「救急車タクシー問題を解決」夜間往診サービス“ファストドクター”がスタートアップの登竜門で優勝【ICC KYOTO 2019】

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撮影:伊藤有

新産業の共創カンファレンス「ICC KYOTO 2019」(会期:9月3日〜5日)が京都で開幕した。

初日冒頭のスタートアップがプレゼンバトルで競う登竜門「スタートアップカタパルト」には15社が登壇。今年、勝ち抜いたのは、夜間・休日往診支援サービス「ファストドクター(Fast DOCTOR)」を起業した菊池亮さんだ。

ファストドクターは2016年7月に設立。同年サービスを開始した。現在では、年間4万件以上の医療相談と年間1万件以上の往診支援を手がけている。

菊池さんは、日本の救急医療が抱える問題は「自力で通院できない場合、これまで救急車を呼ぶしかなかった」ことだという。このため、重症患者の対応に遅れが出始めており、また実際に搬送された患者の約半数が、実際には「軽傷」だったという状況が生まれている。

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結果的に軽症だった患者が救急車を呼ぶことで、病院収容までの時間も現場到着までの時間も悪化し続けているのが現状だ。

撮影:伊藤有

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総務省の調査では、救急搬送された患者の半数は軽傷だったという集計もある。

撮影:伊藤有

救急に担ぎ込まれる軽症者、治療にあたる医者の負担、インフラである救急車の過密稼働、そしてその稼働に支払われるコストという社会的負担。これらをファストドクターは大きく抑制できる可能性がある。

いまある夜間往診とは何が違うのか

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撮影:伊藤有

ファストドクターは、いわゆる夜間往診サービスだが、「主治医が来る」のではなく、誰でも使えるサービスという点が異なる。

菊池さんは、ファストドクターを「患者にとって救急車に代わる新しい選択肢」になると考えている。

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特に小さな子供を持つ親や高齢世帯にとって、「何かあっても往診してもらえる」という選択肢が増えるのは大きな意味がある。

撮影:伊藤有

現在、1年365日、東京23区のすべてのエリアに対応し、登録している専門医は現在300名という規模。要請を受けてから診察までは、最短30分。処方薬は院内処方の扱いで、手持ちも可能。もちろん、保険適用だ。さらに支払いは、「完全にキャッシュレス」という身軽さもある。

利用する際は、電話、アプリ、ウェブフォームからコールセンターに連絡をとる。コールセンターの時点で、患者の緊急度を4段階に整理するトリアージが行われ、その最終判断は医師が行うという。

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ファーストドクターに着信した段階で、トリアージを行って緊急性を判定し、往診にあたる。

撮影:伊藤有

往診に訪れた医師からは、いわゆる救急外来と同程度の水準の医療行為が受けられるようにしている。

「社会的コストが減る」のはなぜか

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社会的な医療負担のコストイメージ。

撮影:伊藤有

前述の、救急搬送された患者の半数が軽傷だった、という結果からわかるように、ファストドクターの取り組みが一般的になれば、(救急車の不要な稼働を抑制できるため)社会的なコストは大きく下がる。一方、患者側のコスト負担も、通常の往診とほとんど変わらない水準だという。

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ファストドクターの往診にかかるコスト比較。

出典:Fast DOCTOR公式サイトより

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シフト制にすることで、医師の働き方の自由度、休暇をしっかりとるということも可能。

撮影:伊藤有

医師の品質管理にも注意している。登録ドクターになるためには、最大5回の研修と、実稼働後のスコアリングが行われる。スコアが一定水準に満たない医師は、再教育などの改善措置がとられる。

一方、医師の定着率を高めるために、シフト制にすることで働きやすい状態をつくるなどで、働きやすく満足度の高い労働環境を提供する。

菊池さんは受賞発表後の取材で、「ファストドクターの取り組みにどの程度社会的インパクトがあるのか、証明できるまでにはまだ時間がかかる」としながらも「およそ今後2年程度の活動で(社会の医療費問題に対して)このくらいの改善が期待できそうだ、という試算ができるのではないか」と語った。

活動を一般化させるためには、医師など関連業界側の理解も必要だということだが、今後のサービス拡大に期待したいサービスだ。

なお、スタートアップカタパルトのそのほかの受賞者は以下のとおり。

ICC KYOTO 2019スタートアップカタパルトの入賞者

2位(同率)
データグリッド 岡田侑貴さん

2位(同率)
ガラパゴス 中平健太さん

4位
RevComm 會田武史さん

5位
Linc'Well 金子和真さん

6位
シルタス 小原一樹

(文、写真・伊藤有)

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