LINEのAIはすでに誰でも使える場所に存在する。写真で服などの商品が検索できる「ショッピングレンズ」もその1つ。
撮影:小林優多郎
「スマートフォンのカメラで映すだけで、被写体が何なのかすぐにわかる」
一昔前のSFのようなシチュエーションだが、現代においては、こうしたカメラの活用法の実用性が高まっている。
この仕組みは一般的に人工知能(AI)による画像認識を応用して実現されており、さまざまな大手プラットフォーマーやスタートアップなどが開発に取り組んでいる。
その中でも頭角を現し始めているのがLINEだ。LINEはこれまでも、アシスタントサービスの「Clova」や自社サービスなどでAI技術を開発・活用してきた。6月のLINE CONFERENCEでは、それらの技術を外販するソリューション事業「LINE BRAIN」を発表した。
LINEのAI技術はどれほどのものなのか。LINE BRAIN事業を統括する砂金信一郎氏が、その実力を身をもって検証してもらった。
今回実験してみた機能は写真からECサイトの売り場を検索できる「ショッピングレンズ」
LINEの買い物サービス「LINEショッピング」の検索窓の右にあるアイコンをタップして写真を読み込ませる。
砂金氏は、前職マイクロソフト時代からIT業界屈指の“ド派手なジャケット”を着こなす人として知られる(スイマセン)。これがショッピングレンズで実際に「探せる」のか?
果たしてLINEのAIは砂金氏のジャケットを特定できるか。
ゼブラ柄(私服)ジャケットでは、似た柄のカーディガンは出てきたものの残念ながらドンピシャのブランドはヒットしなかった
ゼブラ柄はアルゴリズム的に縞模様の服などと混同しやすいようで、認識するのは難しい部類のようだった。
気を取り直して、カラフルな花柄(私服)で再トライ。今度はバストアップで撮ってみた
今度はトップから2列目にヒット。このままLINEショッピング経由で買うとポイントが付与される
なお、「どの服が似ているか」の判別は形と色の割合(比率)で判定しているとのこと。また裏側で動くAI(画像認識モデル)は、パートナーから提供される画像をベースに一定の時期にアップデートし、順次進化させている。
LINEは用途などを絞った特化型AIを開発
LINEのLINE BRAIN室 室長を務める砂金信一郎氏。
被写体を識別できるAI機能は、LINEだけが取り組んでいる領域ではない。
例えば、グーグルの「Google Lens」はPixelシリーズを含むさまざまなメーカーのAndroid端末で利用でき、建造物などを撮影すると特定できる。
ほかにも、アップルやマイクロソフトなどのいわゆる大手プラットフォーマーが軒並み取り組んでいる。そんな中でLINEの強みはどこにあるのか。
スマートフォンで何でも分かる時代が実現しようとしている。
撮影:今村拓馬
その答えを砂金氏は「用途や地域に特化している点」と語る。
「ショッピングレンズは、送客先のECサイトに売ってそうなものを検索するのに特化するようにチューニングしている。特にアパレルメーカーなど、ユーザーがLINEを通してよく買うものに特化しているがゆえに精度が高い」(砂金氏)
AIの精度は学習データによるところが大きい。LINEショッピングはユーザーの購入履歴と提携先のECサイトから送られてくる膨大な商品画像をもとに、「買い物をするための画像検索AI」を実現している。
LINEの店舗予約受付AI「Duet」のデモ映像。
出典:LINE
このような考え方は、同社がメインに開発する3つの開発領域「テキスト(Text)」「音声(Speech)」「動画・静止画(Vision)」すべてに共通している。
「LINE カンファレンスで公開した電話受付代行AIの『Duet』も(あえて)お店の予約しかできない。特化した方がよりよいユーザー体験ができるという考え方は、LINEとしての割り切りだ」(砂金氏)
また、砂金氏は「日本語を含むアジアのマイノリティー言語は、僕らのほうが早いという差別化要素はある」と、英語圏中心の大手プラットフォーマーと比較した際の強みも明らかにしている。
LINEのAI“外販版”は、2019年末本格稼働
LINE BRAINのソリューション一覧。
LINEはカンファレンスの中で「LINE BRAIN」として、開発してきたAI技術を外販する戦略を明らかにしている。LINEは前述の3つの領域それぞれのパッケージ例を以下のように挙げている。
- テキスト……チャットボット、テキスト分析
- 音声……テキスト変換(Speech to Text)、音声合成(Text to Speech)
- 動画・静止画……文字認識(OCR)、被写体認識(Vision)、動画分析
LINEのOCR技術活用例。LINEで送った写真内に含まれる文字をテキスト化、場合によってはそのまま翻訳もできる。
これらのAI技術をベースに、導入を検討する企業ごとに、特化した開発を進める体制をとっている。すでに発表されている範囲では、スカパーJSATと伊藤忠商事とLINEで次世代テレビの開発を行っていくとしている。
LINEカンファレンスで触れられた次世代テレビでは、アシスタントのClovaを内蔵し音声でテレビを操作できるだけではなく、LINE BRAINの被写体認識機能を使い、例えば動画に写っている商品を検索し、購入プロセスへ誘導するコンセプトなどが明らかになっている。
LINEとスカパー、伊藤忠の取り組む次世代テレビの活用例。テレビの番組内で出てくる料理のレシピをすぐに検索できる。
また、砂金氏はLINE BRAINの今後のロードマップについて以下のように語っている。
「パートナー先の現場に、本当に馴染ませられるか、AIのチューニングなどに(およそ)3カ月かかる。そのため、PoC(Proof of Concept、実証実験)のプロジェクトとしてどんなことをするかは2019年いっぱいかけてお話しする。
本番稼働するのは、2019年末から年明けぐらいになるだろう」(砂金氏)
AIだからやるのではなく、便利になるからAIを使う
写真右から砂金氏とショッピングレンズなどの開発に携わるLINE O2O開発室 室長の久保貴史氏。
これから企業やユースケースごとに自社のAIをベースに新サービス・製品を開発していくLINE BRAINだが、LINEがほかのサービスでも掲げていることと同じく「ユーザー目線を大切にしたい」としている。
「プロダクトアウトという点では、広くあまねくだが、例えばすべてのビジュアルのテキスト化をしたいのではない。この服がかわいいけどどこで売っているのか、あのジャケットどこのブランドのものか?とか、そんな困りごとの解決方法を提供したい」(砂金氏)
LINEは6月のCONFERENCEで「AIカンパニー」であることを大々的にアピールしている(2019年6月撮影)。
また、砂金氏はPoC(実証)の段階を経たあとは、個人商店などのSMB(Small and Medium Business、中小規模店舗)に広げていきたい考えを明らかにした。
「恐らく2020年夏の手前ぐらいには、より広範囲のお客さんに提供できる。
もともと『LINE@』(現在は公式アカウントに統合)や『LINE Pay』などを通じてSMBの方々とはつながりがある。そこの課題をぜひ解決したい」(砂金氏)
国内約8100万人の月間アクティブユーザー数を抱えるLINE。すでにさまざまな場所で、LINEのロゴを見かけるようになっている。メッセンジャーとして日本の覇権を握ったLINEだが、AI技術の活用でも活躍できるのか、今後にも注目だ。
(聞き手・伊藤有 文、撮影・小林優多郎)