参院選では57議席を獲得。秋の臨時国会に向けて、閣僚人事、党人事に手をつけるとみられている。
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「8月中に行うことはないので、しっかり英気を養って」
安倍晋三首相は内閣改造について参院選後の自民党役員会でそう言及したという。
8月下旬に予定されている主要7カ国首脳会議(G7サミット)などの外交日程をこなし、臨時国会にむけて9月中旬ごろに内閣改造、党役員人事を手掛けるとみられる。
「サプライズがあるとしたら幹事長ポスト」と永田町関係者は話す。安倍首相を支える「3本柱」のうち菅義偉官房長官、麻生太郎副総理兼財務相については早々に留任を決心したとみられるが、二階俊博幹事長については交代説がささやかれている。
さらに焦点となるのは議長ポストと2020年の東京五輪だというが……。
ポスト安倍は「岸田さん」か「令和おじさん」か
参院選で派閥議員が相次いで落選した岸田派。「ポスト安倍」として名前が上がる岸田氏だが……。
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「令和の時代はここにいる岸田文雄さん」
令和に改元後、初となる国政選挙となった参院選での広島市内の応援演説で安倍首相は聴衆に呼び掛けた。広島市は安倍首相と当選同期でもある岸田文雄・自民党政調会長の選挙地盤で、参院選では岸田派(宏池会)最高顧問である溝手顕正氏が6回目の当選に挑戦していた。
だが、定数2のところ、地元自民党広島県連の反対を押し切り、党本部主導で自民党として2人目の新顔を擁立した結果、自民党内で票を食い合う事態に発展した。結果、溝手氏は落選した。
広島だけではない。山形、秋田、滋賀でも岸田派の現職議員は相次いで落選。
「選挙の顔にならない」
ポスト安倍と言われていた岸田氏は、その器に疑問符がつく結果となった。
一方で、参院選で存在感を示したのが「令和おじさん」こと菅官房長官。
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一方で存在感を示したのが「令和おじさん」こと、新元号の発表で一躍時の人となった菅義偉官房長官だ。
広島で当選した自民党の新顔候補、河井案里(あんり)氏の夫、河井克行衆院議員は「菅派」とも呼ばれる無派閥議員の中心人物の一人。克行氏は安倍首相とも近く、過去には首相補佐官も務めていた。そのため広島では菅氏は案里氏を全面支援し、一部では「ポスト安倍の前哨戦」とも見られていた。
菅氏は広島以外にも全国を飛び回り、維新、公明、立憲などと3議席を争った兵庫の新人候補を押し上げるなど結果を示した。
「サプライズがあるなら幹事長」
自民党は参院選で3年前を上回る57議席を獲得。党の顔、選挙の顔として面目躍如を果たしたのが二階俊博幹事長だ。二階氏は「日々、党の前進のために懸命に働いてきた」と幹事長続投に意欲をのぞかせる。一方で、永田町では「内閣改造・党人事でサプライズがあるならば幹事長だろう」という噂が飛び交う。
なぜか。
二階氏が率いる志帥会には新人議員として河井案里氏が名を連ねる。選挙前に菅氏から「幹事長に相談しなさいという話があった」ことが二階派への入会理由とされるが、夫・克行氏が実質の菅派メンバーというだけに「官房長官からのわかりやすいスパイだ」と二階派関係者は困惑の表情を浮かべる。
一方で、「首相の判断」との理由で、二階派入りが濃厚と見られていた初当選議員が首相の出身派閥である清和研に入会をしたことに二階派幹部は怒りを隠さない。
これまで安倍政権は麻生氏が相談役を務め、菅官房長官が行政府を抑え、二階幹事長が与野党の調整を行う3本柱体制で運営が行われてきた。しかし、ここにきて力関係に微妙な変化が生まれたことで二階幹事長の続投が危ぶまれている。
募る二階氏への不満、焦点は議長ポスト
80歳を迎えた二階幹事長。無所属議員や旧野党議員を次々自派閥に取り込むことに対しての党内の反発は根強い。
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二階氏の党運営は盤石だが、万全とは言えないものだった。党幹事長の連続任期は過去最長を誇り、通算でも歴代3位。一時、小沢一郎氏とともに新党を結成するなど自民党を離党。復党組ということを考慮すると、異例の長さともいえる。ただ、与野党をまたにかけた交渉など、バランス感覚は絶妙で、実力で勝ち取った地位とも言えるだろう。
党勢拡大のために無所属議員を自分の派閥に所属させ、のちに自民党に入党させるという剛腕を発揮。結果、選挙区が重なる議員らを中心に党内に不満はくすぶっていた。さらに、党内屈指の親中派としても知られ、中国との独自外交も展開。党内の親米派から外交姿勢を疑問視される状況ではある。
2020年に予定されている都知事選についても2019年3月の「全面的に協力する」という発言に続き、5月には「自民党が応援するのは当たり前」と早々に小池百合子知事への支援を表明し、党内に波紋を広げた。直近でも、旧希望の党で無所属だった長島昭久氏の自民党入党や細野豪志氏の二階派への入会という動きに反発もある。
二階氏は今年80歳を迎えた。健康に目立った不安は聞こえないが、「勇退」の文字がちらつく。引退の花道として浮上しているのが三権の長の1つである立法府の長、衆議院議長のポストだ。
現在、衆議院議長は大島理森氏が2015年4月から務めている。しかし、安倍首相の側近とされる萩生田光一幹事長代行が憲法改正を念頭に「今のメンバーでなかなか動かないとすれば、有力な方を議長に置いて憲法改正シフトを国会が行っていくのは極めて大事だ」として、大島氏の交代に言及。「有力な方」は与野党に力を発揮できる二階氏を指しているとみられる。萩生田氏の発言は二階氏を含め与野党から批判を招いたが、衆議院議長のポストに注目が集まったのは事実だ。
東京五輪は小池都知事で?
2020年夏に行われる都知事選。二階氏は「小池氏支持」を打ち出したが、地元である自民党都連は独自候補を立てるとしている。
撮影:今村拓馬
安倍政権にとって直近の懸案は2020年に控える東京都知事選挙だ。7月24日に開幕する東京五輪の開会中となる7月30日に小池都知事が任期満了を迎える。五輪への影響を抑えるため、都知事選は7月5日の投開票になるとみられてはいるが、当落に関わらず開会式は小池氏が担うことになる。
東京の顔となる小池氏の続投を容認するか否か。
自民党東京都連は独自候補の選定を進めているが難航が伝えられる。自民党が小池氏を支援するならば、二階氏に求められる役割は大きい。仮に二階氏を衆議院議長に据えてしまうなら、党人としての活動を制限することにつながり、都知事選で表立って動きにくくなり、自民党本部と都連が対立した場合の調整役が不在、ということになる。
自民党の幹事長職については参院選の汚名返上を図りたい岸田氏ら複数の名前が浮上しており、二階氏の留任を含め、首相の夏の宿題となっている。
竹内一紘:フリーランス記者。東京大学工学部都市工学科卒。元産経新聞社記者、自由民主党衆議院議員秘書。2017年の総選挙では希望の党の候補者を支援。著書に『希望の党の“あとに残った希望” 小池百合子「排除」の真相』。