日本版HomePod。音質の良さはピカイチだが、価格もその分高く3万2800円(税別)。その実力とは?
撮影:伊藤有
アップルのスマートスピーカー「HomePod」が、ついに日本上陸する。発売日や予約日に関して、現時点では「今夏中の発売を予定」という以上の情報はないが、間もなく登場する見込みだ。日本向けの価格は、3万2800円(税別)。
海外での発売開始に遅れること1年半、ようやくの日本向け対応。スマートスピーカーの世界では、アマゾンの「Echo」シリーズとグーグルの「Google Home/Nest Hub」シリーズがしのぎを削っている。率直に言って、アップルは出遅れ気味だ。
では、HomePodはどのような性能を持っているのだろうか? 実機で確かめてみた。
部屋のどこに置いても高音質、気が利く「自動チューニング」
HomePodのパッケージ。非常にシンプルだが、重量は約5kgと重い。店頭で購入して持ち帰る場合はカバンなどに工夫したほうが良さそうだ
HomePodは、他のスマートスピーカーに比べ、かなり大柄な製品だ。重量は約5kgとかなり重い。このことは、他のスマートスピーカーとの位置付けの違いを表している。
現状、スマートスピーカーの主流は、低価格でコンパクトな製品。各社の戦略が「いかに音声アシスタントを広げるか」という点に移行しているからだ。それに対し、アップルは違う戦略を採る。自社の音楽サービス「Apple Music」との連携を軸に、「高音質な音楽を楽しむこと」に特化して作られている。
HomePodを接続設定する過程で表示する画面。こうした画面が手順に含まれることも、Apple Musicとの組み合わせを推奨していることを表している。
Apple Musicは独自の「Apple Digital Masters」という仕組みを使い、高音質な配信を実現している。いわゆる「ハイレゾ」での配信ではないのだが、聴感上は大きな差がないよう工夫されている。HomePodは、このApple Musicの音質を最大限に活かせるように作られている。
そのため、音楽を再生した時の音質で比べれば、アマゾンやグーグルのスマートスピーカーに比べ、圧倒的に優れている。
システムとして非常にインテリジェントな作りになっており、それが音質の良さに直結している。
他社との違いとして、HomePodには音質の自動チューニング機能もある。
設置すると、HomePodはまず周囲に音を飛ばし、その反響を確かめる。反響の遅れから「自分の周囲のどこに壁があるのか」を把握し、それを加味して音質をチューニングする、という仕組みだ(チューニングは数秒から数十秒で終わるため、違いを体感するのは難しい)。
製品の梱包はシンプルで、説明書はほぼない。ただ、こうしたコンセントプラグ1つとっても、アップルがいちいちデザインをしていることがわかる(このデザインのプラグはアップルとしては珍しい)。
このチューニングは完全に自動で、HomePodを置き直すたびに行われる。そうすることで、部屋のどこにいても同じように良い音で聴けるようになっているのだ。
音の特性としては、特に低音についてはかなり効きが良い。ちょっと低音が効き過ぎて、日本の集合住宅では気になるかもしれない、と思うほどだ。
AmazonやGoogle以外、例えばソニーやパナソニック、Sonosなどからは、「音質重視」のスマートスピーカーが出ているが、それらと比較しても、HomePodは勝るとも劣らない。
しかも、HomePodには、2台を同時に使うことで、「ステレオスピーカー」になる機能もある(後述)。2つのHomePodを連携してホームネットワークに登録することで、左右それぞれのスピーカーとして動くのだ。
設定は「iPhoneから自動転送」、通話連動機能も
アップル公式サイトのHomePodの透視図。
出典:アップル
HomePodはとにかくシンプルな作りであることがポイントだ。すでに書いたように、音質などのチューニングはすべて自動。逆に、自動以外の設定項目はない。
オーディオ入力などの端子は一切なく、電源ケーブルしかない。ボタンはなく、操作は上部にあるタッチパネルで行う。それすらも音量調節くらいにしか使わない。
設定はとにかく簡単だ。
本体の近くに、一緒に使うiPhoneなどのiOS機器を近づけると、端末の画面に設定メニューが現れる。そこから数回タップすれば設定が終わる。ステレオ設定も同様で、2つめのHomePodを設定するだけのシンプルさだ。
HomePodの初回電源投入時に表示される画面。ちょうど、完全ワイヤレスイヤホンの「AirPods」を使い始めるときのように、画面下からポップアップで接続設定画面が現れる。このあたりのスムーズさは見事だ。
設定が終了すると、マイホーム画面に自動的に追加される。
HomePodは音声アシスタントとして、アップルの「Siri」を、ホームネットワーク連携には「HomeKit」を、音楽サービスとしては「Apple Music」を使っている。どれもiPhoneでは標準機能だ。利用するためのアカウント設定も、iPhoneから自動的に引き継がれる。
この過程には文字入力も一切なく、とにかく簡単だ。これほど設定がシンプルなスマートスピーカーは他にない。
もちろん音声入力は、ちゃんと日本語対応している。音楽再生の操作だけではなく、
天気やニュースなどを訊ねることもできる。HomeKitに対応しているネットワーク家電を制御することもできる。例えば、朝起きた時に「おはよう」と言うと、自動的に照明の明るさや色が変わり、音楽が流れ出す……ということもできる。
