クアンティコ米海兵隊基地でライフルを構えるスナイパー(狙撃手)。
US Marine Corps/Staff Sgt. Bryan Nygaard
・スナイパーは、少なくともある面では、遠く離れた(ときにありえないほど離れた)標的を正確に撃ち抜く能力によって、その評価が決まる。
・超長距離の標的を撃ち抜くには、弾丸が標的にたどり着くまで数秒かかるため、さまざまな要素を考慮する必要がある。
米軍のスナイパーには困難な標的、ときに無謀とも思えるような標的に命中させる能力が求められる。それは自らを駆り立て、銃にその最大限の能力を発揮させる能力だ。
ハンター・バーニアス二等軍曹は米海兵隊のスカウト・スナイパー(前哨狙撃兵)。市街地戦向けの上級訓練も受けたベテラン。技術的に困難な数々の狙撃実績のなかには、2300メートル先の標的に命中させるという離れ業も含まれる。
確認されている遠距離狙撃の世界記録は、2017年、カナダ軍の特殊部隊所属のスナイパーがイラクでイスラム国(IS)の兵士を射殺した3540メートル。その前の記録は、英軍のスナイパー、クレイグ・ハリソンがアフガニスタンでタリバン兵を射殺した2475メートルだった。
「世界を見渡すと、とんでもない離れ業をやってのける奴らがいることは間違いない。奴らには不可能なことなどないんだ」
米陸軍のスナイパーで、フォートベニング基地のスナイパー・スクールの教員でもあるケビン・サイプス一等軍曹はそう語る。
スナイパーは敵軍の動きを捕捉する訓練を受けていて、しばしば敵軍に丸見えの位置からでも指揮官を狙撃し、敵部隊を釘付けにすることができる。ただし、そうした危険なミッションを遂行するには、潜伏技術に精通しているだけでなく、高度に熟練した狙撃技術が必要になる。
Business Insiderが今回取材したバーニアス軍曹の2300メートルは、世界記録でこそないものの、並みのスナイパーでは命中させることがほとんど不可能な距離と言っていい。
命中させるのに必要なのは「高度な数学」
バーニアス二等軍曹は火器中隊所属のスカウト・スナイパー。テキサス州東部ラフキン出身。
US Marine Corps photo by Cpl. Tommy Huynh
米軍のスナイパーが狙撃を行う距離はたいてい600〜1200メートル。2300メートル超えといった厳しい標的を狙う場合、銃の仕様の限界を超えた能力を引き出すしかない。ちなみに、米海兵隊が使うM107セミオートマチック式スナイパーライフルの射程距離はおよそ2000メートルだ。
「地上にいる敵を狙撃するのは難しいことじゃない。とくに600メートル以内、あるいは1000メートル以内なら朝飯前さ。何も考えなくても当たる。でも、銃の性能を超えるような超遠距離の場合はそうはいかない。ありとあらゆる要素を考え抜かなくちゃならない」
そういう極限の状況でスナイパーが頼りにするのは、直感ではなく「高度な数学」だ。
バーニアス軍曹はイラクをはじめ中東のさまざまな地域で従軍した経験を持つが、スナイパーとして最も技術的に困難な標的と対峙したのは、基礎訓練コースを終えた米海兵隊のスナイパーが受けられる上級コースにいたときだという。
「2300メートルという無茶苦茶な距離だったけど、訓練でパートナーを組んでいたヤツと一緒に成功させたよ。計画を立て、ありとあらゆる要素を計算し、これでいけると判断するまでに20分以上かかったけどね」
2300メートルほどの距離だと、銃弾が標的に達するまで6〜8秒かかる。着弾するまでに銃弾の軌道にさまざまの外的要因が影響をおよぼすことを考えると、あまりに長すぎる時間だ。
「何もかもを考慮に入れる必要がある。地球の自転、銃口を向ける方向、そして風の影響。もちろん、銃口のすぐ先に吹く風だけじゃなくて、2300メートル向こう、さらにはその間の1000メートルあたりに吹く風も計算に入れるんだ」
銃口の方向と地球の自転を計算に入れると言われても、多くの人にはピンとこないかもしれない。
スナイパーが銃口を向ける方向は、スコープ(照準器)にどんなふうに日光が入るかと関係してくる。それ次第では、標的の映像が歪み、標的を外しかねない。
また、地球の自転は銃弾に影響を与える。スナイパーの姿勢次第で、着弾する位置はより上に、あるいはより下に逸れることになる。
「といっても、こんなことを考えなくちゃいけないのは、2000メートルを超える超長距離狙撃のときだけだがね」
バーニアス軍曹によると、他にも温度、湿度、時間帯、標的との間に水たまりや池、沼などがあるかどうか(蜃気楼が立つため)、銃弾の形状、銃弾の回転によるスピンドリフト(偏差)なども計算に入れたという。
「結果として命中はさせたけど、間違いなく人生で最も難しい一発だったね」
(翻訳、編集:川村力)