アメリカ8月の銃乱射事件の死者51人に。トランプ発言・保守系メディアが引き金に?

テキサスの銃乱射

テキサス州・エルパソでの事件をはじめ、アメリカでは銃乱射事件が続いている。

Reuters:Jose Luis Gonzalez

アメリカ・テキサス州で8月上旬に起きた銃乱射事件に絡み、トランプ大統領や保守・極右系メディアの言葉遣いが、犯罪の動機につながったのではないかと論争になっている。

銃犯罪の増加は深刻で、8月最後の週末にもテキサス州で7人が死亡する事件があり、1カ月間に銃乱射事件による死亡者は51人に上った。その中で、政治家やメディアの言葉遣いの影響による事件が増えているとすれば、事態はなおさら深刻だ。

「メキシコ人を狙った」

「殺人犯の(彼の暴言における)言葉遣いと、主要保守系メディアの言葉遣いのオーバーラップには、身が凍る」

ニューヨーク・タイムズのジェレミー・ピータース記者は、2019年8月12日こうツイートした。

問題となっているのは、8月3日(米現地時間)発生し、22人もの市民が死亡した米南部テキサス州エルパソの銃乱射事件。米紙ワシントン・ポストは、殺人容疑で訴追された同州の白人、パトリック・クルシウス容疑者(21)がこう供述したと報じた。

「メキシコ人を狙った」

エルパソはメキシコと国境を接し、人口の8割以上がヒスパニック系移民。クルシウス容疑者は、自分が住んでいる同州ダラス郊外から、約1000キロの道を、車で10時間以上運転してエルパソのウォルマートにわざわざ来た。

事件直前には、オンライン掲示板にこう投稿した。

「これは、テキサス州に来るヒスパニックの“侵略”に対する行動だ」

メキシコ人の犠牲者は22人のうち8人で、他の犠牲者も氏名からみると、多くはヒスパニック。捜査当局は、ヒスパニック移民を計画的に標的にした「ヘイトクライム」として調べている。

FOXで300回以上「侵略」を使用

ラッシュ・リンボー氏

アメリカで保守派に影響力のあるラジオパーソナリティのラッシュ・リンボー氏。

Reuters:Carlos Barria

ニューヨーク・タイムズのピータース記者らは事件後、過去5年間のケーブルニュース3局、Foxニュース、MSNBC、CNNの番組トランスクリプト(音声のテキスト)を分析した。さらに、番組出演者が自分のコメントとして使ったのか、あるいは、政治家などが言った言葉を引用して報道したのかを確認するため、番組のクリップも参考にした。

それによると、保守系メディア最大手のFOXニュースでは同期間、300回以上「invasion(侵略)」という言葉が使われ、リベラル系MSNBCとCNNでは、「政治家などがこう言った」という引用としての使用だった。

ニューヨーク・タイムズは、侵略という言葉が戦争とは関連なく、主要メディアで使われたことは、以前はなかったと指摘している。また、国の成り立ちが「移民国家」であるにもかかわらず、移民がアメリカを「侵略する」というのも、矛盾がある。

他にも、保守系メディアや保守系論客が不法移民を評して使った言葉は、「flood(訳注:移民の殺到)」「replace(訳注:取り替える、転じて移民に一掃される)」などがある。

「侵略者は、銃撃してもいい」(保守系論客、アン・クルター氏)

「(中南米からの移民の)目的は、素晴らしくユニークなアメリカの文化というものを、希薄化し、撲滅し、消し去ることだ。これが、侵略と呼ばれる理由だ」(週に1500万人の聴取者がいるラジオ司会者、ラッシュ・リンボー氏)

トランプ氏「よそ者」213回、「犯罪者」189回

Trump with supporters

トランプ大統領は再選に向けて、より自身の支持者に応える政策を打ち出している。

Reuters:Jonathan Ernst

保守系メディアにおける、これらの極端な表現は、トランプ大統領の発言が影響している可能性は極めて高い。ただし、「侵略」「殺到」といった表現は、トランプ氏の移民に対する表現よりはまだマシだ。

トランプ氏はこれまでの集会で、不法移民を指して、以下の言葉を使っている。

「よそ者」「殺人者」「強姦魔」「獣」「犯罪者」

USAトゥデー紙が、トランプ氏が2017年以降開いた64回の集会のトランスクリプトを分析したところ、不法移民に関して「よそ者」は213回、「犯罪者」は189回、「獣」は34回、「殺人者」は32回使った。「侵略」は19回、「私たちの国からとっとと出て行け」は43回使っている。

2019年5月、トランプ氏がフロリダ州で開いた集会で「どうやったら、奴らを止められるんだ?」と言うと、参加者の一人がこう叫んだ。

「銃撃しろ!」

USAトゥデーの記事にコメントしたニューヨーク大学のルース・ベン-ギアート教授は、こう指摘している。

「プロパガンダのつかみでもある繰り返しを利用することは、特定の標的に関する考え方を植え付けようとするトランプ氏の意図を表している」

月間UVが倍増した保守系サイト

foxnews.com

Foxnews.comでは保守系の記事を載せ、アメリカ人口の3分の1のUUを誇る

出展:foxnews.com

トランプ氏の発言をよく使い、リベラルを攻撃する保守系メディアが「繁栄」していることも、エルパソの事件後分かった。

コロンビア・ジャーナル・レビュー(CJR)が、調査会社コムスコアのデータを利用して分析したところ、FOX ニュースのオンライン版であるFoxnews.com、保守系新聞ワシントン・エグザミナーを始め、ドラッジ・レポート、レッドステーツなどの保守・極右系のサイト訪問者(ユニークビジター、UV)が増え続けている。

Foxnews.comの2019年の月間UV数は2015年の2倍を超え、1億人超と保守系サイトではトップ。まさにアメリカの人口の約3分の1になる計算だ。有力紙のニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストのそれをはるかに上回っており、Foxnews.comを超えるのは、CNN.comの1億2000万人だけだ。

ワシントン・エグザミナーは、2018年6月に500万UVだったのが、2019年6月には2倍の1000万UVとなった。

CJRは、保守系サイトのUVの規模は、2020年大統領選挙に大きな影響を及ぼすとの懸念も示している。

「ジャーナリスト、未来の予言者、政治家が、2019年における保守系サイトのカバー範囲を把握していなければ、選挙の年(2020年)のこの国の重要な部分のムードを見過ごしていることになるだろう。その部分というのは、次の大統領を選ぶ、あるいは今の大統領を再選させるに十分な規模を持つ可能性があるからだ」

(文・津山恵子)

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