5Gの導入後は、通信速度が現在の1000倍になる。「近未来体験エリア」では、5Gが到来した社会を想定して、様々なブースが展開された。写真は「Rakuten CUP VR」でヴィッセル神戸対FCバルセロナの試合を観戦する来場者。VRゴーグルを用いることで、観覧者の好きな視点から大迫力の映像で試合を楽しむことができる。
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大画面に映るヴィッセル神戸の山口蛍選手やビジャ選手とパス練習をする ── こんな体験イベントに、子どもたちが沸いた。サッカーファンにとっては夢のような体験。大人からも歓声が漏れた。
これは、2019年7月31日から8月3日までパシフィコ横浜で開催された、楽天の一大イベント「Rakuten Optimism 2019(楽天オプティミズム)」でのワンシーンだ。イベントのテーマは「5G時代を、先取りしよう」。2020年にも提供が始まるという5G(第5世代移動通信システム)の実用化後の世界を体験できるブースが多数用意されたほか、楽天市場の人気店舗が集まるグルメブースも出店。5Gをテーマにしたビジネスカンファレンスには各界の著名人が登壇した。
5Gの導入で、私たちの暮らしは、社会はどう変わるのか?ビジネスや医療、エンターテインメントにはどのような影響があるのか?楽天が描く5G後の世界を覗いてみよう。
楽天モバイルが「5Gの世界をリードする」
楽天の代表取締役会長兼社長・三木谷浩史氏。2019年秋の携帯キャリア参入を控え、5Gの未来を熱く語った。
「Rakuten Optimism 2019」初日の7月31日、「オープニングキーノート」に登壇した楽天の代表取締役会長兼社長・三木谷浩史氏は、 6700㎡もあるメイン会場の客席を埋め尽くす聴衆に向けて楽天創業からの22年間を振り返った。
「1997年に2人で立ち上げた楽天には当時、13店舗が出店し、1カ月間の売り上げは実質32万円でした。インターネットのスピードは速いところで28.8kbps。現在は4G回線で10〜20Mbpsですから、回線速度は1000倍も高速化していることになります」(三木谷氏)
月商32万円からスタートし、通信技術の向上とともに事業を拡大してきた楽天。5G時代を見据えたビジネスにも攻めの姿勢で着手している。
「5Gになると、さらに通信速度は1000倍速くなる。この25〜30年間の間に情報通信がまったく違うものに進化しようとしているのです。楽天のサービスもさまざまな形で拡張しており、会員数も1億以上。国内で70以上のサービスを提供、累計1兆2000億以上のポイントを発行しています。グローバル化にもチャレンジしており、サービス利用者は約13億人、グローバル流通総額は年間15兆円を超え、継続的に20%アップをキープしています」(三木谷氏)
楽天は、2019年10月から携帯キャリア(MNO)としてサービスを開始する。「通信料金が高い」と言われる日本に革命を起こす意気込みだ。2020年から開始予定の5Gサービスにも柔軟かつ迅速に対応するという。
5Gになると、具体的にどんなことが変わるのだろうか。
まず「超高速大容量」。2時間の映画を3秒ほどでダウンロードできるという。次に「多接続」。一度に多数の人がさまざまな形で接続できるようになる。そして「低遅延」。これにより高性能のパソコンでしかできなかったゲームもスマホでもプレー可能になるほか、自動運転でサポートが必要な場合に、運転センターにいる人が5G回線を使ってリモートで運転を代替できるベースが整うことになる。
寝ている間に仕事をしてくれるデジタルクローンが登場!?
「5Gが変えるビジネスの可能性」のセッション。写真左から楽天の副社長執行役員 グループエクゼクティブヴァイスプレジデント CIO & CISO・平井康文氏、パナソニックのコネクティッドソリューションズ社常務 エンタープライズマーケティング本部長・山口有希子氏、日本アイ・ビー・エム取締役執行役員 カスタマーサクセス事業・荒川朋美氏、楽天執行役員 楽天技術研究所代表・森正弥氏。
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5Gはビジネスをどう変えるのか。パナソニック、日本アイ・ビー・エム、楽天からキーパーソンが登壇し、「5Gが変えるビジネスの可能性」というテーマでセッションも行われた。
「工場ではIoT機器を用いたスマートファクトリーの実現」「スポーツスタジアムの実況として8K映像を遅延もなく見られる」「産業ではデジタルクローン、例えば就寝中に自分の代わりに仕事をしてくれるクローンができる」……。5Gの到来を前に戸惑う企業もあるかもしれないが、登壇者らは「積極的にチャレンジしていくことの重要性」を強調した。
楽天執行役員で楽天技術研究所の代表を務める森正弥氏はこう話す。
「楽天技術研究所では、配送ロボットを用いた無人配送を実験している。8KカメラをUGV( 地上配送ロボット)やドローンに搭載し、お客様のIDカードを認証、遠くからでも顔認証できるようになる。また、東京からリモートで地方の方を接客することもできるように。楽天技術研究所では35言語の自動翻訳を実現していますが、AIスピーカーに翻訳技術が搭載されれば、外国人社員も言語の障壁を感じることなく活躍できるようになります」
