ユニバーサル・スタジオ・ジャパン入り口にある定番写真スポット。日本人や外国人の来場客が記念写真を撮っていた。
撮影・大塚淳史
「遊園地なのに乗り物にあまり乗らない」「ひとりで遊びに来る」
いまや大阪名物になったユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)を、ちょっと違った楽しみ方で訪れる人が増えてきているという。
8月初旬、気温30度を超えるUSJを訪れた。筆者は、USJには2001年の開園当初から遊びに来ている。子供のころからハリウッド映画を見て育ったこともあり、好きなテーマパークの1つだ。
最後に訪れたのは5、6年前。確かに当時は今ほどインスタグラムは盛り上がっていなかった。来場者の楽しみ方が変わってきているのは本当なのか? そんなことを考えながら、USJの門をくぐった。
SNSの普及で楽しみ方が変化
夏休みとあって、平日にもかかわらず多くの来場客でにぎわっていた。
平日だったが、夏休みということもあり、高校生や大学生、そして子供を連れたファミリー層が多く訪れていた。中国、韓国を始めとした外国人旅行客も目立つ。やはりインスタ映え目的なのか園内のあちこちでスマホを使って写真を撮っている人たちがいた。
筆者のアテンドをしてくれたUSJマーケティング部の山地紘一さんによると、ここ数年で一番大きく変化したのが、「インスタ映え狙い」とも言える来園が増えたことだ。
「USJには、海外に行かなくても建物など非日常的な空間があり、Instagram(インスタグラム)などのSNS映えする場所として注目されるようになりました。思わぬところがインスタ映えスポットになっていますね」(山地さん)
意外すぎるインスタ映えスポット
USJにはスパイダーマンの人形、ハリー・ポッターのホグワーツ城など、誰からも「ここは写真スポットだ」とわかる場所がたくさんある。
しかし、山地さんによると、意外なインスタスポットもあちこちにあり、代表例としてスヌーピースタジオの紫色の外壁、コカ・コーラのボトルの巨大オブジェ、芝生、キティのハートマークなどを挙げた。
USJインスタ映えスポットその1(コカ・コーラのボトルの巨大オブジェ)
コカ・コーラのボトルの巨大オブジェの前で写真を撮る人たち。写真には写っていないが、順番待ちも数組。
USJインスタ映えスポットその2(紫色の壁)
自撮り棒(USJでは使用可能)を持って撮影をしていた神戸市在住の高校生2人組に、なぜこんな場所で撮っているのか聞くと、「友達がここがオススメと言っていました。紫色でシンプルに可愛い。今日は写真メインです」と教えてくれた。少なくとも、筆者が訪れていたころは、ここは特に人が集まるところではなかったはずだが……。ひっきりなしに高校生と思われる女の子たちがここにきて撮影していた。
USJインスタ映えスポットその3(芝生)
芝生で一生懸命、購入した飲み物とカチューシャを合わせて撮影していた、たまなさん(20)とあおいさん(20)。「カチューシャでハートマークを作って、その中に飲み物が入り込むように撮ろうとしていました(笑)」(あおいさん)、「ここの芝生で撮ると、青空も写るし、緑と青で映えますよね」(たまなさん)。単なる芝生が絶好の写真スポットになるようだ。
ドリンクもインスタ映え
もちろん飲んで美味しかった。
スパイダーマンは定番の記念撮影スポット
つり下がっているスパイダーマンの像の前は定番写真撮影スポット。もちろん、長蛇の行列。
服装やコーディネートもそろえて、インスタ映え?
