吉本興業の経営アドバイザリー委員会で座長を務める川上和久氏。
撮影:小島寛明
芸人の闇営業など一連の問題を受け、吉本興業は、芸人・タレント自身が一定のマネジメントを担う「エージェント契約」を導入する。
雨上がり決死隊の宮迫博之さんが反社会的勢力との関わりがあったとされる問題をきっかけに、約6000人いる芸人の多くと書面による契約を交わしていないなど、さまざまな問題が明るみに出た。
吉本興業はまず、全芸人を対象に「反社会的勢力との関係を断つ」「差別中傷を排除」といった内容を含む、共同確認書を交わす。
さらに、マネージャーが営業やスケジュール管理などを一貫して担う従来の「マネジメント契約」や、新たな「エージェント契約」を導入し、仕事量など各芸人の事情に応じた契約を交わすという。
契約をめぐる吉本興業の方針は、2019年8月8日に開かれた経営アドバイザリー委員会の初会合で議題になった。
座長を務める川上和久・国際医療福祉大学教授は会合後の記者会見で、「エージェント契約は日本の芸能界ではほとんどなかったことだが、こういった形を進めていく。日本有数のコンテンツ産業として、これからはきちんとした契約が必要だ」と述べた。
全芸人と共同確認書
8月8日に開かれた経営アドバイザリー委員会の初会合。
提供:吉本興業
吉本興業が用意した契約の形態は、3種類ある。まず、全芸人と、「共同確認書」を交わす。確認書には次のような内容が含まれる。
- 反社会的勢力との関係を断絶する
- 教育を徹底する
- 営業先の確認を徹底する
- 守秘義務を守る
- 差別中傷を排除する
- あらゆる権利を尊重してマネジメントを行う
- この宣言を周知徹底する
6000人の中には、テレビのレギュラー番組を多数抱えている売れっ子もいれば、アルバイトなどで生計を立て、ほとんど舞台に立っていない芸人もいる。
川上氏は「署名をすることで、あなたは吉本興業のタレントですという形にする。NSC(吉本興業の芸人養成校)の卒業生を含めて、自分は吉本であると意識しておられる方を含めて、全員と共同確認書という形で契約を交わす」と説明する。
マネジメントかエージェントか芸人が選択
吉本興業は全芸人と共同確認書を結ぶと発表した。
撮影:今村拓馬
現在はほとんどの芸人と契約書を交わしていないが、吉本興業側は口頭で「専属マネジメント契約」を芸人と結んでいると主張している。
川上氏の説明によれば、このマネジメント契約は、会社側が次のような業務を担う。
- 芸能活動の仕事の獲得
- 報酬を含む契約交渉
- 報酬の請求・受領
- スケジュール調整や管理
- 広報
- マネジメント方針の立案
- 現場への同行
- 著作権などの管理
こうした業務の内容について、契約書で明文化したうえで、順次、書面を取り交わすという。「いままでどおりのマネジメント契約を書面で交わす」(川上氏)との位置づけだ。
さらに、いままでになかった形の契約として「専属エージェント契約」も導入する。
プロ野球選手やサッカー選手がアメリカやヨーロッパに移籍する際に、「代理人」と呼ばれる人たちが関わる。
この場合、代理人が選手とチームの間に立って、年俸や条件など契約の細部を交渉する。
吉本興業が設けるエージェント契約の場合は、吉本興業側がテレビ局などから芸人の仕事を取り、報酬を含む契約内容を交渉し、芸人に代わって報酬を受け取る、といったイメージだ。ハリウッドなど海外の芸能界でもエージェント契約が主流だという。
芸人のギャラ、増える?
個別の契約の内容次第だが、スケジュール調整や広報などについては芸人自身が担い、スタイリストなども芸人が個別に契約するといった形態も想定される。
エージェント契約の場合、芸人側の自主性が重視されるため、芸人側が担う仕事が増える一方で、事務所側の仕事は減る可能性がある。「個々の契約の内容次第だが、芸人のギャラの取り分が増える可能性は十分にある」(吉本興業関係者)という。
駆け出しの芸人を含むほとんどの芸人とは共同確認書のみを交わし、一定の仕事量がある芸人とは、それぞれの活動方針に応じて、マネジメント契約かエージェント契約のいずれかを交わすことになる。
(文・小島寛明)