上司が喋りすぎ問題、部下との関係を築くコミュニケーション「探索」とは

組織開発型のシステミック・コーチングを展開する株式会社コーチ・エィが2015年、世界15カ国(地域)を対象に行った「上司と部下の会話」に関する調査によると……。

日本は中国や香港、タイに次いで、部下より上司の話している時間のほうが長い国。一方で、「直属の上司との関係がどれくらい良好か」について質問したところ、日本はなんと、上司と部下の関係の良好度が15カ国中、最下位だったそうです。

今回はコーチ・エィ専務執行役員の桜井一紀さんに「上司がしゃべりすぎてしまう」実態を解説してもらうとともに、上司にとって必要な「聞く技術」を身につける方法、より良い上司と部下のコミュニケーションのあり方について伺います。

桜井一紀さん


PROFILE
桜井一紀
株式会社コーチ・エィ専務執行役員/エグゼクティブコーチ
日本大学大学院史学専攻修士課程修了。東京都公立中学校の社会科講師を経て、1997年に株式会社コーチ・トゥエンティワン、2000年に特定非営利活動法人 日本コーチ協会の設立に参画。部下とのコミュニケーション、リーダーシップ、チームマネジメント、会社経営などをテーマとするエグゼクティブ・コーチングを行う。著書に 『一流のリーダーほど、しゃべらない』(すばる舎)

「しゃべりすぎ」な日本の上司たち

——上司と部下のコミュニケーションについて調べていたところ、貴社のレポートを知り、非常に興味深いと感じました。改めて内容を伺えますか。

当社では20年以上コーチングを提供し、東京だけでなくニューヨークや上海、バンコクなど世界に5拠点展開しているのですが、上司と部下のコミュニケーションにも各国の違いがあることを実感していました。

それで、2015年に15カ国(地域)を対象に調査を行ったのです。「上司と部下の会話の頻度」について、日本はインド、イギリス、フランスに続く第4位だったのですが、「上司と部下が話す割合」については、「上司が話している時間のほうが長い」「部下が話している時間のほうが長い」「ほぼ同じ」の3択から選んでもらったところ、日本は中国、香港、タイに次いで4番目に「上司が話している時間のほうが長い国」でした。

また、「直属の上司との関係がどれくらい良好か」について4段階で回答してもらったところ、日本の平均値は2.90で15カ国中最下位だったのです。ちなみに1位のインドネシアは3.69、アメリカは5位で3.47。3を下回ったのは日本だけでした。

つまり、日本は上司と部下が頻繁に会話しているものの、内容としては上司が話している時間のほうが長く、しかも上司と部下の関係は、他国と比べると良好とは言えない、という結果だったのです。

——確かに、上司と部下のコミュニケーションが上司からの一方的なものとなっていると、関係性が良くなるはずはないですよね……。その結果を見て、率直にどう感じましたか。

想像通りの結果ではありました。私たちもさまざまな企業に対してコーチングを提供していて、すべての会社がそうとは限りませんが、たびたび散見されることだな、と。

後ろ姿

上司と部下が話す割合については、儒教の影響もあるのか、アジアは比較的どの国も上司のほうが話す傾向がありました。ただ、日本では、そもそも対話型のコミュニケーションを体験している人が少ないのかもしれません。

最近は変わりつつあるようですが、学校では先生が生徒に教え、会社では上司が部下に教える。知識を持つ者が持たざる者に伝えるという教育が標準的なものでした。そこには、対話して、ディスカッションで何かを一緒に作っていくようなコンセプトが足りないのです。

本来、会議やミーティングをそういった場にしていけたらいいのかもしれませんが、会議の多くは、上司の承認を得るための会議というか、部下が現状報告の資料を用意して、上司からの質問に答えて、上司が納得する……といったものになってしまっています。

——どうして、上司ばかりが話して、部下が聞く、という構図になってしまうのでしょうか。

もちろん、両者に責任はあるでしょうが、やはり上司がそういう状況を助長しているところはあると思います。上司にとっても部下にとっても一方的な教育が当たり前でしたから、何もしなければ自然とそうなってしまう。よほど上司が「しっかりと対話しよう」「部下の思っていることに耳を傾けてみよう」と意識しなければ、難しいのです。

上司は「いい聞き役」になるべき

——桜井さん自身、著書にも書かれていますが、「一流のリーダーほどしゃべらない」というのは、どういうことでしょうか。

著書

「しゃべらない」というのはかなり強い言い回しではありますが、いちばん伝えたかったのは、双方向のコミュニケーションが重要だということ。上司はもうすでに充分、部下に対して話しているなら、今度は部下からきちんと話を聞かなくてはならない。そうでなければ双方向のコミュニケーションは成立しません。

けれどもあまりに部下の話を聞けない……聞かない上司が多いのです。スキルとしてもマインドとしても、上司にはさまざまな要素が求められますが、最も重要なのは、「聞こう」とするスタンス。上司には、いい聞き役であることを目指してほしいのです。

