メルカリは、スポンサー契約を結ぶ京セラドーム大阪でメルペイを導入する。
撮影:小山安博
伝統的に大阪は現金主義が根強いと言われる。それでもキャッシュレス決済に取り組む姿勢は少しずつ変わりつつあり、対応する店舗が増えてきている。
キャッシュレス事業者のうちの1社、メルペイは京セラドーム大阪などでのメルペイ導入とキャンペーンを開始。この流れを加速させていく。
東京と雰囲気が違う大阪のキャッシュレス化事情
大阪のたこ焼き店の老舗アメリカ村甲賀流本店。これまで現金払いのみだったが、初めてメルペイを導入した。
10月からの消費税増税を前に、政府はいくつかの施策を打ち出している。それでも、大阪の中小規模の店舗でのキャッシュレス決済に関する関心は、率直なところあまり高くないというのが実情のようだ。
7月25日に大阪商工会議所が発表したアンケート結果によれば、政府主導の還元事業があっても「キャッシュレス決済を導入しない予定」と答えた店舗が約4割、「現時点で未定で検討中」という回答の約4割を合わせると、約8割がキャッシュレス決済に関心がないとメルペイは指摘する。
実際に、大阪ではキャッシュレス化が遅れているという点は、大阪商工会議所も指摘している。2014年の商業統計確報における小売業のクレジットカード・電子マネーの決済比率では、大阪は全国平均を上回るものの、17.4%で全国6位。この底上げを目指している。
甲賀流の田中由弘社長。
今回メルペイを導入したたこ焼き店の老舗であるアメリカ村甲賀流本店も、もともと消費税増税にあわせてのキャッシュレス対応にはあまり前向きではなかった。
甲賀流の代表取締役社長である田中由弘氏は、「そのうちキャッシュレス対応は必要になる」との認識だったが、「増税はあまり気にしていない」とも語り、消費税増税にあわせる気はなかったようだ。
その背景には、決済手数料の壁があった。「数百円のたこ焼きに3%の決済手数料は高い」(負担が割高に見える)と田中社長は話す。こうした意見は、低価格な商品を売る中小店舗の多くに共通した悩みだろう。
導入理由は「客の利便性」を優先
導入キャンペーンでは、ソースマヨ10個入り450円が200円引きの250円になる。
とはいえ、「やらなければいけないとは思っていた」と田中社長。そのきっかけとなったのは、メルペイの営業との出会いだったそうだ。もともとメルカリの小泉文明社長とテレビ番組での共演経験があったという田中社長は、メルカリに親しみがあったことも導入を後押ししたと説明した。
取材日は導入2日目で、本格的な稼働を開始した初日。すでに前日から数件の取り扱いがあったそうで、取材中、実際にメルペイを試そうとしている人もいた。ただ、「店員も慣れていないが、お客さんも慣れていない」と田中社長が言うとおり、使おうとしたら残高が入っていないという人もいた。
決済はタブレットを使ってユーザーの表示したQRコードを読み込むストアスキャン(利用者提示型、CPM)方式。
田中社長自身は、メルペイ導入によって客が増えたり、客単価が上がったり、といったことはあまり求めていないという。それよりも、客に対する利便性の提供という面が大きい。キャッシュレス化のメリットはいくつかあるが、実際の利用比率が伸びないとメリットは現れにくい。
ただ、外国人観光客を中心にクレジットカードなどのキャッシュレス決済を求める声は甲賀流自体にもあるそうで、そうした声に対応することに決めた。今後、LINE Pay、PayPay、Alipay(支付宝)といったコード決済事業者については導入する必要がある、との認識を田中社長は示している。
政府の還元・補助金制度の周知に課題あり
多くの人で賑わう大阪・アメリカ村。
アメリカ村甲賀流本店周辺を取材してみたが、「還元事業を知らない」という声は比較的多く聞こえてくる。
商工会議所などがセミナーなどを開催しているものの、消費税にともなう補助金制度や還元事業の情報が、特に中小店舗まできちんと届いていないようだ。
補助金制度によって、キャッシュレス化に必要な機材や環境構築は多くをまかなうことができる。還元事業を使えば、負担なく客へのポイント還元を行える。田中社長も認めるとおり、今後キャッシュレス化がさらに進み、利用客が増えると、店舗側の必要性もさらに増加する。
もともと田中社長は4〜5年後にはキャッシュレスが当然となり、対応する必要性が出てくる、という認識だったようだが、その時期に改めて検討するより、補助金などが用意されている現時点で導入することにはメリットがある。
コード決済であれば、手数料が現時点でかからない決済事業者も多く、まずは導入してみるという手段も取りやすい。
PayPayとLINE Payの“訪日中国人対応”には期待
大阪市の中心部では、PayPayのマークもよく見かけるが、最も多いのはAlipayやWeChat Payといった中国系のマーク。
