「増税しなくても国の財政は大丈夫」ってホント?3つの“俗説”の誤りをデータと事実で解説

紙幣。

国の借金は1000兆円を超えて膨らみ続け、台所事情は「先進国で最悪」と言われます。本当にこのままで大丈夫なのでしょうか?

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2020年度の国の予算をつくる作業が始まっています。

国の借金は1000兆円を超えて膨らみ続け、台所事情は「先進国で最悪」と言われます。「このままではいつか財政が破綻する。もっと収支改善の努力が必要だ」という見方は、専門家の間ではほぼ一致しています。

ただ、「そんなことしなくても大丈夫。以前から『財政は破綻する』と言われてきたのに、何も起きていないわけだし」と考える人も少なくないようです。そうした考え方の根拠とされがちな3つの「俗説」のどこに問題があるのか、ざっくり解説します。

社会保障と借金返済に予算の7割強を使っている

【図表】

【図表】

出典:財務省ウェブサイト「日本の財政関係資料(令和元年6月)」

俗説(1)増税しなくてもムダをなくせば財政は再建できる

まず、国の財政の現状を見てみましょう。

ふつう「国の予算」と呼ばれてメディアで大きく報じられるのは「一般会計」ですが、それとは別に国の借金返済に回すお金や、公的年金や健康保険にかかわるお金などを一般会計とは別に管理するさまざまな「特別会計」があります。財政の全体像をつかむには、これらをトータルで見る方がいいです。

国の予算は最近では「100兆円規模」と言われますが、これは一般会計に限った話です。特別会計も合わせるとその倍以上になります。

2019年度分を見ると、支出額は243.2兆円【図表】。うち年金、医療、介護といった「社会保障費」と、国が積み重ねてきた借金の返済に回すお金である「国債費」がそれぞれ4割弱を占め、都道府県や市町村にお金を回す「地方交付税交付金」が1割弱で続きます。

「ムダ減らし」だけでは財政再建はできない

お年寄り。

国の支出の4割弱を占めるのが年金、医療、介護といった「社会保障費」です。このお金を極端に切り詰めすぎれば、「年金が少なすぎて生活できない」「お金がかかりすぎるから病院に行けない」といった形で私たちの暮らしに深刻な影響が出ます。

撮影:今村拓馬

少子高齢化が深刻化するなか、政府は年金の支給額の伸びを抑えたり、働く世代が負担する保険料を引き上げたりといった対策をとってはいますが、それでも社会保障費は年々膨らみ続けています。

この先も支出を抑える努力を続けることは必要ですが、社会保障費を極端に切り詰めすぎれば、「年金が少なすぎて生活できない」「お金がかかりすぎるから病院に行けない」といった形で私たちの暮らしに深刻な影響が出ます。

金利がものすごく低い状態が続いているため、巨額の借金を抱えている割に国債費は少なくて済んでいます。しかし当面、借金の残高は増えていく見通しなので、少なくとも国債費が減っていくようなことは期待できません。

ごく一部の例外を除けば、都道府県や市町村の財政も軒並み苦しいので、いったん国が集めた税金を自治体に配る地方交付税交付金を大きく減らすのは簡単ではありません。

これらの3項目以外が予算全体に占める割合は、たったの2割弱にすぎません。

【図表】の「その他」には公共事業や教育、防衛といったさまざまな項目が並んでいます。1円だって国民のお金をムダに使うことは許されませんが、徹底的に支出を見直したとしても、残念ながら節約できる金額は全体から見れば大きくはありません。

社会保障費は2019年度までの6年間で平均2.6兆円ずつ増えていますが、この金額を例えば防衛費の2019年度の予算額と比べると、ほぼ半分にあたります。

「防衛費を削って社会保障を充実させよう」といった考え方自体はもちろんあり得ますが、防衛費を半分に削ったとしても社会保障費がたった1年間に増える分さえ賄えるかどうか、といったところです。その他の項目を見ても、社会保障費とは金額のスケールが違いすぎますよね。

常にムダを減らす努力は必要ですが、それだけではどう考えても財政再建の決定打にはなりません。

「バブル期以来の高成長」でも減らない借金

繁華街。

政府の見通しでさえ、「おおむねバブル期以来の高成長が続く」という非常に強気な仮定を置いたケースでも、国の借金残高が安定的に減っていく内容にはなっていません。

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俗説(2)増税しなくても経済成長によって税収が増えれば財政は再建できる

「経済が成長すれば自然に税収が増えるので大丈夫」という説も目にします。

ただでさえ少子高齢化で働き手の頭数が減っていくことが見込まれるなか、遠い昔のような「右肩上がり」を期待して、後は何もしなくていいというのは能天気すぎると思いませんか?