USJに限らないかもしれないが、特に女の子同士が服やコーディネートをそろえている。これもインスタ映えのためらしい。
インスタ映えスポットになって人があふれるように
この一角には建物が並ぶものの、中には入れないので、筆者が記憶している限りではここに来る人はそこまで多くなかった。ところが、今やインスタ映えするからなのかこの通り。
ホグワーツ城はもちろん定番
ハリー・ポッターでおなじみのホグワーツ城の前は、もちろん人気撮影スポットとなっている。大阪在住のまいこさん(21)と神奈川県在住のみおさん(22)が記念撮影していた。みおさんは「絶叫系乗り物に乗れないので、写真を撮ったり、買い物をしたり、雰囲気を楽しんでいます」。まいこさんが「(みおさんが)USJの雰囲気が良いので入った時からムービーでめっちゃ撮ってました」と笑っていた。
やっぱりハリー・ポッターは人気
静岡からバスに乗ってやってきた、かつゆきさん(21)とちあきさん(22)。大阪に向かうバス内では映画「ハリー・ポッター」を見て気分を高めてきた。2人が着用している服はハリー・ポッターの劇中での制服を意識し、ネクタイはUSJ到着後に購入してコーディネート。
夕暮れ時も「ばえる」風景
また、取材にこたえてくれた人たちの大半は、(近畿在住ということもあるが)年間パスを持っていた。
実は、USJは年間パスが比較的安い。例えば、「年間パス・ライト」だと除外日が約70日あるが、大人で税込1万9800円と2万円を切る。大人の入場料が、12月までは7400円から8900円(USJはチケット価格が来場客の需要に合わせて変動するダイナミックプライス制を導入)。計算上、3回遊びに来れば元が取れる。
このUSJの巧妙な価格設定も、もしかしたら、気軽に遊びに来る人たちを後押ししているかもしれない。
大人でも「ライト」なら2万円を切る。ちなみに調べたところ、東京ディズニーランドの場合、大人の年間パスポートは6万1000円だった。
USJのホームページより
「男ひとりでもUSJは楽しめる」と“年パス”を買う人も
有休消化も兼ねて、ひとりでUSJを訪れていたじゅんさん。年間パスを2年前から購入している。
インスタで“ばえる”こととは違った遊び方として、「男性ひとりで楽しんでいる方も意外といますよ」と山地さんが教えてくれた。
男ひとりのUSJなんて、ホンマかいな?と思いながら、探し始めてわずか数分……本当にいた。ひとりで何かを待っている様子だった男性に声をかけた。
大阪府在住の会社員じゅんさん(37)は、午後1時半から行われる夏季限定の「ウォーター・サプライズ・パレード」だけを見るためだけに、有休消化も兼ねてひとりでUSJにやって来た。2年前から年間パスを買っている。映画がきっかけで人気キャラクターであるミニオンが好きになり、USJに来るようになった。
「月1、2回ペースで来ています。主な理由は大好きなミニオンを見るためですが、もちろんアトラクションも楽しみます。
(他に男性ひとりで来る人は見かける?)僕の周囲にはいないですが、同僚の方の20代息子さんとかは同じようにUSJをひとりで楽しんでるようですし、Twitterとかで同様の楽しみ方をしている男性はいるようです。(ここにたたずんでいたのは)パレードで出てくるミニオンが、この辺で止まると聞いたからです(笑)」
山地さんもミニオン好きで「ミニオンの映画を見れば、男性でもはまりますよ」と力説してくれた。
お目当てのミニオンが登場するパレードを見られて満足そうなじゅんさん。
パレードが始まると、じゅんさんはミニオンに向けウォーターガンを勢いよく飛ばして、ぬれながらも楽しんでいた。そして、パレードが終わると帰っていった。
じゅんさんは後日、なぜUSJをひとりで楽しむのか、わざわざメモしてメールで送付してくれた。
「USJの魅力は、
1. 非日常を体験できて仕事のストレスの発散など気分転換ができる
2. ひとりでもウエルカムな気分になる仕組みがある(シングルライダーという、連れがいても1人ずつ乗り物の空席に搭乗できる制度があり、待ち時間を短縮できる)
3. スタッフのサービスに心地よい気分にさせてもらえる
4. やって欲しいイベントをやってくれる」
ちなみにUSJの園内各所に立っているスタッフたちは、ひとりでいる人に積極的に声をかけるようにしているという。
四季折々の植物や花も楽しめる
園内にはさまざまな花が植えられている。
山地さんによると、他にもこういう楽しみ方をする人がいたそうだ。
「以前マーケティングで、来場されている方に話を聞いたのですが、70歳近い方ご夫婦が年間パスで来られていて、目的を聞くと『花だけを見に来ている』と言われていました。USJではバナナの花やバラなど、季節ごとに異なる花を見ることができます」(山地さん)
仕事帰りにふらっと立ち寄る男性もいるという。園内にはテレビ番組で紹介されるようなレストランもあり、洒落たカフェバーもある。こういった場所で楽しめるのも魅力なのかもしれない。
テーマパークといえば、乗り物にたくさん乗って楽しむのが当たり前と思っていたが、取材者目線で1日まわってこれだけの人が見つかるというのは、「今や必ずしもそうでもない」は本当なのだろう。
自分自身も10年以上前だが、年間パスを買ったことがあり、乗り物に乗らず園内のカフェでくつろぐためだけに、利用しようと考えていた。
仕事が忙しくて結局は実行せず、その後は大阪を離れてしまったが、そんなユルい楽しみ方もあり、なのかもしれない。
(文、写真・大塚淳史)