——とは言え、「聞く」という一テーマだけで何冊も本が出版されているほど、それを身につけるのは容易ではありません。どんなことから始めたらいいのでしょうか。

「聞く」ために、さまざまな要素があります。的確な質問、答えを促すための相槌、「私もそうなんです」と、相手に共感を示すこと……。すべてひっくるめて、「聞く技術」です。

その中ではもちろん、質問が大切です。例えば、よく起こりがちなのが、質問のつもりが、詰問になってしまっていること。部下が何か失敗してしまったとき、「どうしてこんなミスをしたんだ?」と聞くのではなく、「ミスが起こってしまったのには、どんな理由がある?」と、尋ねれば、部下は必要以上に萎縮することはありません。

それと、自分が話す割合を意識的に半分にすることです。「聞き役になろう」と考えたら、上司はしゃべらないようにする。「沈黙」をうまく利用するんです。沈黙が続くと、それに耐えられなくなった部下が自然と話し出すようになります。

聞く技術を考えるうえで、上司と部下の関係においてさらに重要なのは、表情や声のトーン、姿勢といったノンバーバル(非言語的)なものです。そもそも上司というだけで「立場が上の人」なのに、険しい顔で、腕を組んで、「話を聞いてやるから、話せよ」という態度では、当然、部下は話しづらくなります。年齢的にも上のことが多いですしね。信頼関係をしっかりと築くことができていれば、さほどナーバスにならなくてもいいかもしれませんが。

——信頼関係を築くのも、決して容易ではありませんよね。

そのためにも、まずは「聞く」こと。一番大切なのは、部下のために時間を取るということなんです。それまであまり質の高いコミュニケーションができていなかった上司が、「聞こうとする」ことによって、部下の行動は変わってきます。それこそ、ダイナミックに。それが派生して、組織中に起こっていけば、組織は活性化していくはずです。

話している姿

——最近では、1on1ミーティングを導入する企業も増えてきましたが、これも「部下のために時間を取る」試みではあります。一方で、上司からは「何を話せばいいか分からない」、部下からは「やっても意味がない」「これまでの面談とあまり変わり映えしない」といった意見が出てきているようです。どうしてこういったすれ違いが起きてしまうのでしょうか。

そもそも、1on1ミーティングに際して、会社から制度として「やりましょう」と決まったからやる、のではなく、上司が部下のために時間を割いている、と、部下自身がちゃんと感じられていることが大切です。そうすることで、信頼関係を築ける可能性は高くなります。

そして、30分間という時間を使って、どんなテーマについて話すのかも重要です。よくあるのが、「あの仕事、どうなっているの?」と、仕事の話を始めてしまうこと。それは部下のことではなく、仕事の話をしていることになる。おおむね、組織で働いていると、主語が仕事になってしまいます。「この仕事どうなっているんだ」とか「お客さんはどう思っているのか」と。上司と部下という関係性でいうと、お互いに話すことってそれしかないんですよね。一番話しやすい話題ではある。ただ、それではいつもと変わりません。

ですから、質問するとしたら、主語を部下にして、「この仕事を “あなたは” どうしたいと思っている?」「“あなたは” どういうことをしたいと考えている?」という聞き方をする必要があります。

そして、部下がAという方法を取ろうと考えているとき、上司が「いや、それはダメだ。Bでやるべき」と伝えてしまうと、部下は上司と話したくなくなりますし、1on1が苦痛な時間になってしまうでしょう。ただ情報収集して現状を把握して判断しようとなると、それはチェックになってしまう。「上司がいつも正解を持っている」となると、部下は仕事したくなくなりますよね。

ですから、上司はとにかく部下の話を聞き、Aの方法が良いと考えた真意やその背景を聞き、対話しながら、部下自身が自然と「確かに、Aが良いと思っていたけど、難しそうだな。Bの方法にしよう」と思えるような時間にできるといいですよね。

手元

1on1でもコーチングでも、基本的なやり方としては、まず相手のために時間を取って、相手の話を聞く、というスタンスなんです。そして30分のうち、前半は聞くことに徹し、後半はそれについてディスカッションする、と切り分けます。そのために何を話すか、どういう質問を投げかけていこうかと準備することが重要です。場合によっては、事前に部下へ「このことについて話そう」と伝えておいてもいいでしょう。とにかく、質問をたくさん準備しておいたほうがいいんです。質問がなくなると、すぐに話すことがなくなって、つい自分が話してしまいますから。

上司の場合、なかなか部下の話を聞くことができず、何か問題点が判明したり、未熟な点があると感じたりした時点で「いや、それは違うでしょ」と言いたくなるけど、そこをグッとこらえて、「どうしてそう考えたの?」「このことについてはどう思う?」と部下の話を聞き続ける

