年収8000万円の動画長者も出現。制作費数万円の「動画広告」が激変させた市場

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動画広告市場に“価格破壊”が起こっている ── なぜ?

画像:Shutterstock

ここ数年で右肩上がりの成長を続けている動画広告市場。

サイバーエージェントが発表した動画広告市場に関するデータによると、ここ数年で動画広告市場は右肩上がりで伸びており、2020年には2900億円の市場にまで成長する見込みだ。「8000万プレイヤー」も出現している、動画広告制作の今とは?

年収8000万円の“動画制作者”

斎藤大吾さん

“動画長者”となった斎藤さんの手元にはランボルギーニのリモートキーが輝いていた。

撮影:西山里緒

3000万円のランボルギーニ。

斎藤大吾さん(仮名、36)が2019年、動画制作で得た収入で買った“ごほうび”だ。

斎藤さんが1年の間に、動画制作で得た収入は約8000万円。始めてからその収入に達するまでに、3年とかからなかった。

学生時代、趣味の延長から動画制作の仕事を引き受けるようになった斎藤さん。それをきっかけとして、当時黎明期だったネットメディア運営に乗り出し、2000年代前半にはポータルサイトの運営で大きな売り上げをあげた。

2007年頃には数千万円の貯金をつくり、20代でアーリーリタイア。2015年頃まではタイで悠々自適の「沈没期間」を過ごしていたという。

動画業界に戻ることになったきっかけは、高齢の両親が営んでいた家業を継ごうと日本に帰国したことだ。

たまたま知人から、当時動画制作を手がけ始めていたKaizen Platform社の新規事業部で動画広告の制作者を探している、という話を受け、あらためて始めてみた動画制作が大ヒット。

斎藤大吾さん

「動画のつくりは極めてシンプル」と明かす斎藤さん。月に150本の動画を作る。

斎藤さんにとって、動画制作は「ゲーム好きな人がレベル上げするのと同じ」。凝ったクリエイティブにはこだわらない。その代わり、1日に6本、月に150本もの動画を「量産」する。

「ネタバラシすると、動画広告ってすごいシンプルなんです。それこそ、僕の作る動画もパワーポイントで作れちゃうかもしれない 」と斎藤さんは笑う。

「僕の売りは、要領がいいのと案件選定がうまいところ。それでも、1000万円で作ったCMと、5万円でつくった僕の動画を比較したら、こっちの方が100倍(成果が)良いとか、全然ありますよ

動画事業の売り上げは1年で10倍に

Kaizen Platform代表の須藤憲司氏。

Kaizen Platform代表の須藤憲司氏。

こうした“動画長者”が生まれる背景には、動画の低コスト化と、オンライン事業者からの需要の高まりがある。

斎藤さんもクリエイターとして登録している、企業の DX(デジタルトランスフォーメーション)支援を行うKaizen Platform代表の須藤憲司氏は、動画制作事業の売り上げはこの1年で10倍になった、と明かす。

動画事業自体は2年くらい前からやっていたんです。でもずっと、鳴かず飛ばずだった

その急激な成長のきっかけも、1本の動画から始まった。

それまでは通常のテレビCMと同じように、まず動画を撮影し、その動画を編集することでひとつの広告をつくっていたKaizen。ところがある時、予算をあまりかけられないクライアントから依頼を受け、試しにチラシやバナーといった“ありもの”の素材から、動画をつくってみたのだ。

結果「同じようなものを作ってほしい」との発注が殺到することに。

動画のつくりは極めてシンプルだ。パラパラ漫画と同じ原理で画像を組み合わせ、そこにエフェクトをかけることで言葉を強調させたり、スピード感を出したりする。

動画制作にはネット印刷の「ラクスル」なども参入し始めている。

出典:ラクスル / RAKSUL INC.

「撮影を必要としない」動画の見せ方の手法は、動画制作の大幅な価格低下も引き起こした。かつては数十万円から数百万円はかかっていた広告が、Kaizenでは最安で1本5万円から。

動画はすべて、斎藤さんのようなフリーランスにアウトソーシングされるため、インハウスの動画ディレクターやデザイナーを雇う必要もなくなった。納品も5日以内とあり、動画広告への参入ハードルはぐっと下がった。

1万円の広告が45万円の売り上げを

Kaizen Platform

シンプルなメッセージこそがクリック率に直結する、と斎藤さん。

出典:Kaizen Platform

スマホの広告動画をうまく作れる人と、テレビCMをうまく作れる人の素質はまったく違う、と斎藤さんは明言する。

特に最近強まってきた特徴として、斎藤さんが挙げるのは「メッセージがどんどんシンプルになっている」こと。

スマホに動画があふれかえっている今、つまらないと判断された動画はすぐにスワイプされてしまう。

価格、セールスポイント、セール期間といった伝えたいことは回りくどく言わず、最初に押し出すほうが、明らかにCTR(クリック率)は高い傾向にある、と斎藤さんはいう。凝った画像やリッチな体験は必要ない、ということだ。

最近動画広告への進出が顕著な業界は、EC化が進むアパレル業界だという。動画広告を導入し始めた企業も多いことから、工夫した結果が反映されやすい。

斎藤さんの動画では、かけた広告費に対して得られた売り上げが4500%だったこともある、という。1万円の広告費を投下して、45万円の売り上げにつながった計算だ。

すべてのコンテンツは“ヌルヌル動く”

サイト、チラシ、プレスリリース……。須藤氏は今後数年間で、あらゆるコンテンツが“動画化される”とみて、動画制作者のプラットフォームをつくる方向に舵を切る。

「5Gが普及することで、いま見られるすべてのコンテンツはもっとリッチなものに進化していく。ユーザーはテキストや画像ではなく、情報量の多い動画を求めるようになり、あらゆるコンテンツは“ヌルヌル動く”ようになると考えた方がいい」

現在喫緊の課題となっているのが、動画制作サイドの供給不足だ。

冒頭の斎藤さんのような、“短時間で、シンプルかつ的確な動画広告を大量に生産できる”制作者は、ほんのひと握り。この状況を打開しようと、Facebookは自社プラットフォームで出稿・配信できる動画クリエイティブを制作するワークショップを定期的に開催している。

斎藤さんも、目下の課題は後継者探しだ。「教えたら、すぐに月30万円くらいにはなる」というほど、人材不足は深刻だが、「なかなか(継続するのは)難しい」とも明かす。

最後にKaizenの協力のもと、この記事を“動画化”してもらった。渡したのは記事の内容と、取材時に撮影した画像素材、そしてロゴのみ。さて「動画革命の風雲児」の実力は?

編集部より:初出時、斎藤大吾さんの実績について「年収」と「売り上げ」が混在しておりましたが、取材先に確認のうえ、「年収」で統一しました。 2019年10月7日 13:45

(文・写真、西山里緒)

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