HRテック SmartHRが上場視野に「30億円かけて採用する」理由

集合

左から、シニフィアン共同代表・朝倉祐介氏、同小林賢治氏、SmartHR・玉木諒CFO、同・宮田昇始社長、ALL STAR SAAS FUND・前田ヒロ氏、シニフィアン共同代表・村上誠典氏。

撮影:伊藤有

人事労務の業務をクラウド化して負担を効率化する注目のスタートアップ、SmartHRが7月に総額61.5億円の大規模な資金調達を発表したことが注目を集めている。

SmartHRは今回の資金調達をシリーズCラウンドとして実施。出資者の顔ぶれには、上場が視野に入ったベンチャーの出資を取り扱うファンドの姿も見える。

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SmartHRは2016年からの3年間で、累計81億円あまりを資金調達してきた。

Business Insider Japanで宮田昇始社長のインタビューを掲載したのは2018年4月。このときはサービス開始2年、累計調達額15億円という時期だった。当時でも導入は既に1万社を超えていたが、サービス開始3年半となった現在では、導入は2万6000社以上に増加。10万人規模の大型顧客にも採用されるようになってきた。宮田氏によると、1顧客あたりの売上単価もこの1年で2倍にのびているという。

会社一覧

導入を公表している主な企業一覧。メルカリなどの気鋭企業から、星野リゾート、小田急といった企業まで、採用企業の幅が広いことも特徴だ。

宮田氏曰く、SmartHRのサービス継続利用率は、99.5%に達するという。これは優良なクラウドサービス(SaaS、Software as a Service)の「一般的な継続率が98%」(宮田氏)と言われるなかで、相当に良好な状態だ。

こうした堅調なビジネスの状況を反映して、現在、SmartHRの評価額は数百億円とも言われるようになった。メルカリ、Sansanと注目のITベンチャーが上場していくなかで、「次のユニコーン企業(※)」になり得る1社と見る業界関係者も増えてきた。

ユニコーン企業:企業価値10億ドル(1065億円)以上の未上場企業のこと。

61.5億円の調達の半分は「採用」に投資

宮田氏

インタビューに応えるSmartHR創業者の宮田昇始社長。

61.5億円というSaaSスタートアップにしては大きな資金調達の使途は、人材採用と、マーケティング施策に使う。比率は「本当に半々くらい」(宮田氏)を考えている。従業員は現在約130名だが、今後2〜3年で300名規模にまで拡大すると見込む。

宮田氏は単独インタビューで、なぜ約30億円かけて「採用」に投資するのかを応えた。

採用にはこれまでも常に積極的だったが、今後重視する採用職種は主に3つだ、と即答した。

  1. 良いプロダクトがつくれるサーバーサイドエンジニアの採用
  2. カスタマーサクセス(CS。顧客支援)チームの強化
  3. 上場を視野に入れたコーポレートチームの人材強化

という3カテゴリーだ。

グラフ

人事の業務は、まだ効率化されていない業務が多数ある。SmartHRはIT化がほぼ手付かずだった「労務」や「社会保険」といった領域に着目し、人事担当の負担を取り除くサービスでビジネスを大きく伸ばしている。

「(新しいプレミアムプランなどの)プロダクトの売れ行きはすごく好調。お客さんのニーズをつかんでるので、“出せば売れる”というもの(企画)がいっぱいある。ただ、エンジニアの数が全然足りてなく、開発に踏み切れないのがもったいない。エンジニアをもっと増やしたい」(宮田氏)