政府が公表している財政再建計画でさえ、おおむねバブル期以来の高成長(名目で3%)が続くという非常に強気な仮定を置いたケースでも、国の借金残高が安定的に減っていく見通しにはなっていません。そもそも、そんな高成長が続くと予測している民間の専門家はほとんどいません。

いつかは金利も物価も上がり始める

紙幣と硬貨。

国の借金が果てしなく増え続けていけば、いつか必ず金利は上がっていきます。ふつうは金利と物価の上昇はだいたい連動するので、インフレも進むでしょう。

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俗説(3)「国の借金」の貸し手はほとんど日本人なので、まだまだ増やしても問題ない

国の収入についても一般会計と特別会計をトータルで見ると、借金が占める割合は実に4割弱。私たちが納める税金や社会保険料は合計しても5割弱にすぎません。

国は「国債」(とりあえず借用書のようなものと思ってください)を発行して、民間の銀行や保険会社といった金融機関などからお金を借ります。

相手に「お金を返してくれる可能性が低い」と見られたら、高い利子を払わないとお金を借りられないのがふつうです。身の丈に合わないほどに借金をどんどん増やしている人がいれば、貸し手は高い利子を求めます。

そうなると借金の利払いが膨らんで台所事情はますます苦しくなり、いつかは借金を返しきれなくなる日が来るでしょう。

日本国債の9割以上は国内の金融機関や個人が持っていて、海外勢は1割未満です。「日本人は貯蓄好きだから、預け先の金融機関にはたくさんお金があるので、まだまだ国債を買える。万一、国が借金を返せなくなって大混乱が起きたら日本人はみんな困るので、国債を買うのを急にやめたり投げ売りしたりして金利の急上昇を招くような行動は誰もとらないはずだ」と主張する人もいます。

とはいえ借金が果てしなく増え続けていけば、国債の買い手が日本人だろうと外国人だろうと、いずれかの時点で必ず「危なすぎて国債は買いづらい」という見方が広がり、金利は上がっていきます。ふつうは金利と物価の上昇はだいたい連動するので、インフレも進むでしょう。

利払い費が増えて国の財政が急速に悪化し、さらに金利が上がり、また利払い費が膨らんで……という悪循環に陥り、最後は企業で言う「倒産」にあたる「財政破綻」に行き着くおそれさえ出てきます。

「破綻」までは考えないとしても…

財政破綻のイメージ。

増税、支出カット、経済成長への努力。すべて同時に目一杯取り組んで、ようやくこの危機を脱出できるかどうかという瀬戸際に立たされているのが、今の日本です。

fatido/Getty Images

そうならないための手段は、大きく分けて2つ。

A:増税して収入を増やしたり、公的サービスをカットして支出を減らしたりして収支を改善し、借金を減らす。

B:(詳しい説明は省きますが)政策によって金利だけは無理やり低く抑え込む一方、インフレは放置する。

Bの場合、利払い費はそれほど増えず、インフレによってお金の価値が下がっていくと国が過去に抱えた借金の価値も下がり、実質的な借金減らしにつながります。

ただし預金者から見れば、金利が上がれば増えたはずの利子収入が得られないどころか、インフレによって預金の価値はどんどん目減りしていき、国民は相応の「コスト」を支払うことになります。結局は増税される場合と同じく、強制的に負担を強いられるのです。

どちらの手段をとるか、あるいは両方を組み合わせるかにかかわらず、「過去の世代から積み重ねられてきた借金のツケを、今を生きる世代とその後に生まれてくる将来世代が支払う」ことになります。

そしてツケの支払いが遅れれば遅れるほど、大きな負担が一気にのしかかることになり、暮らしへの悪影響も深刻になります。

今のところ安倍政権も野党も、財政再建に向けた現実的な道筋を示していません。しかし、増税も支出カットも経済成長への努力も、すべて同時に目一杯取り組んで、ようやく危機を脱出できるかどうかという瀬戸際に立たされているのが、今の日本です。

日本の財政はまだ危ういバランスを保っていますが、私たちは後に続く世代にツケを回して逃げ切れるとは限りません。そもそも今の政治に対して発言権がない幼い子どもや孫たち、さらにその先の世代に過酷な負担を押し付けて後はしらんぷり、ということが許されるでしょうか。

そろそろ地に足のついた議論を始めませんか?

(文・庄司将晃、写真はすべてイメージです)

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