会計終了まで26秒! 超アナログ「からくり決済」。キャッシュレス時代にあえて「待つ」魅力

からくり決済

約20種2000パーツの機構を組み合わせた「からくり決済」。参考にするのは、YouTubeなどに出ているアニメーションだという。文字列が表現される前面は取り外し可能で、先々に改変もできる仕組み。

撮影:稲垣純也

スマホをかざせば一瞬でピッ!と完了するキャッシュレス決済。あるいは、店員さんと一言も交わさず買い物できるセルフレジ。「お会計」のシーンが急速に効率化・無人化する中で、まったく異色の会計マシンが登場し、話題になっている。

その名も「からくり決済」。約2000個の木工歯車を中心としたパーツで構成された、手作りの会計マシンだ。

右端の小箱の上に硬貨を置き、レバーをゆっくり下げると、硬貨が箱の中に落ちる仕組み。同時に、カタカタと歯車が動き出し、やがて前面にある8枚の板が1枚ずつ返り、ある文字列が現れる。最後に「チン!」とどこか懐かしいベル音が鳴って会計終了。この間、約26秒。

時間もかかる。手間もかかる。利便性とは真逆といえる斬新なコンセプトの会計マシンは、7月に東京・吉祥寺にオープンした「バツヨンビル」のコーヒーショップ内に設置され、8月に稼働する。オープン前に関係者向けに開かれたお披露目会では、「このためだけにコーヒーを買いに来たい」「外国人観光客にも評判になりそう」と大人も子どもも虜にした。

電気的な動きにはない魅力

鈴木完吾さん

鈴木完吾さん。知能指数(IQ)が高い国際集団「MENSA」の会員でもある。「たくさんの人に歯車を好きになってもらって、技術を残したい」と、歯車の種類や組み合わせ例を公開するサイト「からくりすと」(http://karakurist.jp)も運営。

撮影:稲垣純也

世界で一つの「からくり決済」を手がけた作者は、栃木県在住の26歳、鈴木完吾さん。自宅にある一室を作業場とし、オーダーを受けてから4カ月かけてこの作品を作り上げた。

形状や動きが異なる約20種の歯車を組み合わせ、繊細な動きを生み出す「機構」を作り、複数の機構をさらに組み合わせて、「文字板を返す」「ベルを鳴らす」といった一連の動きを設計する。ベースとなる設計はCADソフトを使って計算するが、2000ものパーツが実際にどう動くかを試すシミュレーションをしようとすると、高性能のMacがフリーズしてしまうという。

つまり、最終的な動きは、鈴木さんの頭と手によって決定される。

「電気的な動きにはない魅力がある歯車を使ったからくりが好きです。求められた動きを実現しながら全体を左右対称の形に整え、意匠にもこだわりました」

穏やかながら、静かな炎を秘めるように語る鈴木さん。

「世の中にないものをゼロから作りたい」

書き時計

鈴木さんが東北芸術工科大学在学中に卒業制作として発表した「書き時計」。制作期間10カ月。約400個の部品をすべて糸ノコギリで切削した。

提供:鈴木完吾

子どもの頃はシャープペンシルの改造や割り箸製のゴム鉄砲作り、折り紙に夢中になる工作好きな少年だった。世代的にはデジタルネイティブのど真ん中。それでも鈴木さんは、自分の好きなことに素直に夢中になっていた。

地元工業高校の機械科で学んだ後、東北芸術工科大学へ。当初は文房具などの商業デザインの道に進むつもりで、パソコン上での設計の研究に打ち込んでいた。しかし、大学2年生の時、先輩が制作していたからくり作品を見た時、根っこにある“工作好き”に火が付いた。

卒業制作で発表したのは、からくりの動きによって時刻が文字で書かれる「書き時計」。同級生がプロダクトデザイン中心の発表をする中での超アナログ作品は異色だったが、Twitter上で話題となり、卒業制作の展示には例年の3倍の来場者が宮城に集まった。

卒業後は自動車部品などを設計する会社に1年ほど勤めたが、「世の中にないものをゼロから作りたい」という思いが募って退職。2年前から「からくり時計作家」として活動を始めた。

「安定を捨てることには不安もありました。でも、若い時しか挑戦できないと思い切りました」

その精緻な設計力には業界も注目し、シチズンからの依頼で「美しすぎる耐久試験」プロジェクトに参画。現在、みずほフィナンシャルグループの広告でも、その活動が紹介されている。

店舗での気持ちを盛り上げる仕掛けを

からくり時計

からくり時計をオーダーした中西功さん。中西さんは貸し棚形式で個人の書店主を集めた「ブックマンション」も営む。

撮影:稲垣純也

鈴木さんをSNS上で有名にした「書き時計」に惹かれ、東京から見学に行った“鈴木ファン”の中に、今回の「からくり決済」をオーダーした中西功さん(40)もいた。

この春まで楽天の社員として個人店の支援をしていた中西さんは、「いつか鈴木さんに作品を作ってほしい」と熱望。吉祥寺・バツヨンビルの運営者として企画を練る中で、今回のオーダーに至った。

しかし、鈴木さんが過去に作ってきたのはすべて時計作品。なぜ「時計」ではなく「決済」をオーダーしたのか。中西さんの意図を聞くと、そこには「小売りの可能性」に賭ける思いがあった。

「小売業、中でもリアル店舗が生き残る道は、いかにその場で楽しく豊かなコミュニケーションを演出できるかだと思っています。物を買う時には、人は気持ちを高ぶらせるもの。その前向きな気持ちをもっと盛り上げる仕掛けとして、新しい会計の形を提案してみたかった」

お客さんは1組ずつ、記念撮影も楽しんで

中西功さん

吉祥寺で長年愛された老舗の洋食店「シャポー・ルージュ」の4階建てビルを改装し、7月にオープンした「バツヨンビル」。「からくり決済」は正面入口入ってすぐ、1階のコーヒーショップ内に設置されている。

撮影:稲垣純也

中西さんは、三鷹の「無人古本屋 book road」の仕掛け人としても知られている。店員がいない24時間営業の古書店で導入したのは「ガチャガチャ」を使った会計システムだったが、この風変わりな決済を楽しんでくれるお客さんの声が多かったことも、今回のからくり決済オーダーの理由の一つだったという。

「からくり決済は、1杯350円のコーヒー代のお支払いのために、お客さん自ら動かしてもらいます。からくりをじっくり楽しんで記念写真も撮ってもらいたいので、お客さんは1組ずつお店に入っていただく予定。もしかしたら“会計待ちの行列”ができるかもしれません(笑)」

今回初めて常設の実用品を納入した鈴木さんも、「歯車は動いている時が一番美しいので、道具として使われるからくりを制作できたのが、とても嬉しい」と笑顔を見せる。今後はより複雑な機構を組みわせたサイズの大きな作品に挑戦してみたいと意欲を見せる。

からくり決済の稼働は、曜日・時間帯を限定する予定。営業の詳細はFacebookアカウント「Karakuri Coffee(からくりコーヒー)で随時公開していく。

宮本恵理子:1978年福岡県生まれ。筑波大学国際総合学類卒業後、日経ホーム出版社(現・日経BP社)に入社し、「日経WOMAN」などを担当。2009年末にフリーランスに。主に「働き方」「生き方」「夫婦・家族関係」のテーマで人物インタビューを中心に執筆する。主な著書 に『大人はどうして働くの?』『子育て経営学』など。家族のための本づくりプロジェクト「家族製本」主宰。

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