と、成長余地の手応えには強い自信を持っている。

すでに社内でストックしている新サービス案は複数あるというが、現在の30人規模という開発体制では、そのすべてをサービスインできていない。

エンジニアに求めるスキルとして「とがった技術はそれほど使っていないが、良いプロダクトを作れる、サーバーサイド・エンジニアを求めている」と宮田氏は言う。

SmartHR

SmartHRの料金プラン体系。参考価格は、スモールプランで1ユーザーあたり月額550円〜となっている。

2つめは、エンジニアと合わせて、導入した顧客を支援してしっかり使ってもらうカスタマーサクセス(CS)チームの強化だ。CSチームに関しては当初、SaaSの世界の一般的な規模に比べて、意識的に潤沢に投資してきた。それがいま、「事業の伸長が早すぎて」(宮田氏)、一般的に適正な規模になってしまった、とも言う。

SmartHRのような提案型のサービスの場合、カスタマーサクセスチームの体制は、事業の成長に直結する。

「この分野の採用はもっとアクセルを踏むべきだと思ってます。一般的な基準の倍くらい(の人数規模)まで踏むべきだ、と」(宮田氏)。

3つめは、ストレートに株式上場(IPO)を視野に入れた人材だ。

「事業は国内向けにドメスティックにやっていくつもりですが、コーポレートチーム(企業広報、IR担当)はグローバル化が必要。今回の調達で海外投資家が入りましたが、将来IPOするとなると、海外の機関投資家が入ってくる可能性も全然ある」(宮田氏)

「採用に30億円」は数字をみると相当な規模に見えるが、この3分野の優秀な人材をそれぞれ満遍なく採用しきるには、これくらいの予算を覚悟しなければやりきれない、というのが宮田氏の考えだ。

気になる2社の子会社。なぜ「事業部」ではないのか

子会社

絶好調といえる成長を続け、4月にはオフィスも六本木一丁目に移転。同じビル内にはDMM.comなど注目企業が入居する。次の事業展開に向けてアクセルを踏み続けるなかで、気になるのが2019年に入ってから新たに立ち上げた2つの子会社の存在だ。

法人の名称は、今のところ、会議の効率化を手がける「Smart Meeting社」と、確定拠出年金を手掛ける「SmartHR Insurance社」。一見すると、「成功した事業ブランドの横展開」という、よくある風景に見える。

しかし、わざわざ別会社で、しかも、SmartHR Insurance社については、社名すらまったく別のものに変える可能性があるというのは変わっている。

クローズドベータ

SmartMeetingは現在クローズドβの事前登録の受付を開始している。

新規事業を別会社にした理由を宮田氏はこう説明した。

「僕たちは、組織のカルチャーを重視しています。製品やジャンルごとに、“勝てるカルチャー”は全然違う。HR領域でも、組織活性化を支援するあるサービスは、(SmartHRとは違って)導入したあとのコンサルが重要だったりします。そうするとコンサル重視の文化になっていく。

たとえばSmart Meeting社は(SmartHRとは違って)そちらに近いところがある。ツールを入れて終わりじゃなくて、お客さんの内情まで変えていく会社にならないといけない。

言語化が難しいんですが、SmartHRのカルチャーというのは、そういうものとは少し違う。“違うカルチャーが入り混じった時に、社内で不協和音が起きないように”というのが、会社を分けた最も大きな理由です」(宮田氏)

2つの子会社は、まず事業責任者として、フィンテックベンチャー・Kyashからジョインした重松泰斗氏(Smart HR Insurance社CEO)、大手人材関連企業出身の佐々木真氏(SmartMeeting社CEO)を招聘し、組織をつくりはじめたところ。具体的なチームビルディングはまだこれからだ。

こうした「次の柱」の種まきも含めて、いよいよ「上場」の2文字がチラつき始めたSmartHR。同社は資金調達会見の質疑の中で、IPOに関する考え方にも触れている。

「確定的な時期は申し上げられないが、IPOはあくまで企業が継続的に成長していくための重要な手段だと考えている。その重要なイベントの価値を最大化できるタイミングで(上場したい)」(SmartHR 玉木諒CFO)

編集部より:初出時から、料金体系の画像をアップデートし、差し替えています 2019年8月8日 12:10

(文、写真・伊藤有)

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