ウォルマートに自ら銃を買いに行く突撃取材を敢行した、Business Insiderのヘイリー・ピーターソン記者。
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- 米小売り最大手ウォルマートの店舗で銃乱射事件が相次ぎ、同社に銃器の販売自粛を求める声が高まっている。
- ウォルマートではどんなふうに(品揃えやセキュリティなど)銃を売っているのか。調査の一環として、ヴァージニア州の店舗に銃を買いに行ってみた。
- ウォルマートから銃を買って帰るのは思っていたよりずっと大変。同社は銃の取り扱いや販売にかなり気を使っている印象を受けた。
ウォルマートの銃器販売について議論が沸き起こっている。同社の店舗(テキサス州エルパソ、ミシシッピ州サウスヘイブン)で銃乱射事件が立て続けに発生し、24人もの死者が出たからだ。
事件後、12万8000人を超える市民から、ウォルマートに銃器販売の中止と銃反対の姿勢をはっきり示すよう求める署名が集まった。しかし、同社はその考えがないことを明らかにしている。
そこで私は先週、ウォルマートに銃を買いに行ってみた。どんな場所で、どんな銃がどんなふうに、どんなセキュリティのもとで売られているのか調査したかったからだ。
結論から言えば、ウォルマートで銃を買って家に持って帰るのは、想像していたよりずっと難しいことを思い知らされた。
家を出る前にまず引っかかった
Walmart.com
ウォルマートによると、全米4700店舗のうち半分以上が銃を扱っているという。
8月13日にウォルマート・ドットコムとグーグルで検索し、自宅近くにあるウォルマート10店舗のうち銃を扱っているところを探してみたが、はっきりとした答えにはたどり着けなかった。
ウォルマートのウェブサイトで宣伝されている銃はどれも殺傷能力のないエアガンばかり。検索開始からおよそ30分、このままネットで探していてもラチがあかないと思い、店に直接電話することにした。
そうして分かったのは、ウォルマートの店員たちは誰ひとり銃がどこで売られているのか知らないということだった。
私は間違っていた。
1時間半以上かけて、10数回電話をかけた(うち40分ほどは待たされた時間)が、店員と直接話せたのはたったの3回だけ。しかも、その店員3人の答えはいずれも同じで、周辺の店舗で銃を扱っているところは知らない、というものだった。
ある人物からウォルマートのカスタマーサービスの代表番号を教えてもらったので、そこにもかけてみたが、何の役にも立たなかった。電話口の向こうの男性はこう語った。
「商品在庫の問い合わせについては、諸事情あってこちらではお受けできないのです」
彼はそれ以上のことは語らず、私の自宅近くにある1店舗では少なくとも銃を扱っていないことを知っている、とだけ教えてくれた。
私は手元にあるリストのその店舗にバツ印をつけた。
それぞれの店舗に直接電話して、銃を売ってるかどうか確かめてみたらどうか、と彼が言うので、すでに1時間以上かけてやってみたけれど、多くの店は電話がつながりもしなかったことを伝えた。「特定の地域で起きている問題に関してエラーレポートを出すこともできるが」と彼。そんなことをしても何にもならない。
ググって電話して数時間。ついに銃を売っている店舗を発見
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ヴァージニア州チェスターフィールドのウォルマート・スーパーセンターに電話をかけると、スポーツ用品売り場につないでもらえた。電話に出た女性、なんとそこの売り場で銃を買えると言う。
店舗までは30分の距離だ。私はさっそく車に乗り込み、チェスターフィールドのウォルマートの住所をスマホのナビに入力した。
(筆者注=後日ウォルマートの広報チームに連絡を入れ、銃器の取り扱い店舗を探すのに苦労したことを伝えると、米司法省アルコール・タバコ・火器および爆発物取締局のウェブサイトで、米国内の銃器小売りを網羅したリストが公開されていることを教えてくれた)
現地に到着、スポーツ用品売り場を探す。一番近い入り口から100歩ほどの位置にそれはあった
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学校用品、おもちゃ、自転車……といくつかの売り場を脇目に奥へと進んでいくと、スポーツ用品売り場を発見。
スポーツ用品売り場の看板下にお目当ての銃器コーナーが
