10月1日から、幼児教育・保育無償化制度が始まる。働く親たちの生活はどう変わるのか。あるいは変わらないのか。
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働きながら子育てをする人の9割近くが「家庭の時間を十分に取れていない」と感じており、もっとも取れていないのは「子どもとの触れ合い」と「自分のための時間」(同率)だった ——。
10月1日の幼児教育・保育無償化制度(幼保無償化)の実施まで、1カ月を切った。これをきっかけに、総合人材サービスのパーソルキャリアが行った調査で、子育て家庭の切実な実態が浮き彫りになった。
幼保無償化で、子育て家庭には一定の時期に金銭的な余裕が生まれることになるが、その分「時間」的な余裕も生まれるのか。
幼保無償化 : 2019年10月1日から、幼稚園や保育所に通う3〜5歳児クラスの全ての子どもと、保育所に通う0〜2歳児クラスのうち住民非課税世帯の子どもの、利用料が無料になる。ただし認可外施設は、無償化される上限額が決まっている。
現在、家庭の時間を十分に取れていると感じていると感じている働く親は、1割超。実に9割近くが「取れていない」と感じている。
出典:パーソルキャリア
パーソルキャリアが、20〜40代の全国の働きながら子育てする男女(ワーママ・ワーパパ)600人を対象に調査した。「十分に取れている」人がいることはいる程度。あなたの実感値と合うだろうか。
十分に取れていない時間の筆頭は「子どもとのふれあいの時間」「自分のための時間」、いずれも92.8%の人がそう答えている。
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子どもとの触れ合いの時間もないし、自分の時間もない。これらに続いて、「休息のための時間」(79%)、「夫婦で過ごす時間」(73%)、「家事をする時間」(66%)が続いた。
より「足りない」ことによる影響が、深刻なものほど上位に挙がっている印象だ
働く親の7割以上が「家庭の時間を得るため、仕事の時間を減らしたい」と思っている。
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家族と過ごす時間が「足りていない」という自覚を持つ人は多く、仕事時間を減らせば、解決に向かうと考える人は少なくない。
1日のうち、現在「取れている家庭の時間」と本当は「取りたい時間」の差は約2時間だ。
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現在取れている家庭の時間の平均は「3.3時間」で、一方の理想の時間の平均は「5.3時間」だった。
帰宅してから子どもたちの寝かしつけまで「食事以外、座るヒマもない」。
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東京都内在住の会社員で、保育園に通う6歳と3歳の子どもを育てる女性(38)の、終業後の生活はこうだ。
「職場の誰よりも早く、午後5時半には会社を出ても、保育園に着くのは午後6時半。そこから、なかなか帰ろうとしない子どもたちを連れて帰宅すれば午後7時を過ぎています」
お迎えの後、子どもがどうしても保育園の園庭を走り回ったりふざけたりして、すんなり自転車に乗らない。ようやく自宅にたどり着いてからが真剣勝負だ。
「荷物を置いて子どもの手を洗わせ、夕食の支度にかかり、食べ始めるのが午後7時半を優に過ぎています。なんとか食べ終えさせ、夕食の片付けをして、お風呂に入れるのが午後8時半。お風呂で遊んだり、着替えるのを嫌がったりするのをなだめて、2人分の歯ブラシを終えると午後9時は過ぎています」
本の読み聞かせで、子どもたちが眠りにつく頃には午後9時半は過ぎている。
「はっきり言って、食事以外、座るヒマもありません」
帰宅してから、子どもと「過ごす」というより、子どもの世話をギリギリでこなす時間が2時間半だ。
幼保無償化になった分の使い道、もっとも多いのが「子育て費用」(71.6%)、続いて「貯金」(56.1%)。
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その次に多いのが「家庭での旅行や娯楽に当てたい」「生活費に充てたい」でそれぞれ3割程度だった。
ただ、幼保無償化で金銭的メリットをうけられた分(収入を減らしても)「仕事を減らして時間を増やしたい」人は約2割にとどまった。
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「幼保無償化によって補助が受けられたら働く時間を減らせますか」という質問には、実に95.9%が「減らせない」と回答。
出典:パーソルキャリア
幼保無償化によって、子育て費用に「金銭的なメリット」は生じるが、だからと言って「現実的に仕事の時間が減らせる訳ではない」というのが実態のようだ。では、それはなぜか。
働く男性の長時間労働の割合は、日本が3人に1人と、国際的に見ても突出している。
就業時間が週49時間以上の男性就業者の割合(国際比較)
出典:労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較2017」
上記のグラフは、週の就業時間が49時間以上と答えた、働く男性の割合だ。「家族と過ごす時間が十分でない」と感じ、「もっと仕事を減らしたい」と思いつつも、「仕事量が定時では終わらない」レベルの人がこんなにもいる。必然的に、そのパートナーには家事の負担も重くかかり、家族と過ごせる時間は、夫婦ともに減ってしまうという悪循環がある。
今回調査では、幼保無償化による金銭的なメリットの使い道は「子育て費用」や「貯金」と堅実ながらも、「その分、早く帰って足りていない家庭の時間を増やしたい」という声は、2割程度にとどまった。
そうしたニーズはあるにせよ、大きな動きにならないのは「子育てで一番、お金がかかるのは幼児期というより大学進学や塾などの費用」(30代男性)という意識が根強いからだろう。これは内閣府の調査でも明らかだ。
少子化の大きな原因とされる「経済的な負担」やその心配は、幼保無償化では、ぬぐえそうもない。消費増税も目前に控えている。「家庭の時間が十分でない」と感じながらも、変わらず働き続けているのが、多くの親の現実なのかもしれない。
(文・滝川麻衣子)