そうした中で、大阪市内ではPayPayが急速に加盟店を増やしている。PayPayの加盟店マップを見てもかなり多いが、これは大阪特有の事情もあるかもしれない。
大阪が他の都道府県と違うのが、特に観光地のAlipay、WeChat Payの「アクセプタンスマーク」(利用可能なことを示すサイン)の表示だ。大きく、目立つところに張り付けている店舗が多く、実際に店舗で聞いてみても、中国の決済サービスを利用する中国人旅行客が多いという。
PayPayは、Alipayユーザーも受け入れられるため、PayPay経由でAlipayの加盟店として登録できる。店頭に設置するQRコードも共通化できるため、中国人旅行客が多い店舗にメリットがある。
8月からは、LINE PayがWeChat Payとの連携を開始しており、同様の利用が可能になるため、LINE Payの拡大の可能性もありそうだ。
メルペイの強みは“メルカリユーザー”
心斎橋にあるソフトクリームを中心とした「Ni7 Cafe&Sweets」もメルペイ導入を決めた。
これに対するメルペイは、独自の店舗開拓に注力すると言うよりも、メルカリユーザーに対するメリットをアピールすることで、加盟店の開拓につなげたい考えだ。コード決済のメリットは、営業力の高いPayPayが広めているため、メルカリという独自色で訴求していく。
甲賀流本店のあるアメリカ村のようにファッションや流行の発信地では、買ったものを利用しなくなったらメルカリで売る、という人も、実際のところ多いのだろう。
Ni7 Cafe&Sweetsでは、インスタ映えを狙った写真を撮る若い女性が多いのも店の特徴だという。
メルカリによると、大阪府のユーザー1人あたりの年間販売金額は7万6681円と全国第3位。蓄積した売上金を店舗での支払いに使えるというメルペイのメリットは大きいだろう。
メルペイのマーケティング責任者・山代真啓氏によると「関西地域のメルカリ利用者は10〜30代がメインで女性が7割に達している」という。こうしたターゲットに沿った店舗は、メルペイ導入のメリットが発揮できる可能性がある。
京セラドーム大阪では売り子もメルペイ
京セラドーム大阪。
今回、メルペイが大阪での取り組みを拡大したのは、現地でのメルペイの知名度向上を狙ったものだ。
象徴的なのは、京セラドーム大阪への導入だ。メルペイは8月10日に、メルカリが経営権を持つサッカー「鹿島アントラーズ」のホームであるカシマスタジアムへ導入したが、さらに今回、プロ野球「オリックス・バファローズ」のホーム・京セラドーム大阪に導入された。
ドーム内の売店。支払いは非接触決済と同じリーダーに、コードを表示した画面側をかざす。
京セラドーム大阪では、すでに場内売店でクレジットカードをサポートしていたが、初のコード決済としてメルペイに対応。従来のクレジットカード決済端末自体がコード読み取りに対応しているため、客側がコードを表示して決済端末にかざすストアスキャン(利用者提示型)での対応となった。
店員側は支払い時にクレジットカードやタッチ決済を選ぶ場面でコード決済を選ぶだけでよく、負担が増えないのはメリットだ。
ビール売り子の場合はユーザースキャン(店舗提示型、MPM)方式。
また、これまで、現金払いが原則だった観客席内での売り子も、首からメルペイのQRコードを提げて周回するようになる。客から注文を受けてメルペイ払いを求められれば、そのQRコードを客が読み取って支払うユーザースキャン(店舗提示型)での支払いが可能になった。
京セラドーム大阪側は、メルペイを決済手段として追加することで、店舗のストレス改善と売上増を期待する。売り子もメルペイに対応することで、購買意欲の拡大も狙っている。メルペイは1.5%の決済手数料がかかるが、歩合制の売り子には手数料を請求せず、ドーム側が負担するという。
「メルペイ」自体の知名度向上が必要
右は大阪シティドーム事業本部事業3課長の安川知秀氏、左はメルペイのマーケティング責任者・山代真啓氏。
メルペイの課題は、知名度だ。
メルカリ本体の月間アクティブユーザー数は約1357万人(8月8日時点)と、知名度は抜群。ただ、同一アプリ内で利用できるにもかかわらず、メルペイはそれに比べて登録ユーザー(「iD」の利用登録を行ったユーザー)数は200万人超(6月18日時点)と劣る。
メルペイを導入した店舗に話を聞いても、メルカリがコード決済のメルペイを提供していること自体を知らなかったという声も多い。
テレビCMや大がかりなキャンペーンで圧倒的な知名度のPayPayに比べて、知名度と営業力で劣るメルペイ側は、注目度の高いスタジアムへの導入で人目を引きたい考えだ。
(文、撮影・小山安博)
小山安博:ネットニュース編集部で編集者兼記者、デスクを経て2005年6月から独立して現在に至る。専門はセキュリティ、デジカメ、携帯電話など。発表会取材、インタビュー取材、海外取材、製品レビューまで幅広く手がける。