Apple Payが事実上の国内デビットカード解禁。みずほ「Smart Debit」に注目する理由

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Smart DebitリリースにあたってはJCBならびに、大日本印刷(DNP)が組んでいる。

撮影:鈴木淳也

みずほ銀行は8月29日、同本店で開催された新サービス説明会において「みずほWallet for iOS」の新機能「Smart Debit」を発表した。「みずほWallet for iOS」とは、iOSデバイスにインストールされたアプリを通じてみずほ銀行口座の利用状況を確認したり、残高を利用して決済が可能なサービス。

みずほ銀行の口座を持つ利用者であれば、すぐにでも利用可能

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Apple Payで動作するみずほWalletがついにデビット対応。

撮影:鈴木淳也

従来、「みずほWallet for iOS」では「Mizuho Suica」というApple Pay向けの専用の(青い)Suicaカードを通じて、交通系ICに対応した店舗での決済ができる。また、Mizuho Suica残高には、銀行の口座からアプリ上でチャージができる仕組みだった。

今回のSmart Debitでは、銀行口座直結の「デビット方式」を採用した。

プリペイド方式のSuicaとは異なり、Smart Debitで支払った金額は、銀行口座から即座にリアルタイムで引き落とされる。毎回チャージで残高を増やす必要がなく、必要な分だけを銀行の残高から支払い、明細はすぐに確認できる。

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最新版のみずほWallet for iOSの仕様。JCBコンタクトレスにも対応するが、利用できる場所はまだ少ない。

撮影:鈴木淳也

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みずほ銀行 リテールデジタル開発部長の手嶋高史氏。

撮影:鈴木淳也

Smart DebitをApple Payに登録すると、JCBブランドのカードあるいはQUICPay+としての利用が可能。Mizuho Suicaと併用すれば、交通系ICとQUICPay+に対応した店舗での支払いに利用できる。また使える場所は(国内ではマクドナルドやローソンなど限られるものの)、JCBコンタクトレスによるNFC決済にも利用可能だ。

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QUICPay+とSuicaはApple PayのWalletアプリ内で切り替えて利用できる。

撮影:鈴木淳也

設定は非常に簡単で、みずほ銀行の口座さえ持っていれば、みずほWalletアプリをダウンロードして口座連携をするだけ。

カード追加では、以前までMizuho Suicaしか選択できなかったが、今回Smart Debitが新たに選択可能になった。

リリース済みの「みずほWallet for Android」では、すでにSmart Debitが利用可能になっており、おサイフケータイに対応した機種であればQUICPay+での決済が可能だ。

「みずほWallet for iOS」の新機能は、このAndroidでのSmart Debit機能を踏襲したものとなる。Suicaの残高チャージのためにみずほWalletアプリを毎回起動する手間なく、QUICPay+に対応する店舗であればそのまま利用可能になった点で利便性が大きく向上している。

みずほWalletアプリ

利用例。みずほWalletアプリを起動すると、カード追加画面に従来のMizuho Suicaに加え、Smart Debitの項目が追加される。

撮影:鈴木淳也

みずほWalletとiPhoneのWalletアプリ

追加後は、みずほWalletとiPhoneのWalletアプリ上でSmart Debitが確認できるようになる。

撮影:鈴木淳也

なお、今回の新機能提供を受けて、Smart Debitを利用して決済を行った場合、20%のキャッシュバック還元キャンペーンが実施される。

還元額は最大で1万円までだが、特に利用制限などはなく自由度の高いキャンペーンになっている。

またMizuho Suicaにも、上限金額が1000円までとなるものの、やはり20%還元キャンペーンが実施される。期間はSmart Debitが今年2019年12月15日まで、Mizuho Suicaが10月31日までとなっている。

