この日食卓を囲んだのは15人ほど。たった20分だが、友達たちと一緒にご飯を食べることが楽しい、という。
撮影:今村拓馬
夏休みもあともう少し……。子どもにとって楽しいはずの夏休みだが、その時期を必死で生き延びる子どもたちもいる。
学校の給食がない期間、痩せてしまう困窮家庭の子どもたちの存在が問題になっているが、そうした子どもたちに食事を提供する団体や学童も出てきている。
勉強以前に生きることに必死
この日は差し入れのスイカも。デザートに歓声が上がった。
撮影:今村拓馬
都内のビルのワンフロア。夕方6時ごろ訪ねると、大学生たちに勉強を教わりながら机に向かう子どもたちの姿があった。
その一角にはキッチンがあり、鍋からはいい匂いが立ち上っていた。午後6時40分になると、15人ほどの子どもたちが一斉にテーブルを囲んで、ご飯とミネストローネを頬張った。この日は特別に差し入れのスイカのデザートまで。20分ほどの食事時間を終えると、また勉強に戻っていく。
ここは中高生のために学習支援を行うNPO法人キッズドアの拠点だ。都内で5カ所、仙台で1カ所開いている。夏休みは学習だけでなく、昼食と夕食の2食を提供している。
もともと家庭にさまざまな事情を抱えた子どもたちの“安全な居場所”として、5年ほど前に事業は始まった。だが夏休みに入る前に、子どもたちに休みの目標を書いてもらったところ、「1日3食食べる」「午前中に起きる」「健康に夏休みを送る」と、およそ子どもの夏休みの目標とは思えないものが挙がった。
「勉強以前にこの子たちは朝起きる、ご飯を食べる、といった生きていくことに必死なんだ」
代表の渡辺由美子さんは驚いた。お腹が空いているから、午前中寝て過ごす子どももいるという。
あえて洗い物はさせない
この日の献立はご飯とミネストローネと、鶏肉のおかずとコールスローサラダ。
撮影:今村拓馬
通ってくる子どもたちの家はシングルマザーの家庭も多い。親も3食食べる習慣がなかったり、そもそも1日中仕事をしていて、ご飯をつくる時間も気力もなかったり。テーブルに食事代として100円ほど置いていく親もいるが、そうなるとその日の食事はコンビニのパン1つかカップ麺……。
「親もやりたくて、そうしているのではない。生きていくのに必死なんです。だから、親を責めるのでなく、私たちが食事を提供することにしたのです」(渡辺さん)
ご飯があることで居場所にも足が向きやすくなる。何より「本当に来て欲しい子」が来るようになる。そして普段1人で食事を取ることが多いからか、「みんなで食べることが楽しい」とささやかな喜びを口にする子どもたち。
ご飯があるだけで居場所に来てくれる子どもたちは増える。
撮影:今村拓馬
みんなで食事を囲むテーブルは清潔で居心地のいい空間を心がけている。
「居心地がいいってどういう感じなのかを知って欲しいんです。ご飯と暖かい汁物にこだわっているのは、それを出せない家庭が多いから、食事ってこういうものだと伝えたいんです」(施設長の今井久子さん)
あえて自分たちが食べた食器も洗ってもらっていない。
「もう家で家事労働の戦力として十分働いている子どもたちが多いですから。ここに来た時ぐらい、ご飯を食べて勉強して、自分の話を聞いてもらえて。子どもが子どもとして尊重される空間にしたいと思っているんです」(今井さん)
食材の確保が課題
調理はボランティアが担当してくれるが、課題は食材の調達。
撮影:今村拓馬
キッズドアの場合、学習支援事業自体は自治体からの委託事業で行なっているが、食事の提供は自主事業だ(拠点によっては委託事業費用に含まれているところもある)。調理をしてくれる人はボランティア、食材の確保は寄付に寄るところが大きい。
「食材の確保が一番の課題です。お米やお中元などを現物で提供してもらうこともありますが、とても助かっています。今フードバンクやフードロスに関心が高まっているので、食の支援について社会の関心が高まってくれればと願っています」(渡辺さん)
キッズドアでは夏休み以外も夕食の提供を続けている。食材確保のためにクラウドファンディングも実施している(8月31日まで)。
(文・浜田敬子、撮影・今村拓馬)