8月13日夜、香港国際空港でデモ隊と警察が激しく衝突。
ThomasPeter/Reuters
香港国際空港で8月13日深夜に発生したデモ隊と警官との衝突はショッキングなものだった。現場にいた記者などがSNS上で次々と投稿した映像があまりにも暴力的だった。
デモ隊を警棒で殴る警官。逆に警官に反撃して激しく殴りつけるデモ参加者。
その中でも最も衝撃的な映像が、デモ参加者達からの反撃にあい、集団で殴られた警官が携帯する銃らしき物を取り出し、よろめきながら構える姿だった。それが殺傷性のある銃だったかは不明だが、もしその引き金を引かれていたらと思うとゾッとする。
デモ隊の反撃にあい銃を構えた警察官
同じ場面を別のカメラも捉えていた。
現場で取材をしていた米経済紙の記者に聞くと、その瞬間について「とても心配させられて、緊張した瞬間でした。誰かが殺されるかもしれないと感じた」と語ってくれた。
なぜこのような事態になったのか。
「デモ参加者たちが、デモ隊に潜り込んでいたある男性を見つけ出し、中国の警察官ではないかと。香港の警察がその人物を取り戻そうとして、デモ参加者たちと殴り合いになりました」(同記者)
その男性が中国の警察官だったのかは不明だ。
つるし上げにあった中国メディア記者
デモ参加者達に拘束されてしまった中国メディア「環球時報」の付国豪記者。
TyroneSiu/Reuters
デモ参加者達が、中国の共産党機関誌「人民日報」傘下のメディア「環球時報」の付国豪記者を見つけ、拘束バンドで締め上げてしまった映像も流れている。
デモ参加者達を撮影していた付記者に、不信感を持った参加者が問いただし、追いかけた後に捕まえたという。そして付記者のカバンから荷物を取り出すと、「I♡警察(♡マークの中にはHKの文字)」と書かれた水色のシャツが出てき、さらに中国の身分証までさらされてしまった。
付記者は助け出され、病院に運び込まれたが、その際に多くのカメラの前で「俺は香港警察を支持する!君たち俺を殴ればいいさ!」と言い放った。この映像は今度は中国のSNS上で一気に拡散。付記者は英雄として祭り上げられた。
中国のSNS「新浪微博」では香港空港での衝突、「環球時報」の付国豪記者に関連したキーワードが一時、ランキングの大半を占めた。
警察を信じなくなった香港市民たち
香港警察はデモ参加者と似た格好をして、デモ隊に紛れ込んで参加者たちを取り締まっていることを認めている。それが余計にデモ参加者たちの怒りを増幅させ、市民も不信感を募らせている。
20代の香港人女性ホーさんは、空港での衝突後に出回ったという画像を紹介してくれた。もはや、香港警察と市民との分断は決定的なものになったのかもしれない。
8月13日未明の空港での衝突後、香港の若者の間で回ってきたという画像。
「逃亡犯条例」改正案をきっかけにした香港の人々によるデモは、平和的に訴えていくはずだった。空港でのデモも、基本的には空港を利用する外国人に対し、香港の置かれた現状を訴えるためのものだった。
しかし、8月12日、13日と2日続けて一時空港機能が麻痺し、外国人旅行客が、デモ参加者たちに怒りをぶつける姿も見られた。
双方が激しい暴力を振るい合っている現在の状況について、2度デモに参加した20代の香港人女性ケイシーさんは危惧した。
「警察が理性的でない状況で、デモ参加者や普通の人々にも暴力をふるい、香港の市民たちは警察への怒りがますます高くなってしまった。そして最後には今回のような事態となった。早くこのようなお互いがお互いを刺激し合うことは止めなければいけない」
もはや、「逃亡犯条例」改正案に対しての抗議ではなくなっているという見方について、ケイシーさんは「最優先事項は改正案への抗議だが、しかし、この2カ月で警察の暴力や政府の対応に、市民たちの不満が向かっている」とした。それでも、改正案の撤回を含む5つの要求こそが、一貫してこのデモ参加者たちの主張だという。
空港の出発ゲートに進めず困る利用客たち
香港の隣、深セン市には中国の武装警察が集結しているとされる。ケイシーさんは、天安門事件を思い起こした。
「確かにそのニュースは知っています。デモ参加者たちの安全が心配です。そして、中国政府はそんな良心的なものでないです。
現在の状態は1989年の六四事件(天安門事件)のように感じる。あの時、政府は戦車を使った。現在なら多分、放水車や武装車を用いるかもしれない。そもそも一国二制度の元で、中国の武装警察は香港に何のために侵攻してくるのでしょうか」
空港のデモは終わっても止まらない衝突
8月14日、香港の繁華街の一つ、深水埗でデモ隊と警官が衝突。催涙弾の煙で逃げ惑う市民たち。
TyroneSiu/Reuters
13日未明の空港での衝突の後、デモは解散した。14日は空港側が、航空券を持った人のみ空港に入ることを許したこともあって、大きな混乱はなかった。
しかし、14日夜には香港の繁華街の一つ、深水埗でデモ隊と警官の衝突が発生している。
果たして誰がこの混乱を止めることができるのだろうか。
(文・吉田博史)