埼玉知事選勝利でも漂流する立憲・国民の統一会派。政策バラバラで旧民主党への先祖返りか

立憲民主党(立憲)と国民民主党(国民)などは衆参両院で統一会派を結成する方針を固めた。

8月25日に投開票が行われた埼玉県知事選挙では野党統一候補が接戦を制し勢いづく中で、衆議院で100議席を超える議席を持つ会派となることで強い野党への期待が高まっている。

一方で、かつて政権を担った民主党への回帰だという批判の声も強く上がる。両党の間には憲法や政策に対する考え方の隔たりもあり、先行きは不透明だ。

“上から目線”の立憲に国民が反発

枝野幸男

衆院会派への統一を呼びかけるも、立憲民主党の“上から目線”に当初国民民主党側から反発の声も上がった。

Reuters/ Toru Hanai

「政権の選択肢としての期待と信頼を高めるには、『数の力』を背景とした与党に対抗しうる強力な構えが必要である」

立憲民主党(立憲)の枝野幸男代表が8月5日、国民民主党(国民)の玉木雄一郎代表、衆院会派「社会保障を立て直す国民会議」(社保)の野田佳彦代表に対して衆院会派への合流を呼び掛けた。

野田氏は「歓迎する」とした一方で、玉木氏は「ありがたい」とはしたものの、持ち帰って検討すると回答。立憲と参院で統一会派を組んでいる社民党は立憲の福山哲郎幹事長の打診に対して「留保」として事実上の否定の態度を示すなど、まさに三者三様の対応となった。

国民側も立憲との統一会派結成について事前に模索していた。8月2日の両院議員懇談会で、立憲側への統一会派の呼びかけと、衆院選に向けた共同選挙対策本部の設置の提案を「1カ月でやっていきたい」としていた。一方で、党内からは自民党との連立を目指すべきだという意見も出されていた。

こうした国民側の動きを察知し、立憲が素早く動いた格好となった提案だった。

しかし、呼びかけが衆院のみの統一会派だったことに加え、「院内会派『立憲民主党・無所属フォーラム』に加わって」と立憲に吸収される形だったため、国民側としては受け入れがたいものになっていた。

さらに立憲は理解を求める政策として、憲法に対する考え方、原発ゼロ、選択的夫婦別姓や同性婚を認める民法改正などを列挙していた。これに対して国民側からは「踏み絵だ」との反発が起きた。国民が原発再稼働を期待する電力総連などからの支援を受けていることからも、受け入れられない提案だった。

「オールド野党の焦り」「隔たり棚上げ」と批判

れいわ新撰組

オールド野党の焦りをよそに、先の参院選で勢いを見せつけたれいわ新選組。

撮影:竹下郁子

玉木氏は8月15日に「衆参両院での統一会派結成」や「政策的方向性、その他必要な事項について誠実に協議し、合意を形成する」ということを条件として「逆提案」。枝野氏は「具体的にお答えいただきたい」と突き返した。

国民内では一連の立憲の態度に「上から目線」などといった批判が相次ぎ、8月20日の再協議では立憲が立場を軟化させ、国民側の条件をのむ形で、衆参両院で会派を「ともにする」形で統一会派結成を目指すことになった。

政策についても、「8月5日の立憲民主党による申し入れを受け入れ」とした一方で、「それぞれが異なる政党であることを踏まえ、それぞれの立場に配慮しあう」とした玉虫色の回答となった。

この動きに対し、左右両陣営より批判が巻き起こった。

産経新聞は、翌8月21日朝刊で、れいわ新選組の支持率と比較し、「オールド野党の焦り」と題して議論を展開。憲法などの「基本政策の一致を軽視した」として、安倍晋三首相が野党批判に用いてきた「悪夢のような民主党政権」を引用したうえで、「旧民主党は憲法改正や消費税など基本政策で歩調を合わせることができず、内紛の末に崩壊した」と先行きを占う。

一方、東京新聞は「両党が結束を優先したせいで、憲法や原発といった政策面の隔たりは棚上げした」と、主張を展開。国民が改憲に前向きであることや、「電力系労組から支持されており、立民の掲げる『原発ゼロ』は受け入れにくい」と立憲側に寄って論じ、複数の意見の相違を「こうした問題」と表現して問題視した。

「排除」想起させる立憲の対応

小池都知事

立憲の対応は、前回衆院選で旧民主党分裂の引き金となった希望の党・小池百合子代表(当時)の「踏み絵」を想起させる。

撮影:今村拓馬

そんな中、8月25日に投開票が行われた枝野氏の地元・埼玉県知事選で、野党の統一候補が与党推薦の候補を打ち破った。現職知事の支持が野党側にあったことや、与党側候補の自滅も大きな要因として考えられるが、参院選で培った野党共闘の地盤が効果的に作用したと言える。

地方では野党共闘を掲げる一方で、国政において統一会派へと舵を切り切れない背景には、両陣営の感情的な軋轢が存在している。

そもそも、現在の野党の分裂は2017年の前回衆院選で小池百合子都知事が率いる希望の党の掲げた政策協定書を「踏み絵だ」と反発し、「排除の論理だ」と枝野氏が立憲民主党を結党したことに端を発している。

今回の立憲の対応は、希望の党の踏み絵を想起させるものだ。希望の党から立候補し、落選した関東地方の元候補者は、「根回しがなかったのが希望の党の失敗で、その反省が生かされていない。(統一会派は)政策的には昔の民主党左派だが、保守をめざした希望の党から当選した議員はどうするのか」と手厳しい。

永田町関係者の中には、「旧民主党は小沢一郎という大物が自由党と民主党との合併を成し遂げて幅を広げ、自民党から票や候補者をぶんどったことで成功した。今回は小粒で幅も迫力もない」とリーダーの不在を指摘する声もある。

国民から地方選挙に立候補し、落選した男性は「元の鞘に収まるのではというのは薄々感じていた。選挙に勝つために分かれ、選挙に勝つために戻るとは情けない」と肩を落とす。

批判を意識したのか、玉木氏は8月21日、統一会派の合意を確認した党総務会後の記者会見で、「単なる民主党への先祖返りにならないことが大事」と強調。

しかし、「原発ゼロ」をめぐって両党の立場の食い違いから、枝野氏が「合意違反だ」と述べるなど、合意文書での「それぞれの立場に配慮しあう」という玉虫色の表現をめぐっての認識のずれが、さっそく生じはじめている。

感情で分裂し、票勘定で合流を目指した今回の統一会派結成の動きだが、国益の損得勘定は存在するのだろうか。旧民主党の漂流は続きそうだ。


竹内一紘:フリーランス記者。東京大学工学部都市工学科卒。元産経新聞社記者、自由民主党衆議院議員秘書。2017年の総選挙では希望の党の候補者を支援。著書に『希望の党の“あとに残った希望” 小池百合子「排除」の真相』。

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