小泉進次郎氏。滝川クリステルさんとの結婚は、確かに日本中を驚かせたが……。
REUTERS/Issei Kato
20代後半の女子3人と食事をして、テレビの話になった。半年ほど前のことだ。
2人が「テレビは全く見ない」と言い、そのうちの1人は「人を貶めて笑いを取る構図が嫌い」と言っていた。3人がよく見ているのはNetflix(ネットフリックス)で、オススメは「ル・ポールのドラァグ・レース」と「クィア・アイ」で一致していた。どちらもコンセプトが「Love myself」だから好きなのだと、3人は言っていた。
最近よく聞く「自己肯定感」という言葉と重なって、腑に落ちた。「あの人は、自己肯定感が高いから」というような使われ方をしているのを見聞きするたび、自己を肯定しにくい時代なのだと理解していた。
Netflixの番組は経歴、性別、容姿を問わず、「Love myself」でいこうじゃないか、と訴えるのだそうだ。若く、可愛く、仕事もある3人が、そういうものに惹かれる。やはり大変な時代だなんだなあ。
などなどと思っていた今日この頃、小泉進次郎&滝川クリステルの結婚が飛び込んできた。「すごいビッグカップル!」で終わりにするつもりだった。が、官邸での記者会見を見て、そうできなくなってしまった。容姿が「Love myself」に与える影響。そんなことをあれこれ考えてしまったのだ。
結婚発表の日程を決めた自信
首相官邸で結婚発表、という前代未聞な会見だった。
出典:首相官邸ホームページ
小泉さん目線であの日を振り返ると、まずは菅官房長官を官邸に訪ね、結婚を報告する。そこに相手を連れて行く。偶然にも安倍首相がいたから、2人で挨拶する。そこから記者会見をする。長々話すが、質問された「なれそめ」には答えない。なぜ今日なのかと問われた時は、前日は広島に、翌々日は長崎に原爆が落とされた日だからと答える。報道が重なるのは避けなくてはいけない、と。
計算し尽くした「小泉劇場」だと評された。そうだと思う。だが、それより驚いたのは日にちの件だ。自分の結婚が、広島・長崎での平和記念式典報道を小さくする。その認識に仰天し、それを口にすることをためらわないという事実に、さらに驚いた。
自分へのあり余る自信。自信を表明することへの臆面のなさ。それはどこから来るのかと、考えざるを得なくなった。
そもそも彼は「進次郎さん」と呼ばれる。街頭演説で「きゃー、進次郎さーん」と呼ばれるだけでなく、マスコミもそう呼ぶことが多々ある。父で元首相の「純一郎さん」と区別するためだとしても、河野洋平元衆院議長を父に持つ外務大臣は「太郎さん」とは呼ばれない。
人気の証の「進次郎さん」。彼自身も自分のことを「進次郎さん」と思っているのだろうなと、今回改めて思った。特別だぞ、と。
容姿バネが昔より効きやすい時代
SNSでの「自撮り」世代だからこそ、より容姿の肯定感が「効く」のかもしれない(写真はイメージです)。
Shutterstock
なぜ人気があるのかと考える。彼は当選4回、初当選から10年の衆院議員だが、目立った政治実績が何なのかと聞かれて即答できる人は多くないと思う。とはいえ、政治家の人気は実行力や実績に伴うべきだと力説するつもりはない。
つまり今さら言うまでもなく、彼はハンサムだから、カッコイイから人気なのだ。ということに、そのことにこだわりたくなったのだ、会見を見て。ハンサムで悪いわけがない。カッコよくて何よりだ。だけど、みんなが「自己肯定感」について語る時代なのだ。若くて可愛い女子たちが「Love myself」に惹かれる時代なのだ。そのこと、わかってますか、政治家の進次郎さん。そう言いたくなったのだ。
容姿が自己肯定感になる。それは昔からで、これも今さら言うまでもないことだ。だけど自己肯定感をあげるバネがいろいろある中、「容姿」というバネの効き方が昔よりずっとすごくなっている。そんな気がしてならない。だって「自撮り棒」で「SNS」で「いいね!」な時代なのだ。
その分、「容姿」がないと厳しい。そのことに行き当たってしまう。
