氷河期世代の救済策が「正社員化」一辺倒は思考停止。時代は動いている。

働く人。

バブル崩壊後、新卒採用が絞り込まれた時期に学校を卒業し、30代半ばから40代半ばを迎えた氷河期世代。政府はこの世代の「就職・正社員化」に向けた支援を本格化させる。

撮影:今村拓馬

就職氷河期世代の「就職・正社員化」に向けた支援を本格化させる方針を、政府が打ち出した。「3年間で氷河期世代の正規雇用を30万人増やす」という数値目標を掲げる。

バブル崩壊後、新卒採用が絞り込まれた時期に学校を卒業した氷河期世代は今、30代半ばから40代半ば。「無業者」(無職で家事・通学をしていない人)が40万人、正規雇用を希望しながら非正規で働く人も50万人いるなど生活が不安定な状況にあるケースが少なくない。

やっと政府が本格的な支援に取り組むことは評価できるが、本当に必要な支援のあり方とは?いわゆるニートやひきこもりといった人たちを含む「若い世代の就労支援」に取り組む認定NPO法人・育て上げネット理事長の工藤啓さんに聞いた。

「就労支援イコール就職支援」に危機感

工藤啓さん。

育て上げネット理事長の工藤啓さん。

撮影:庄司将晃

氷河期世代に明確な定義はないが、政府は35~44歳の1689万人をこの世代の「中心層」と位置づける。政府は2019年6月に「就職氷河期世代支援プログラム」を決定し、厚生労働省などが具体策を検討している。

育て上げネットは、氷河期世代を含む無業者などが農業や軽作業を体験しながら、働くために必要な基礎的な習慣やコミュニケーションの取り方を学んだり、ビジネスマナーやITなどのスキルを身に付けたりする場を提供。スタッフが就活や就職後の相談にも乗るなど、さまざまな支援事業を手がけている。

「育て上げネットは、国や自治体から委託された就労支援事業も担っていますが、KPI(目標の達成度を評価するための指標)は『何人が、どんな雇用形態で雇われたか』といった数字がほとんどです。

誰もが一般的な職場で、週5日働くことにマッチしているわけではありません。電車に乗れないから電車に乗れるように。電話が怖いから電話に慣れるように。意識や身体を『当たり前』に合わせる支援だけでいいのだろうか。働き方や収入を得る手段がこれだけ多様化するなか、『就労支援イコール就職支援』となることへの危機感を持つようになりました。

そこで3年前から、就労支援の幅を広げ、『働く』ことについての選択肢を増やす取り組みに力を入れています」(工藤さん)

稼ぎ方はいろいろある。まずはやってみるのが大事

アクセサリー。

育て上げネットがサポートしている女性がフリマアプリに出品した自作のアクセサリー。

PC版サイトから編集部がキャプチャ

具体的にはどういうことなのだろうか?工藤さんはまず、育て上げネットがサポートしているある若い女性の例を挙げた。

この女性は電話で話すのも緊張しすぎて難しいほどで、働きたい気持ちはあるのに、長い間社会に参加できないままだった。

しかし、女性にはアクセサリー作りという特技があった。「周囲に聞くと、市販品に比べてもそん色ないクオリティだと」(工藤さん)。

女性は育て上げネットのスタッフと話し合い、フリマアプリを通じて自作のピアスを売ってみることにした。1セット2000円。それなりに注文が入って売り上げが立ち、ラインナップを増やした。買った人から「本当にかわいいです!」といったコメントも寄せられた。自信をつけた女性は、アルバイトの仕事にチャレンジしたいと考えるようになった。

一方、ほとんど外出さえしなかった氷河期世代の男性は、趣味に関する「目利き力」を生かして本やCDの「せどり」で細々とお金を稼ぎ続けた。「就職しなさい」とプレッシャーをかけていた両親も、やがて「それも経済活動の一つだね」と認めるようになり関係が改善。そのことを励みに、アルバイトで働きに出るようになった。

「氷河期世代に限らず、無業やフリーターの人たちは自尊心を削られ、『自分のような人間を雇ってくれる会社なんてあるわけない』とあきらめている人が多い。雇われるかどうかではなく、まず自己肯定感を持ってもらうことが重要だと私は考えます。

確かに、今挙げたような事例について『それで安定した収入が得られるの?』と聞かれたら、『得られる人も、得られない人もいる』としか言えません。

でも、いろんな働き方、稼ぎ方があるのですから、まずはやってみることが大事だと思います。それだけで安心までは得られなくても、不安を一つ取り除くことはできますよね。そして次は、並行して別の仕事を始めてもいい」(工藤さん)

雇われることで生きづらくなる人もいる

働く人。

「誰もがすぐに働けるとは限らないし、雇われて働くことで生きづらくなる人もいます」。工藤さんはそう指摘する。

撮影:今村拓馬

政府による支援策の中心は、「氷河期世代の人には正社員になるために役立つスキルを身につけてもらい、企業にも助成金を出すなどして雇用を促す」という内容だ。人手不足が特に深刻な運輸・建設といった業種への人材供給を促す職業訓練やマッチング支援といった項目もある。

「もちろん雇われて働きたい、正社員になりたいという人に対しては、その希望を尊重してサポートしていけばいい。

でも、誰もがすぐに働けるとは限らないし、雇われて働くことで生きづらくなる人もいます。正社員は比較的雇用が安定していて待遇も良いかもしれませんが、人の自尊心のよりどころはそうしたことだけではありません。

もし『人手が足りない分野で正社員になってもらう』という側面が強調されすぎるなら、多様な働き方や副業を推進する政府の方針とも矛盾します」

「本人に合った形での社会参加」を

オフィス街。

氷河期世代の悲劇を生んだ最大の要因は、新卒一括採用・長期雇用の正社員を中心に据えた「日本型雇用」だった。氷河期世代をその枠内だけに押し込もうとするなら、そんな支援策はうまく機能するはずがない。

撮影:今村拓馬

政府の支援策には「社会との新たなつながりを作り、本人に合った形での社会参加も支援」といった内容も盛り込まれてはいる。工藤さんはこう提言する。

「そうした支援メニューがきちんと機能するように、政府の支援策のKPIは『就職者数』『就職率』といった就職支援に関する数字だけに偏らないように設定すべきです。

年金や健康保険といった社会保障制度は正社員に対しては比較的手厚いですが、そうでない働き方を選ぶ人についても将来の不安がなくなるように、制度を変えていくことも必要だと考えます」

氷河期世代の悲劇を生んだ最大の要因は、新卒一括採用・長期雇用の正社員を中心に据えた「日本型雇用」だった。新卒就職の一発勝負が成功しなかった人は、その後もずっと「再チャレンジ」のハードルの高さに苦しんできた。

時代遅れとなった日本型雇用が崩れつつある今、氷河期世代を改めてその枠内だけに押し込もうとするなら、そんな支援策はうまく機能するはずがない。

(文・庄司将晃、写真はすべてイメージです)

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