金委員長の視察写真から分析、北朝鮮「新型」潜水艦の危険度

金正恩委員長の視察写真から分析、北朝鮮「新型」潜水艦の危険度

KCNA / Business Insider


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  • 北朝鮮は金正恩委員長が建造中の潜水艦を視察する写真を公開。潜水艦アナリストのH・I・サットン氏は、建造はおそらく同国の東海岸で行われていると述べた。
  • 米朝関係が雪解けに向かい始めて以来、核弾頭の搭載が可能な兵器を金委員長が視察している写真は公開されていなかった。
  • サットン氏は、北朝鮮の「新造」潜水艦は1950年代の旧ソ連のロメオ型潜水艦によく似ていると指摘。さらに、溶接の仕上げの粗さから、アメリカや日本の近代的な潜水艦からの探知を避けることは難しいだろうと分析した。
  • 北朝鮮の潜水艦は本質的に1つのタスクしか遂行できない。韓国や日本といった近距離のターゲットに核ミサイルを発射すること。だがこれは、北朝鮮にとって自殺行為。

北朝鮮は7月23日(現地時間)、金正恩委員長が潜水艦を視察した際の写真を公開した。

核兵器の搭載も可能とみられる潜水艦の視察は、トランプ大統領が発した「炎と怒り(fire and fury)」という言葉に象徴される、約2年前の米朝関係が緊張していた時期を思わせる行動だ。

公開された写真の詳細な分析からは、ひとたびアメリカが北朝鮮と戦火を交えれば、多くの死者が出る事態となりかねず、また北朝鮮の現政権にとって自滅行為になることが改めて浮き彫りになった。

米朝関係が雪解けに向かい始めて以来、核弾頭の搭載が可能な兵器を金委員長が視察する姿が公開されたことはなかった。だが23日に公開された写真は、北朝鮮が今や暗礁に乗り上げた和平交渉に関して忍耐心を失いつつあることを示している。

写真には、潜水艦を建造中の工場を金委員長が視察する様子が収められている。この写真を見た潜水艦アナリストのH・I・サットン(H I Sutton)氏は、建造は北朝鮮の東海岸で行われているようだと述べた。

北朝鮮にとって、弾道ミサイルを発射できる潜水艦は、かねてからの悲願。しかし、国際的な制裁のため、その建造は難しいものだった。一方、アメリカやロシアといった国は、弾道ミサイルを搭載した潜水艦を保有することで比較にならないほど強大な抑止力を手にしている。

仮に敵国が、ある国が保有する核兵器の配備場所を突き止め、そのすべてを破壊したとしても、海面下に潜む潜水艦は最後の報復の一撃を撃ち込むことができるだろう。

北朝鮮はこれまで、潜水艦から発射するミサイルの発射実験を行ってきた。しかし、実際に海面下から発射可能なミサイルを配備したことはない。

公開された写真は、金委員長が念願の潜水艦配備に近づきつつあることを示しているように見える。とはいえ、写真に写った潜水艦の建造精度は低い。より能力の高いアメリカの潜水艦から逃れるためには、北朝鮮沿岸にしか配備できない可能性が高い。

金委員長の潜水艦工場視察の様子は以下。

潜水艦本体やパネルの仕上げは粗い。これらのパネルが何か有用なものを隠しているのか、あるいは単に仕上げが荒いだけなのかは不明。

潜水艦本体やパネルの仕上げは粗い。これらのパネルが何か有用なものを隠しているのか、あるいは単に仕上げが荒いだけなのかは不明。

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金委員長一行との比較で潜水艦の大きさが推測できる。おそらく幅11メートルほどだろう。

金委員長一行との比較で潜水艦の大きさが推測できる。おそらく幅11メートルほどだろう。

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北朝鮮が公開した潜水艦の写真

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シンクタンク「戦略・予算評価センター」(Center for Strategic and Budgetary Assessments:CSBA)のシニアフェローで、かつて潜水艦に乗務していた経験を持つブライアン・クラーク(Bryan Clark)氏は、金委員長が視察した「新造」潜水艦の外見は、ロシアのロメオ型潜水艦によく似ているとBusiness Insiderに語った。1950年代に最初に建造された型だ。