みずほの還元キャンペーン

Smart Debitの利用で決済金額の20%、最大で1万円の還元キャンペーンも実施。

撮影:鈴木淳也

還元キャンペーン

Mizuho Suicaについても決済金額の20%還元キャンペーン。ただし上限が1000円までとなっている。

撮影:鈴木淳也

Apple Payで実質的な国内「デビット解禁」か

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出典:アップル

意外に思われるかもしれないが、Apple Payに登録可能な国内デビットカードとしては、今回「みずほWallet for iOS」に提供されるSmart Debitが初の事例だ。

Android版の提供が開始されたのが2018年3月なので、実に1年半近く遅れての登場となった。日本を除く諸外国でのApple Payは、標準でデビットカードが登録可能な地域が多いため、Apple Payでのデビット対応が行われなかったのは日本特有の事情ともいえる。

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出典:みずほ銀行

詳細な理由は不明だが、複数の関係者らの話によれば「Apple側の意向」とのことで、これまで意図的にリリースが止められていた可能性がある。

つまり、今回のSmart Debit for iOSの登場により「Apple Payでデビット利用が解禁された」と筆者は考えている。今後、各社のデビットカードが順次対応を進めてくることになる可能性は高い。

従来でも、au WALLETプリペイドを工夫して使うことで、デビットに近い使い勝手を実現することはできた。ただし、デビット本来のメリットは、何より口座直結による支払いの手軽さだ。

特に日本の場合、クレジットカードでは「マンスリークリア」と呼ばれる翌月一括払いの利用が一般的で、使い方としてはほとんどデビットの場合と大差ない。

米国の場合はApple Cardの機能にもあるように、ミニマムペイメントを組み合わせた月々の返済プランを自分で設定できるようになっているなど、繰り越し利用がごく一般的になっている。

本来であれば、日本の決済事情にはデビットカードの方が向いている可能性が高いわけで、昨今はJCBやVisaを中心に、デビットカードを積極展開する国際ブランドも出てきている。Apple Payでデビットを利用する下地ができつつある。

みずほが示したデータが興味深い

みずほのキャッシュレス調査

近年のキャッシュレス決済比率の推移。特にデビット決済が伸びているという。

撮影:鈴木淳也

興味深い話題としては、みずほ銀行が示したデータだ。

日本国内のキャッシュレス比率が最近伸びつつある一方、デビット以外の決済金額(主にクレジットカードなど)がそれほど伸びていないのに対し、デビットは急増しているという。

もともとの決済金額が大きく異なるため、そのまま比較するのはフェアではないが(クレジットカードに対して2-3%程度の比率)、デビットの急激な伸びは今後の可能性を感じさせる。

特にキャッシュレス利用に対して抵抗を感じる人の意見には「浪費が怖い」「少額だと申し訳ない」といったものがあるが、そういう場合にデビットにQUICPay+やSuicaを組み合わせた決済手段というのは適した提案だ。

みずほのキャッシュレス調査

キャッシュレス利用動向のアンケートで、きっかけは「お得だから」、使い続けるのは「便利だから」という。

撮影:鈴木淳也

また逆に、キャッシュレスを使い始めた理由が「キャッシュレスを利用するとお得」で、それを継続して利用している理由が「便利だから」というのは良い。昨今の◯◯Payの一連のキャンペーン攻勢が一定の成果を挙げていると考えられるなか、「みずほWallet for iOS」がきちんと利便性を提案できれば、ユーザーが定着することにつながる。

日本政府が掲げる「2025年までにキャッシュレス決済比率40%」を達成するには、おそらく、より多くの消費者の行動スタイルを短期間に変える必要がある。

それには昨今◯◯Payの名前で続々開始した「QRコード決済サービス」だけでは不足で、日々の小さな買い物まで含めキャッシュレスで支払う習慣をつけなければいけない。

その一助となるのが「みずほWallet」のようなアプリの存在であり、少額決済にも利用しやすいデビットカードの存在というわけだ。

日本国内ではまだApple Payに対応していないVisaも含め、今後さらにキャッシュレスを進めるには既存のカード会社や国際カードブランドの協力が求められる。

(文、写真・鈴木淳也)

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