これはiPhoneやiPadのHomeKitでも可能なことだが、それがHomePodでもそのままできる、と言えばわかりやすい。
HomePodのカラバリ。2色で展開する。
現状、日本語を使った音声認識の賢さでいえば、他のプラットフォームに若干劣る印象もあるのだが、そこは致命的な問題ではない。
音声での対応については別の問題点があるのだが、それはあえて後ほど解説する。
スマートスピーカーの機能として、他社にない大きな利点は、
- 携帯電話の着信を受けられること
- メッセージ(SMS)連携ができること
などだ。
他のスマートスピーカーでもネットを介して通話する機能はあるが、それはあくまで「ネット通話」であって、携帯電話への着信ではない。HomePodでは、iPhoneに着信した通話を受けて、スピーカーフォンとして働く点が異なっている。
「iPhone+Apple Music利用者」でないと価値は生きない
このように、HomePodは実質的にiPhoneのコンパニオンといっていい作りになっている。音楽などの機能はiPhoneと独立して再生させられるが、Wi-Fi上で音楽を再生する「AirPlay 2」という機能を使い、iPhoneやiPadなどのワイヤレススピーカーとして使うこともできる。
アップル製品を持っている人、特にiPhoneの利用者には、これほど便利なスマートスピーカーはない。
一方で、そうした便利さは、アップルが想定した使い方をしている時だけに限られる。
まず、設定についてiOS機器がないと、最初のセットアップができない。AndroidやPCからだけでなく、Macからもセットアップできない。
次に、外部入力やBluetoothなどに対応していないこと。アップル製品同士なら「AirPlay」という規格で連動できるが、AirPlayはアップルの規格であり、他のOSは別途、「AirPlay対応の音楽プレイヤー」をインストールする必要がある。あくまで補助的な扱いだ。
最後に、「AppleMusic以外の音楽サービスが使えない」こと。意外とこれが大きい。
SpotifyやAmazon Prime Music、YouTube Musicなどの他社サービスが使えない。正確には、それらの他社サービスを使う時には、iPhoneなどから再生し、それをHomePodに飛ばして再生する必要がある。「HomePodに語りかけて再生」というわけにはいかない。
Spotifyで音楽を再生しているところ。再生先として、HomePodを指定することでAirPlay2で接続され、音楽が流れる仕組み。Apple Music以外の再生では、あくまで「端末の外部スピーカー」としてしか機能しない。これは、スピーカー単体でSpotifyなどが再生できるAmazon EchoやGoogle Homeなどと異なる部分だ。
要は、
- iOS機器を使っている
- Apple Musicに加入している
という条件を満たす人には最高の価値を発揮するが、一方でそうでない場合には価値が下がってしまう、という側面がある。
非常にアップルらしい構成だが、人を選ぶ製品とも言える。他の音楽サービスを使っていてApple Musicに移行するつもりがないなら、HomePodは選ぶべきではない。
最新の「ステレオモード」は煮詰め切れていない部分も
2台のHomePodを用意すると、左右スピーカーに割り当てて、ステレオ再生することもできる。ポップアップの写真も2台仕様に変わる。
最後にHomePodを2台使うステレオモードについて。
確かに音質はいいものの、コスト的にかなり負担が大きい。HomePodを2台買うと6万5000円近い出費になるが、それだけ支払うなら他のオーディオ機器を選ぶ、という選択肢もある。
また、筆者が試用した際には、若干安定性でも問題を感じた。具体的には、「iPhone上からはステレオに見えているのに、片方からしか音が出ない」という状況がしばしばあった。再セットアップすれば直るものの、安定動作の点でまだ洗練さが足りない印象を受ける。
2台で動いても、あくまで「2台が強調動作する」仕組みのため、片方だけ音量を変える操作はできてしまう。左右音量が一時的にアンバランスになったあと、少し経つと自動補正が入ってバランスがとれた音になる、という独特の挙動。
「音声で命令を与える」スマートスピーカーとして見た場合、他社のプラットフォームに比べ遅れている点も気になる。
アマゾンやグーグルのプラットフォームでは、音声を使ったアプリの開発競争が進んでいる。アマゾンのAlexaでは「スキル」と呼ばれるものだ。音声認識やそれに付随する情報サービスも重要だが、スキルの増加により、「プラットフォーマーが用意していないサービスとの連携」ができ、音声操作でできることが増えていくのが特徴だ。
だが、アップルのSiriをベースにしたプラットフォームでは、それがまだない。今後の進化によって対応する可能性はあるが、現状では見劣りする。
一方で、iPhoneと連携し、電話の着信やカレンダーの確認などができるのは魅力だ。
英語環境では、Apple IDのファミリーアカウントと連携し、家族の声を聞きわけて、「他人の情報や他人の好みの音楽が出てこないようにする」機能がある。日本語ではまだこの機能が動いておらず、残念だ。
その点を考えた上で、3万2800円(税別)という価格をどう考えるか。そこが選択のポイントだ。
(文・西田宗千佳、写真・伊藤有)