内面が容姿に反映されるという事実も確かにある。だが、まずは天賦のものだ。与えられる人とそうでない人がいて、与えられた人は幸運なのだ。
だが与えられている人は、そのことに気づかない。それもよくある話だ。だけど、小泉さんは政治家だ。自分の何が恵まれているか、恵まれない人はどういう状況か。そこに敏感でなくて、政治ができるのだろうか。
「トマト柄シャツ」をペロリと口にする弟
「首相にふさわしい人は」というアンケート調査でいつも上位に名を連ねる進次郎氏。
REUTERS/Kim Kyung-Hoon
ところで小泉さんの兄は、俳優・小泉孝太郎さんだ。弟の会見を受け、その日のうちに会見を開いた。「(相手を聞いて)時が止まりましたよ」などと笑顔で語っていた。
孝太郎さんは、トマト柄のシャツを着ていた。その日の夜、進次郎さんが再び滝川さんと横須賀の自宅前で会見し、兄についても語った。「なんでトマトのシャツなんですかね」と最後に言っていた。
ここ、ここ、ここが政治家・小泉進次郎の問題点。心の中で、そうつぶやいた。
孝太郎さんは「警視庁ゼロ係〜生活安全課なんでも相談室」(テレビ東京系)に主演している。彼の演じる刑事は大の野菜好きという設定だ。オールドテレビファンゆえ、そのことを知っていた。シャツは役の衣装だなと、すぐに気づいた。
現在シーズン4の人気シリーズだが、忙しい進次郎さんは知らないのだろう。それは別に構わない。だけど、普段の兄を知っていれば、何か事情があると察してもよいはずだ。なのに、ペロリと「なぜトマト柄?」と言ってしまう。私の目には、そう映った。
孝太郎さんは主役も務める俳優だ。だが、大河ドラマの主役を演じる役者かと尋ねられれば、たぶん違う。そのことを本人も自覚していると思う。だから弟のための会見にも、あえて衣装で臨んだ。そう思う。
そんな兄と、ペロリと疑問を口にする弟。どちらが好きかと聞かれれば、「兄」と大きな声で答えたい。
きれいでも幸せになれるわけではない
撮影:今村拓馬
最後に全く違う話を。数日前に読了した、高村薫著『我らが少女A』の話だ。
刑事・合田雄一郎シリーズ最新作。いつにも増して、生きる悲しさを描いていた。読みながら「容姿」について考えたのは、進次郎&クリステルのことが頭にあったからでもあろう。
27歳になった元美少女が2人出てくる。親友同士だった2人だが、1人は冒頭で殺される。母子家庭で育ち、家を出て、最後は風俗で働いていた。もう1人は早稲田大学を卒業し、銀行員と結婚し、聖路加病院で娘を出産する。
1人が殺されたことをきっかけに、残された元美少女は過去の自分を、それぞれの家族を、つまりは人生を見つめ直す。その中で、殺された美少女の母をこう回想する。「ものすごくきれいな顔立ちの人なのに、いつもおろおろしていて見るからに侘しげな様子」だと。「見ている方がイラっとする」と。
この文章に触れ、粛然とした気持ちになった。ものすごくきれいな顔立ちの人も、ハッピーな人生を手にするわけではない。それだけのことだが、この文章が今も心から離れない。それが高村薫という人の作品だ。
多くの人に読んでほしい。元美少女、その母、他にもさまざまな容姿を持った登場人物たち。彼らの人生を見届けてほしい。シリーズ最新刊だが、ここからでも何の問題もない。
進次郎さんにも、読んでほしい。いや、結婚で「未来の総理大臣」に近づいたそうだから、絶対に読むべき。真面目にそう思っている。
矢部万紀子(やべ・まきこ):1961年生まれ。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、「AERA」や経済部、「週刊朝日」などに所属。「週刊朝日」で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長を務めた後、2011年退社。シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に退社し、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』。最新刊に『美智子さまという奇跡』。