日本人の皆さまに、正しい日本の歴史と現在日本が置かれているさまざまな状況をお伝えし、未来を生きる日本の子供たちが日本人としての誇りを持って生きられるようサポートする」のを会の目的としている。
中国系や韓国系のアメリカ人による「歴史戦」「情報戦」が日本の子どもに対する「偏向教育、嫌がらせ、いじめ」となって現れていると主張する。
団体のウェブサイトには「歴史問題に起因する嫌がらせ、いじめ」として、「ニュージャージー州Fort Lee(フォートリー)市にある韓国スーパーに買い物に来た日本人親子(父と12歳の息子)が何を買おうかパーキングからスーパーに行くまで日本語で話していたら、突然韓国人の変なおじさんからつばをかけられ、びっくりしたお父さんは息子をすぐに車に乗せて逃げた」(原文ママ)などが掲載されている。
Fort Leeは韓国系の住民が多く、2018年5月には慰安婦碑の除幕式が行われた。これに対し、ひまわりJAPANは「市民の30%以上が韓国人という数と資金と組織力に完全に負けた」と指摘、「学校教育の中にも、韓国によって捏造された歴史があたかも真実としてアメリカ人の子供たちに着実に教えられ始めている」と反発している。
委託先は杉田衆院議員も応援
ひまわりJAPANの講演会に呼ばれた杉田衆院議員。
YouTubeより
こうした考えを持つ団体に、総領事館は「歴史問題に起因する嫌がらせ、いじめ」の窓口業務を2018年度に委託した。当時の選定に関し、外務省は「思想信条の自由に触れるところでは排除できないしチェックもしていない」(2018年10月8日付東京新聞)とされる。
ひまわりJAPANは結成後の2016、2017両年に「慰安婦問題」などをテーマに「このままでいいのか、日本!」と題する講演会を開いた。LGBTは「生産性がない」との寄稿が問題視された杉田水脈衆院議員も、2016年に駆け付けて講演している。
杉田議員の「LGBTは生産性がない」主張を掲載した『新潮45』はその後、休刊となった。
撮影:竹下郁子
杉田氏は保守派を自認し、「日本の国民の中にはこの強制連行があったなんてことを信じてる人はほとんどいません。でも世界中ではいまだにこの慰安婦問題というのは、ナチスドイツのホロコーストにも匹敵する戦争犯罪だと言われている。これはもうおかしいです」と国連で行ったスピーチの内容を説明。
「国連の委員の人たちってほとんど考えてないです、何も。そのNGO団体の人が言ったら言ったまんまを日本政府に聞いているわけです。これは嘘じゃないかって検証してみたりだとか、歴史的事実に本当にちゃんとあるのかなって見てみたりとか、そういうことを一切しないです」と持論を展開していた。
あいちトリエンナーレ2019HPより
慰安婦を巡っては、「あいちトリエンナーレ2019」で慰安婦を表現する少女像などを展示した「表現の不自由展・その後」が中止に追い込まれた。企画展に抗議が相次いだためだ。杉田氏も展示内容について、Twitterで「あまりの酷さに言葉を失います」などと投稿していた。
開催に当たり、文部科学省からあいちトリエンナーレ実行委員会への助成金の交付が決定済み(未交付)で、杉田氏は「公金が使われるのに、誰も責任をとらない」と文科省を追及する構えを見せている。
一方、ニューヨークではその公金、月1000ドルの業務委託費が総領事館からひまわりJAPANへ支払われることになっている。その委託前から窓口を担ってきた海外子女教育振興財団も、適宜相談内容を総領事館に報告することとなっている。
すでにあるいじめ窓口に加え、あえてもう1つ作る必要が果たしてあったのか —— 。
この委託は、2020年3月末まで続く見込み。公金を使っている以上、委託先選定のプロセスや各窓口の違い、複数あることの利点など、合理的な説明が求められるだろう。
これに対し、外務省側は「海外子女教育振興財団だと、地域の細かい事情を把握できないこともあるだろう」とした上で、「どこに相談した方がより適切かは内容による。ただ、どちらに相談いただいても、適切に対応できるように必要な情報共有を図り、解決に向けて何かしらの対応をしていく点では変わりない。まず相談しやすいところに相談いただく」としている。
(文・山口健次朗)