20万部を発行するティーン向け月刊誌『ニコラ』の韓国特集号が売れている。同時期に発売した『JJ』『S Cawaii!(エスカワイイ)』も韓国特集を組むなど、女性誌にとってはテッパン企画だ。中には移住を想定した企画も登場するほどだ。
アグレッシブな女子中学生に合わせた、実用的な誌面づくり
『ニコラ』9月号。付録やプレゼント企画も韓国一色だ。
撮影:竹下郁子
巻頭で「韓国100映え! 100プレ! 夏旅行!」を特集した『ニコラ』の9月号(8月1日発売)が発売2週間で実売率64%を記録した。特集では同誌初となる韓国ロケを敢行。人気「ニコモ」(ニコラ専属モデル)の小林花南(かなみ)と若林真帆が人気のファッション、カフェ、コスメ、グルメ、文房具などを紹介した。
誌面だけでなく、韓国で2人が購入した商品を読者100名にプレゼントする企画や、付録として韓国の人気キャラクター「APEACH(アピーチ)」とコラボした10色のアイシャドウとリップチークが入ったコスメパレットもあり、読者も今すぐ韓国の流行を取り入れられる仕掛けだ。
ロッテマート・ソウル駅店でお土産を探すニコラモデルの2人。ロケは6月初旬。
出典:新潮社
『ニコラ』の主な読者層は女子中学生。夏休みに発売する9月号は通常より売り上げが高い傾向にあるといい、そこに同誌が選んだのが韓国特集だ。同誌では3年ほど前から韓国カルチャーについて継続的に取り上げてきた。同誌の小島知夏編集長は言う。
「今春頃から親と一緒に旅行したり、遊びに行くのも原宿・竹下通りではなく、韓国文化の街『新大久保』がその中心になるなど、よりアグレッシブになっています」(小島さん)
韓国特集の誌面も各ショップの場所や営業時間も記されており、「実際に旅行して楽しめるつくり」にこだわったという。
女性誌の韓国特集は定番、移住を想定した企画も
韓国のガオンチャートミュージックアワードでパフォーマンスするIZ*ONE。2019年1月23日撮影。
GettyImages/Chung Sung-Jun
日本政府の韓国への輸出管理強化に伴い韓国でも日本製品の不買運動が広がるなど、両国の関係は緊張が高まっているが、小島編集長は同誌の読者からそうした対立を感じたという話を聞いたことがないという。
「親世代に韓国文化が好きな人が多いということも影響しているかもしれません。とにかく韓国のコスメ、ファッション、アイドルが好きという読者が多いです。
彼女たちにとって韓国カルチャーは「ブーム」ではなく「定番」なんです」(小島さん)
『ニコラ』に限らず、女性をターゲットにした雑誌で韓国特集はもはや定番だ。「全国10都市+韓国を総力SNAP!!」の文字が表紙に踊る『JJ』9月号(7月23日発売)では、東京・大阪・福岡など国内10都市に加え、韓国・ソウル女子のファッションスナップを特集。
韓国で人気のコスメブランド。
shutterstock/JHVEPhoto
『S Cawaii!(エスカワイイ)』(8月7日発売)秋号は1冊丸ごと韓国特集だ。表紙と巻頭インタビューを飾るのはAKB48グループとして活動していた宮脇咲良らが所属するグローバルグループ「IZ*ONE」。
ファッションやグルメなどのカルチャーに加え、美容クリニックガイドや「韓国好きが募って、住んでみたい♡って思う子も多いハズ」と、韓国に移住したインフルエンサーらへのインタビューや、移住経験のある100人に実情調査。語学学校や家の選び方、ビザの取得についてなど、ディープな情報も掲載している。
昨年同時期(2018年8月7日)に発売した韓国のコスメやメイクを特集した号は重版しており、今回も売り上げが期待される。
小説、文芸誌も韓国に注目
SNSでも大きな反響があった『文藝』2019年秋季号。
撮影:竹下郁子
韓国をテーマにした本が売れているのは、女性誌だけではない。女性差別のリアルを描いた小説『82 年生まれ、キム・ジヨン』は2019年1月から6月まで、6カ月連続売上第1位(海外文学部門/トーハンTONETS i 調べ)を記録した。これまでに9刷を重ね、累計発行部数は13万部にのぼる(8月9日時点)。
「韓国・フェミニズム・日本」特集を組んだ季刊文芸誌『文藝』2019年秋季号(7月5日発売)は、発売初日から完売店が続出。数日で異例の増刷を決定し、これまでに3刷している。3刷は1933年の創刊号以来86年ぶり、2度目。以降、定期購読の申し込みも急増中だという。
読者の声の変化に企画も合わせる
日本政府の韓国への輸出規制強化に伴い、韓国では日本製品の不買運動が広がっている。
shutterstock/Amankgupta
一方で、前出の若い女性向け雑誌で、韓国と日本の歴史や現在の政治的緊張が綴られることはほとんどない。
海外の『ティーン・ヴォーグ』が政治について積極的に取り上げているのと対称的だ。
『ニコラ』の小島編集長は言う。
「企画はモデルや読者の声を元に立てています。いま彼女たちが見たいのは、かわいくておしゃれな韓国です。そうした社会問題について知りたいという声が今後もしあれば、応えていくこともあります」(小島さん)
前出の『S Cawaii!』では「韓国を好きな気持ちは限りなく“恋”に近い」「KOREA HOLIC」と言い、「人それぞれ『韓国好き』の入り口は違っても、結局それをとりまくものを連鎖的に好きになる」と記している。
恋は自分を見つめ直すことでもある。若い世代の「好き」は、両国の関係にどんな変化をもたらすだろうか。
(文・竹下郁子)