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スポーツ用品カウンターの向こうに見える施錠されたガラスケースの中に、20丁ほどのライフルとショットガンが陳列されていた。価格帯は159ドル〜474ドル(約1万7000円〜5万円)。
同じく施錠されたカウンターケースの中には、ポケットナイフ、双眼鏡、デジタル暗視単眼鏡。
ウォルマートの銃の品揃えは、ピストルを含むさまざまな銃器を取り揃えた近隣のガンショップに比べると、まったく限られたものだった。
ウォルマートは1990年代にピストルの販売を中止し、さらに2015年には、AR-15のような軍用のセミオートマチックライフルの取り扱いもやめた。
なお、銃乱射事件の後に発表された声明で、ウォルマートのダグ・マクミロン最高経営責任者(CEO)は、同社の銃器販売に関するポリシーは国が求めるより厳しい内容であると述べている。
例えば、同社は2018年、銃や弾薬を購入できる最低年齢を21歳に引き上げている。
また、連邦法では、購入希望の申請から3営業日以内にバックグラウンドチェック(身元調査)で「赤信号(犯罪の嫌疑などで銃器取得不適格とされること)」が出なければいいことになっているが、ウォルマートでは「青信号(適格者との判断)」が出てからでないと購入できない。
「我々は銃器販売のやり取りを録画しており、特定の店員にしか販売を許可していない。また、すべての銃器は個別にロックし、施錠したケースで保管している」(マクミロンCEO)
カウンターの店員に「銃を買いたい」と声をかけると、彼はマネジャーを呼んだ
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カウンターそばの貼り紙には、すべての銃器火薬は返品あるいは交換不可で、返金や修理には応じないと書かれてある。
また別の張り紙には、銃器売り場が録画されていることを示す警告文や、銃販売に関する法律が記されていた。
一方、銃を宣伝する内容の張り紙はひとつも見当たらなかった。
ウォルマートのある店舗の銃器売り場で「学校のヒーローになろう」と書かれたポスターが吊り下げられた写真がソーシャルメディアで拡散され、事件と相まって激しい反発を巻き起こしていることは既報(英語版)の通り。
同社は、写真が2年前(2017年)のものであり、銃とは無関係な別のキャンペーンのために掲示していたポスターを、店員以外の誰かが銃器売り場に付け替えた一種の悪ふざけと説明している。
マネジャーを待つ間、エアガンコーナーをチェック
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エアガンやペレットガン、BBガンは空圧で弾丸を発射するもの。
火薬コーナーもチェック。「ウォルマートの銃販売シェアは全米の2%、火薬販売が20%」とCEO
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マクミロンCEOは「ウォルマートは全米で販売される銃器の2%を売っているに過ぎない。少なくとも、同じ小売業の中でトップ3には入らないだろう」と語っている。
数分後、マネジャーが売り場に到着。認可を受けた販売業者が不在のため、今日は売れないという
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マネジャーによると、2日後の木曜日だったら(業者の)販売担当者が出てくるという。
ウォルマートの広報担当から後日聞いたところ、銃器の販売担当者は厳格化されたバックグラウンドチェックを通過し、同社が年1回実施するモック(ダミー)の取引を含むオンライントレーニングを受けなくてはならないそうだ。
また、ウォルマートは販売許可を申請する州ごとに異なる規制も遵守している。例えばイリノイ州では、州警察が発行する銃器所有者識別カードを持っていないと銃の販売はできないため、そうしたケースへの対応も行っている。
売り場からの去り際、マネジャーは銃をケースから出して見せてくれた
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一番安い銃を見せてもらった。159ドル(約1万7000円)。
ガラスケースが開いたとき、陳列されているライフルがことごとく金属製のコードにつながれているのが見えた。
コードとライフルをつなぎ止めているのは、プラスチック製の結束バンド。マネジャーはバンドを切り離してライフルを取り出し、ケースに戻す際に手早く新しい結束バンドに付け替えた。
ライフルを丹念にチェックした私は、2日後にまた来ると言い残して店を出た。
そして木曜日、再びチェスターフィールドへ。今度こそ銃を買えるはず