「北朝鮮は、033型(Type 033:中国で生産されたロメオ型潜水艦)を改造しているようだ。この型は、北朝鮮にとって運用実績がある唯一の潜水艦。艦橋に見せかけた発射装置に弾道ミサイルが搭載できるようにしたとみられる」

クラーク氏によれば、アメリカをはじめとする先進国では、巨大な円筒状の鉄板を溶接で接合して、潜水艦を建造する。だが、北朝鮮には小さく、平らな鉄板を溶接する技術しかないようだ。そのため、潜水艦は仕上げは粗く、多くの継ぎ目が見える。

潜水艦の世界では、このように表面の仕上げが粗いと、敵の探知を避けるために海面下に潜む能力が落ちるとされている。

フランスの最新のバラクーダ型(Type Barracuda)原子力潜水艦と比較してみてほしい。

フランス海軍の原子力潜水艦「シュフラン」(Suffren)。バラクーダ級攻撃型原子力潜水艦の1番艦。

フランス海軍の原子力潜水艦「シュフラン」(Suffren)。バラクーダ級攻撃型原子力潜水艦の1番艦。

REUTERS/Benoit Tessier

潜水艦からのミサイル発射は北朝鮮にとって自殺行為

北朝鮮のミサイル発射実験の様子。

北朝鮮のミサイル発射実験の様子。

KCNA

世界中の海をパトロールするアメリカやロシアの原子力潜水艦とは異なり、今回写真が公開された北朝鮮の潜水艦は、同国の沿岸を離れては活動できないだろうとクラーク氏はみている。核ミサイルを数基搭載し、沿岸から数マイル以内の領海内に配備される可能性が最も高い。

アメリカや日本の艦のソナーは非常に優秀で、北朝鮮の旧式のディーゼル・エレクトリック方式のような機関を持つ潜水艦であれば、容易に発見し、破壊することができる。

だが、国際法により、アメリカや日本の船は領海に入ることはできない。北朝鮮の潜水艦は沿岸にいれば、約10マイル(約16km)ほどの距離は確保できることになる ── あくまで、平時の話だが。

「潜水艦を自国の海岸沖の領海内に配備すれば、他国の船に攻撃可能な距離まで接近されないで済むかもしれない」とクラーク氏。

「10マイルほどの距離を取ることができる。ただし、それだけの距離があっても、アメリカや日本はこの潜水艦の動きを正確に探知できるだろう」

つまり、北朝鮮の潜水艦は本質的に1つのタスクしか遂行できない。韓国や日本といった近距離のターゲットに核ミサイルを発射すること。だがこれは、北朝鮮にとって自殺行為となる。

迎撃不可だが、潜水艦も生き残り不可

北朝鮮のミサイル発射実験の様子。

Ahn Young-oon/AP

北朝鮮が潜水艦から核ミサイルを発射した場合、迎撃はほぼ不可能。突然、海中から放たれたミサイルは、急加速して大気圏と宇宙空間の境目まで上昇する。そして数分以内に、ミサイルは世界で最も人口密度の高い大都市を破壊するだろう。

一方で、ミサイルが残した軌道をたどれば、発射時の潜水艦の位置を正確に突き止めることができる。

つまり、ミサイルの迎撃は不可能だが、潜水艦も生き残ることはできない。核攻撃を受けたとしたら、アメリカと日本の艦は北朝鮮の領海に入り、潜水艦の位置を突き止めて破壊するだろう。続いて、陸上にある北朝鮮の施設をターゲットとした攻撃が行われるはずだ。アメリカは保有する圧倒的な核戦力を北朝鮮に向けるだろう。

すなわち、北朝鮮がこの潜水艦を核攻撃に用いる可能性は極めて低い。それが分かっているとしても、クラーク氏は、北朝鮮の新しい潜水艦の乗組員にはなりたくないと述べた。クラーク氏は、この潜水艦の古い技術は、1967年式シボレーに乗って、オイル交換やエンジンチェックを一度もせずに、アメリカ大陸を横断するようなものと述べた。

いずれにせよ、北朝鮮の新しい潜水艦は、デス・トラップ(死の罠)のようだ。


[原文:Close analysis of Kim Jong Un's new nuclear-missile submarine reveals it's bound for a suicide mission

(翻訳:長谷 睦/ガリレオ、編集:増田隆幸)

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