リモートワークやAI翻訳が今よりももっと普及すれば、「生産性が上がる。距離がなくなりコミュニケーションの質が上がる」(パナソニックの山口氏)、「テクノロジーで働きやすい環境をつくることで女性活躍に大きな可能性がある」(日本アイ・ビー・エムの荒川氏)とそれぞれ展望を語った。
キャッシュレスで「消費者・加盟店・事業者」の勝ちが可能に
楽天グループが推進するキャッシュレス化について語る、楽天ペイメント代表取締役社長の中村晃一氏。
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「加速するキャッシュレス社会、楽天のビジョン」のセッションでは、楽天ペイメント代表取締役社長の中村晃一氏が、楽天グループが推進するキャッシュレス化について解説した。
「電子マネーの楽天Edyを小売業に導入した場合、支払いのプロセスにかかる時間が33%短縮し、生産性が向上したというデータも出ている。スーパーマーケットに楽天Edy機能を搭載、楽天Edy支払いの特典を厚くしたケースでは、来店頻度が上がり、顧客あたりの月間単価が7割もアップした事例がある」
最近では「現金お断り店舗」も出てきたという。ある飲食店では完全キャッシュレス化により店長の接客、調理をする時間が20%アップ。ピークタイムの店舗スタッフを4分の1削減した運用が可能になった事例もあった。楽天では、楽天生命パーク宮城とノエビアスタジアム神戸で完全キャッシュレス化を実施。この取り組みにより、飲食の購入金額が楽天生命パーク宮城では26.7%、ノエビアスタジアム神戸50.2%増加したという。
楽天グループは現金を使わない支払い方法として楽天Edyのほか、楽天ペイ、楽天ポイントカード、楽天カードなどを持っているが、中村氏は「キャッシュレス化の本質は、決済情報、消費行動のデータ化にある」と語る。
キャッシュレス化によって把握した顧客データを分析することにより、マーケティングを進化させ、利用者にとっても快いアプローチの形成に役立つのだという。
がん治療のカギを握るITの進化
京都大学 iPS細胞研究所 所長・山中伸弥氏。「これからは患者さんから学ぶ時代」と言い、テクノロジーの活用の重要性を語った。
「5GとAIで革命をもたらす医療最前線」のセッションでは、三木谷氏が、実父の膵臓がんの治療法を模索していたことをきっかけに、知人の紹介で光免疫療法の存在を知り、父の死後も精力的にその実用化に向けた支援をしていると話した。
続いてその治療法の研究者である、 分子イメージングプログラム・アメリカ国立がん研究所 米国NIH 主任研究員・小林久隆氏、三木谷氏が父の治療法で悩んでいたときに知り合った南カリフォルニア大学エリソン・インスティテュート創業者兼CEO・デイビッド・B・エイガス氏、 そして京都大学 iPS細胞研究所 所長・教授である山中伸弥氏が登壇。5Gを含む新しいテクノロジーが、がん治療にどのような影響をもたらすのかを語り合った。
山中氏は「これからは患者さんから学ぶ時代」だと話す。
「白血病でも膵臓がんでも病名は一緒であっても、実はひとりひとりの患者さんで全然違う。遺伝子変異のパターンも違うし、薬に対する反応も違う。いまはオーダーメイド医療の時代と言われます。一人ひとりに合った治療をどう提供するかが求められています」(山中氏)
カギを握るのはテクノロジーの進化だ。
「それぞれの人の持つデータは膨大。ゲノムデータや薬でどう反応したか、自分でもわからないようなデータの蓄積がこれからは大切になる。それを可能にするのが医師でもなく研究者でもなくITの力。世界レベルで進めていかないと」(山中氏)
アメリカ国立がん研究所 米国NIH 主任研究員・小林久隆氏。光免疫療法で知られ、今、がん研究の分野で最も注目される一人。
小林氏もデータ分析の重要性を説く。
「がんを直すには免疫細胞との戦いになる。がん細胞10万個あるとすれば、そのデータを積み重ねるととてつもないデータ量になる。ビッグデータという形でAIを使って処理して通信で医師に届けられる時代がくればありがたい」
ITが日進月歩で進化する中で、将来はどうなるのか。エイガス氏はこう話す。
「今は患者が病院で何時間も待たされ、検査結果についても何日も待たされる。将来の医療は病院に行かなくても自宅にデータを送って、ドクターと話しができるようになるだろう」
三木谷氏の父ががんを患い、三木谷氏がその治療法で悩んでいたときに知り合った南カリフォルニア大学エリソン・インスティテュート 創業者兼CEO・デイビッド・B・エイガス氏。
5Gがもたらす世界は、今までとはまったく違ったものになる。三木谷氏は言う。
「今の1000倍の通信スピードが、てのひらのスマートフォンで実現するということは、抜本的に社会構造が変化し、サービスの概念が大きく進化していく。言葉の壁も人工知能で飛び越え、国の定義も変わるかもしれない。それくらい大きなインパクトがあるでしょう」
そんな大変革が、もうそこまで来ているのだ。