トランプ米大統領の富の象徴であり、アメリカ好景気の象徴ともなっている、ニューヨークの5番街にあるトランプタワー。
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・主要な指標を見るかぎり、アメリカ経済はいまのところ絶好調
・この好景気の恩恵を受けていないと感じているアメリカ人が多い
・いったいなぜなのか? この矛盾を説明するチャートを10点用意した
景気後退に向かいそうな雲行きの怪しさはあるものの、アメリカの主要な経済指標には、いまのところほとんど問題は見られない。
経済成長は堅調で、失業率はきわめて低い。株価はリーマンショックの影響をはねのけて見事にV字回復。
にもかかわらず、多くのアメリカ人はこの好況の蚊帳の外に置かれていると感じている。
コスト上昇、債務の増加、賃金の伸び悩み、そして不平等の拡大がいわば経済の二極化を生み出し、勝者はますます富み、それ以外の多くの人たちはこれまで通り暮らすだけでもいっそうの苦労を強いられるようになっている。
経済は十分強いように見えるのに、なぜ人びとはこれほど苦しんでいるのか。その理由を説明する10点のチャートを用意した。
代表的な経済指標の多くは、いまのところいずれもきわめて良好。まず、国全体の経済活動を測る尺度として広く使われるGDPは、最近の下方修正で期待を裏切られた感もあるが、ここ数年安定的な成長を続けている。
国内総生産(GDP)成長率の推移。季節調整済み、年率換算。
Business Insider/Andy Kiersz, data from Bureau of Economic Analysis
ニューヨーク・タイムズによると、2018年の実質国内総生産(GDP)は3%増と当初予想されていたが、7月26日の米商務省発表で2.5%増へと下方修正された。
失業率は、グレート・リセッション(リーマンショック後の景気後退)の収束後、着実に低下を続けている。いまや数十年前より低いくらいだ。
失業率の推移(2000年以降)。
Business Insider/Andy Kiersz, data from Bureau of Labor Statistics
2010年10月、アメリカの失業率はピークに到達。その後、2019年7月まで下がり続け、現在は3.7%。
ここ数年、毎月およそ20万人の雇用が生まれている。
非農業部門雇用者数の推移。前月比の増減を示し、単位は千人(2012年以降)。
Business Insider/Andy Kiersz, data from Bureau of Labor Statistics
非農業部門雇用者数(NFP)の月次変化は、アメリカ経済を観測する上で最も広く用いられる数字のひとつ。上のグラフにある通り、2012年1月以降、平均して1カ月に20万3000人ずつ雇用者が増えている。
グラフには示されていない2012年以前の数年、状況はもっとずっと悲惨だった。グレート・リセッションのどん底だった2008年〜09年は、毎月数十万の雇用が失われていった。とりわけ、2009年3月はわずか1カ月で80万3000人の失業者が出た。
労働市場の健全性を測る他の指標も、バラ色の未来とまでは言えないが、近年は改善の一途をたどっている。
労働参加率(25〜54歳)の推移(2000年以降)。
Business Insider/Andy Kiersz, data from Bureau of Labor Statistics
働き盛りのいわゆるプライムエイジ(25〜54歳)の労働参加率は、雇用状態にある人と、米労働統計局が公式に定める失業状態にある人の数を示す。したがって、労働参加率の低下は、働いていない人と仕事探しをやめた人の数が増えることを意味する。
この数字はグレート・リセッションの後、2016年頃に底打ちして回復基調にあるが、2000年代の水準(上のグラフに見えるように83%前後)までには達していない。要するに、働き盛りの大人たちがいまも少なからず、労働市場から締め出されたままでいるということだ。
しかし、アメリカ人の多くはこうした経済成長の恩恵を受けていない。賃金を見ればそれは明白だ。
1時間あたり実質賃金の推移。2019年7月を基準とした物価変動調整後の数字。
Business Insider/Andy Kiersz, data from Bureau of Labor Statistics
上のグラフからわかるように、物価変動調整後の実質賃金は、数十年単位でほとんど変わっていない。
「数字ほどに経済状況が良く感じられない」大きな理由のひとつは、中流階級の仲間入りをしたり、中流階級にとどまったりするためのコストが上昇しているからだ。
大学の授業料の推移(赤)、インフレ率(青)との比較(1978年以降)。
Business Insider/Andy Kiersz, data from Bureau of Labor Statistics
大学の授業料は、ここ数十年のインフレ率を上回る勢いで高騰している。高騰の原因はいくつか挙げることができるが、ここでは触れないでおく。ともかく、状況は悪くなる一方だ。
大学の授業料が高額化した結果、学生たちの抱える借金がものすごく増えている。
学費ローン残高の推移(2003〜19年)、単位は10億ドル。
Federal Reserve Bank of New York
現在、アメリカ全体が抱える学費ローンの残高は1.5兆ドル(約165兆円)。2003年の6倍にも膨れ上がっている。
「学費ローンクライシス」は深刻過ぎる問題だ。60代になってからようやく完済、という人もたくさんいる。借金の荷が重すぎて、若い人たちは子作りのような人生の一大イベントを遅らせざるを得ない。
他のコストも猛烈な勢いで上昇中だ。医療費も、2000年代に入ってからインフレ率を上回る勢いで高額化している。
医療費(赤)の推移、インフレ率(青)との比較(2000年以降)。
Business Insider/Andy Kiersz, data from Bureau of Labor Statistics
医療コストはアメリカの政治問題のなかでも、皆が関心を寄せる最大の問題のひとつ。民主党の次期大統領選立候補者のほとんどは医療制度改革を公約に掲げている。
公的医療保険の導入(範囲拡大)を実現した「オバマケア」を土台に、制度拡充を図ろうと主張するジョー・バイデン前副大統領。さらには、抜本改革として国民皆保険制度「メディケア・フォー・オール」プランを提案しているバーニー・サンダース、エリザベス・ウォーレン両上院議員らがそれだ。
「数字ほどに経済状況が良く感じられない」もうひとつの大きな理由は、所得格差だ。
ジニ係数の国際比較(2016年)。アメリカ(赤)はコスタリカとメキシコに次ぐ格差社会。
Business Insider/Andy Kiersz, data from OECD
格差を測る一般的な指標(2016年)によると、アメリカは他の国々に比べてかなり不公平な社会だ。
この指標は「ジニ係数」と呼ばれ、ある国の所得再分配がいかに平等からかけ離れているかを示す。
係数「0」は完全に平等な再分配が行われている状態で、そこでは全国民がまったく等しい所得を得ていることになる。逆に、係数「1」は完全に不平等な再分配が行われている状態で、たったひとりの人間がある国の全所得を独占し、他は所得ゼロであることを示す。
こうした所得格差の大きさは、アメリカ人の多くが昨今の好況の蚊帳の外に置かれる一方、一部の裕福な人間たちがその資産が増えていくのを眺めていることを意味している。
そしてここ数十年、アメリカでは格差が広がり続けている。こんなだから、好景気を実感できないのも当然のことだ。
上位1%の富裕層の所得がアメリカ全所得に占める割合の推移(1913〜2013年)。
Business Insider/Andy Kiersz, data from World Inequality Database
アメリカでは第二次世界大戦後、上位1%の超富裕層の所得が全国民の所得に占める割合は少しずつ減っていったが、1980年代を境に猛烈な増加に転じ、いわゆる「金ぴか時代」(南北戦争の終わった1865年から1890年、大きな経済成長を遂げた時代を指す)と同水準にまで達している。
[原文:10 charts that show why the economy feels so bad — even though it sounds so good]
(翻訳、編集:川村力)