そうすれば、「そうか、この人はこう考えてそう判断したのか」と、部下自身の考えやその道程を理解できます。それから、10分、15分経ったところで「ここからはディスカッションしよう。さっきの話だけど……」と、上司自身の考え方も伝えつつ、部下と対話するのです。

——ただ、多くの上司が非常に忙しく、なかなか部下の話を聞き続けるような時間を取れない現状があるのも確かです。

けれども、その30分を割けるかどうか、その時間を価値あるものにするかどうかだけで、インパクトは大きいんです。部下と対話することを、1週間に1回でもいいから、やり続ける。それは信頼関係にもつながります。

話している姿

アメリカでは現に、年に1、2度、目標管理に関してフィードバックするだけでは業績が上がらないという課題感から、コーチングの枠組みを取り入れる会社も増えています。また、フィードバックとは真逆の、将来を見据えたフィードフォワード的な対話を建設的に行うことも増えています。

日本でも最近、若い世代のあいだでコーチングが流行っていますよね。コーチ・エィは慶應義塾大学SFCなど大学や大学院、MBAなどでもコーチングの授業を受け持っていますが、学生のみなさんもコミュニケーションに対して感度が高く、授業も人気です。一方的に教えるティーチングではなく、双方向にサポートするコミュニケーション手法が受け入れられ、「自分がどうしたいのか」という自律性、自発性が重要視されるようになってきたのです。

上司と部下の対話は「クエスト」型で

——桜井さんがコーチング支援をしてきた企業で、組織のパフォーマンスや上司と部下の関係性はどのように変わってきましたか。

さまざまな事例がありますが、とある病院でのこと。その病院に限らず、医療業界は上下関係がはっきりした世界で、権威主義的。そこの院長も、部下の医師に対して「あなたはこれをやりなさい」と研究課題を課していたけど、なかなか若手が育たないという課題を持っていました。

そこで週に一度、30分間コーチングの時間を取るようにしたのです。しばらくして院長と話したところ、「いやあ、なるべく対話しようと思うんだけど、5分が限界。でも、その5分ですごく勉強になった」というのです。医師たちが普段、どんなことを考えているのか、いろんな情報が集まるようになった、と。

そして、とある若い医師が、内視鏡による検査や手術に特化したセンターを作れば、もっと医師が集まるのではないかというアイデアを発案し、本部に提案したところ、予算を確保して実現することができました。

もしコーチングの対話をしなければ、そういったアイデアがあるのさえ気づかなかった。対話の時間は部下のためではあるのですが、上司も学ぶことがあるんです。組織のヒエラルキーの中では、上司が意識して部下の考えを引き出し、問いかけて聞き続けなければ、部下から自然とアイデアは出てきません。

話している後ろ姿

ほかにも、「部下のほうが先輩にあたる」という関係性で、部下もやる気を失い、上司は上司で「じきに辞めるんだから」とほったらかしにしていたのを、対話の時間をつくったことで、部下がやる気を取り戻し、積極的に社外に出て活動し、自ら話すようになった、という事例があります。「自分のことを気にかけてくれている」と感じられるだけで、行動が大きく変わるのです。

——最後に、上司と部下がコミュニケーションを図るうえで、最も大切なことはなんでしょうか。

「週に1回、30分間対話の時間を設ける」と決めたら、それをお互いにとって「探索する」時間にする、という意識を共有することが大切です。

クエスチョンの語源は「クエスト」。その「クエスト」という言葉は「探索する」という意味ですが、まさにRPGで「一緒にドラゴンを探す」というゴールを目指すとき、仲間にはどんなスキルがあるのか、ドラゴンを見つけるためにはどんなスキルが必要で、どんなセットアップが必要か。そもそも見つけるためのモチベーションや土台はあるか、人間関係に気がかりがないか、もしあればそれをどうやって解決しようか……と、二人でもっとより良い方法や、原因を探していこうというスタンスになりますよね。それと同じです。

ゴールに向かって、部下自身のことや、その周辺にあるものについて質問をして、パフォーマンスを上げていくための会話ができるようになれば、部下も「もっと上司と話そう」と思えるかもしれない。そういうスタンスに上司自身が変われば、成功に近づく可能性はかなり高くなるはずです。

それまでの「どうやってドラゴンを捕まえるんだ」「そのやり方じゃダメだろう」というスタンスからマインドシフトが起これば、かなりインパクトはあるはずです。伝統的な企業ほど、ぜひそのスタンスを取り入れてほしい。

もちろん、製造業など熟練した技術が活用されてきた分野は、年長者や上司ほど優れているとされてきましたから、なかなか難しい面もあるかもしれません。けれどもそれはそのまま活かしつつ、まずは週に一度、30分間の対話を設ける。そうすれば、やっているうちに「なるほど、こういうことか」と、実感すると思いますよ。

オフィスでの立ち姿

[取材・文] 大矢幸世 [企画・編集] 岡徳之 [撮影] 伊藤圭

”未来を変える”プロジェクトから転載(2019年8月27日公開の記事)

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