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昼ごろ、例のスポーツ用品売り場に到着。
銃器カウンターには人影なし。10分ほど待っても誰ひとり来ないので、別の通路を覗いて店員をつかまえる。
銃を買いたいのですがと声をかけてみると、偶然にも彼女こそがその認可を受けた銃器販売業者の担当者だった。ふたりで銃器カウンターに戻ると、彼女はおもむろに電話をかけ始めた。
「銃を買いたいというお客さまがいらしてるので、売り場までお願いできますか」と言って電話を切った彼女。正当な販売手続きが行われたことを、(マネジャーのような)販売資格をもつ店員に確認してもらう必要があるのだという。
バックグラウンドチェックには2ドル(約210円)の費用がかかる。私がそれを支払うと、彼女は銃器販売カウンターを離れ、数分後に「ヴァージニア州警察銃器取引記録」と題された書類を持って戻ってきた。必要事項を記入せよとのことだ。
銃購入に必要な書類を埋める
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書類にはいくつかの質問事項が記されていた。氏名、住所、社会保障番号、人種、性別、市民権ステータス。
「譲受人証明」の項には、これまでに重罪に問われたことがないか、(DV等で)接見禁止命令や銃器購入禁止命令を受けていないか、といった犯罪歴を問う質問もある。
また、書類には赤字で「虚偽の記載を行った場合には刑事訴追を受ける可能性があります」と書かれていた。
販売担当者によると、書類の記入さえ終われば、バックグラウンドチェックの結果は数分で得られ、残りの購入手続きが完了したら店員が車まで付き添って銃を運んでくれるという。
さっそく氏名の欄を埋めたところで、待ったがかかる。「銃器所有ライセンスに記載された住所と自宅の住所は一致していますか?」と彼女。いや、ライセンスを取得した後に引っ越しているので、一致していない。
「それはまずいですね」
バックグラウンドチェックをパスするためには、公共料金の領収書や車両登録証など、現住所が正しく記載された公的書類を同時に提出する必要があるのだ(それまで銃を買ったことがなかったので、まったく知らなかった)。
「ごめんなさい。でもバックグラウンドチェックに関するルールは厳しいので、どうしようもないんです」と謝りつつ、彼女は私に出直すよう求めた。
またしても手ぶらで店を出ることに
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そんなわけで、私はウォルマートで銃を買うのをあきらめた。
2日間にわたって数時間を費やした。もしこれが今回のような調査ではなく、本当に銃が必要なのだとしたら、わざわざ銃を扱っているウォルマートの店舗を探したりせず、近所のガンショップに行っていただろう。
一連の経験から分かったのは、ウォルマートで銃を買うのは思ったより難しいということだ。ウォルマートは銃器販売とそのセキュリティに相当気をつかっている
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最後に、分かったことをまとめておこう。
- ウォルマートは銃器の取り扱い店舗を無防備にさらしてなどいない。
- ウォルマートは銃器を施錠されたケースに保管し、金属製コードに結束バンドでくくりつけ、安全確保を行っている。
- 銃器の陳列ケースを解錠し、販売できるのはごく限られた店員のみ。スポーツ用品売り場の販売業者もウォルマートの売り場担当マネジャーも、一般より厳しいバックグラウンドチェックとオンライントレーニングを受けている。実際、現場でも厳しいルール運用が行われている。
- 販売手続きが正しく行われたことを確認するため、販売業者だけでなくウォルマートの販売資格をもつ店員が立ち会うことになっている。
- ウォルマートでは認可を受けた業者以外は銃を販売しない。ライセンスと現住所の不一致のような不備がある場合、売上機会を失うことになるとしても販売はしない。
- ウォルマートの店舗では銃の購入意欲をそそるような宣伝やキャンペーンは一切行っていない。
上記の事実からも、ウォルマートがその販売規模と顧客訴求力に比べて、銃器販売では大したシェアをもっていない理由が分かるだろう。
[原文:I tried to buy a gun at Walmart twice, and roadblocks left me empty-handed both times]
(翻訳、編集:川村力)