なぜ「ベンチャー100人の壁」が生じるのか ── 組織力の強いベンチャーの見分け方

組織

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人間には「認知限界」というものがあります。認知限界とは、ハーバート・サイモンが提唱した情報処理能力の限界のことです。電話番号が単なる数字の羅列ではなく、ハイフンで小分けにされているのも、一度にまとめて覚えられる認知限界ゆえのことです。

組織において最も大切な認知限界は、「1人のマネジャーが何人まで部下を把握できるのか」ということ。これには諸説ありますが、おおよそ6人前後と言われています。ちなみに、チームとしてみた場合、多数決で半々に割れてしまい意思決定が不能にならないように、奇数の7人がベストという話もあります。ともあれ、マネジャーが把握できる部下には限界があるのです。

「ベンチャー100人の壁」が発生するロジックはシンプル

マネジメント

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認知限界を超えたら、対象を小分けにすることによってまとめることで、全体を認知できるようにするのが基本です。組織でも同じで、例えば部下が10人いるグループは、5人ずつにわけて2人のマネジャーを置くことによって全体をマネジメントできるようにします。

ベンチャーで言えば、最初は創業者が自分1人で最前線の社員まで細かいところまで日々マネジメントできていたのが、認知限界を超えていくと難しくなり、仕方なく中間管理職を置いて、マネジメント上の権限(仕事のアサインや評価など)を委譲していくことになります。

俗に言う「ベンチャー100人の壁」とは、100人ぐらいになれば、経営者とマネジャーの2階層では10人のマネジャーに10人の部下というようになり、各段階で認知限界を超えてしまうことが多く、組織が機能しにくくなることを指しているのでしょう。

権限委譲したらルールを作らなくてはならない

ルール作り

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ただ、権限を委譲すると言っても「自由にやってよい」とはなりません。そんなことをすれば組織はバラバラになってしまいます。そこで、権限委譲には必ず「ルールの策定」が伴います。ルールを作ることによって、経営者がやろうとしていることをマネジャーが任せていてもきちんと遂行してもらえるようにするわけです。

組織をマネジメントする際のルールは大きく分けると3つあります。

1つ目は「行動ルール」つまり、「こういう行動を取りなさい」と行動自体を規制するルールです。

2つ目は「結果ルール」つまり「こういう結果を出したらこういう報酬を与える」という結果によってコントロールしようとする形式のルールです。

3つ目は「文化ルール」つまり「こういう考え方で取る行動や目指す結果を決めなさい」という考え方や志向・価値観などでコントロールするルールです。

落とし穴:ベンチャー経営者は「行動ルール」が嫌い

ベンチャー経営者

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ここで落とし穴があります。上述の3つのルールは、事業特性や会社の成長ステージ、社員の成熟度などによって決めていけばよく、どれが良いとか悪いとかはないのですが、ベンチャーを創業するような経営者が嫌いなルールがあります。

それが1つ目の「行動ルール」です。行動ルールとは、社員個々人がするべき行動を明記して指示することですから、身近な言葉で言えば「マニュアル化」です。ベンチャー経営者はこれが嫌いな人が少なくありません。

自分が自由に行動したいタイプであるということか、自分がやっていることを形式知化=マニュアル化できない(無意識にやっているので)かが、大抵の場合の理由です。このため、多くのベンチャー経営者は「結果ルール」か「文化ルール」を採用しようとします。

「結果ルール」や「文化ルール」は難しい

社員の成熟度

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ところが、この2つのルールを導入して組織を動かすためには、社員の成熟度が必要です。いくら「結果ルール」で、「これからうちは自由と自己責任です。ゴールはこれ、あとは主体性を発揮して自由にどんどんやってくれたまえ」と言っても、社員に能力や意思が足りなければ単に足が止まるだけです。

また「文化ルール」はゴールさえも自分で設定しなくてはならないので、さらに難しいルールです。経営者が掲げた文化や行動規範を、社員がそれぞれ勝手に解釈してバラバラになるか、「結果ルール」と同じ様に足が止まるかがオチでしょう。大企業出身者ばかりの成熟した優秀な社員ばかりで構成されているベンチャーなら、問題ないかもしれません。

ただ、最近のベンチャーは若者が集まった会社が多く、この2つのルールをいきなり適用するのは難しいケースの方が多いのではないかと思います。

提案:若い会社は「行動ルール」から始めるべき

マニュアル化

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ですから、いくら経営者が嫌でも、多くのベンチャーが組織拡大の際に最初に導入すべきルールは「行動ルール」つまり「マニュアル化」なのです。「こういった場合はこうする」という個別具体的な行動まで指示したルールでコントロールすべきなのです。

心理学の熟達化の理論でも、最初は「型にはまる」ことが推奨されています。一般的な「型」を徹底的に身につけてから、徐々に自分らしさを発揮して、最終的にオリジナルなスタイルを発揮するというのが成長=能力獲得のパターンです。

何にも「型」がないところで、我流で物事を進めても、壁にぶち当たります。「型」とは先人が試行錯誤で作り上げたものですから、それをまずは利用する方が早いということです。

組織力の強いベンチャーはマニュアルが揃っている

組織力の強いベンチャー企業

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結果、本稿のテーマである「組織力の強いベンチャーの見分け方」とは、さまざまな事業や組織の領域において、ちゃんとマニュアルや行動を明文化したルールが揃っているかどうかを見るということです。

なんとなく、「自由になんでもやっていいよ」という会社が1人ひとりの能力を最大限発揮させる強い会社ではないかと思ってしまいがちですが、社員全員が自立している「プロフェッショナルファーム」のような会社を除けば、それは間違いです。

むしろ普通の人にとっては、何か明文化されたルールがあるからこそ、とりあえず動けるし、動くことで何かを発見し、それを元にルールを再設計していくという創造のループが可能となるのです。

今、ベンチャーで働いている方、経営をしている方、これからベンチャーを目指そうとしている方にとって、ご参考になりましたら幸いです。


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(文・曽和利光)


曽和利光:京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長を歴任し、2011年に株式会社人材研究所設立。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。著書等:「コミュ障のための面接戦略」、「人事と採用のセオリー」ほか

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