ワークマンの「過酷ファッションショー」にて。写真中央が土屋哲雄・専務取締役。
撮影:竹下郁子
「一般客向けの機能性ウェアで、競合する企業は現れておりません」
作業服チェーン店「WORKMAN(ワークマン)」の土屋哲雄・専務取締役は、同社初となるファッションショーでこう宣言した。好業績を背景に、消費増税後も全てのPB製品の価格を増税分の2%下げて、「値札を見ないでも安心して買える」ショッピング体験を提供するという。
人気を支えるのは、30代を中心とした「ワークマン女子」たちだ。
競合がいない3つの理由
撮影:竹下郁子
ワークマンは9月5日、「過酷ファッションショー」と題した2019年秋冬新製品の発表会を開いた。
新製品を着てランウェイを歩くモデルを、雨、風、雪が襲い、同社の「防風」「防水」「撥水(はっすい)」機能を分かりやすく見せる演出だ。
同社の人気を支えるのは、2018年から開始したスポーツやアウトドアシーンを想定した新業態「WORKMAN Plus(ワークマンプラス)」。
同日に開催されたワークマンの展示会にて。
撮影:竹下郁子
土屋専務は「一般客向けの機能性ウェアで、競合する企業は現れていない。これはワークマンの機能性ウェアに構造的な3つの強みがあるからだと考えています」と言い、3つの理由をあげた。
1. 98%以上が定価販売
2. プロ客と一般客向けの共通製品が大半であること
3. 製造原価率が64%と圧倒的なコストパフォーマンス
流行に左右されないベーシックなデザインのため、大量に、また縫製工場の閑散期を狙って安く生産・発注できるのだ。
ガラ空きの高機能・低価格市場
撮影:竹下郁子
商品部部長の大内康二さんによると、今回のファッションショーでモデルが身につけた製品は、
「どれもフルコーディネートで1万円以下。お客様が来店されたとき、値札を見ないでも安心して買える価格で提案しなければ、満足いただけませんから」(大内さん)
売り切れも出たという人気製品「綿アノラックパーカー」と、スリッポン式の「ファイングリップシューズ」はどちらも約1900円。ボアのフーディやベストなど、厚手の秋冬製品も多くが1000〜3000円で購入できる。
さらに消費増税後も、売り上げの50%を占めるPB製品全ての価格を増税分の2%下げて、税込価格を据え置くという。
国内アパレルの市場規模は縮小傾向だ。同社の調査によると、デザイン系衣料が激戦区の一方で、高機能・低価格は全くの空白になっているという。日本の高機能・低価格市場は約4000億円、ワークマンはここで25%のシェアを取ることを目指していくそうだ。
急増の「ワークマン女子」は商品開発にも参加
写真左が商品部部長の大内康二さん、右がサリーさん。サリーさんが着ているのが「綿アノラックパーカー」だ。
撮影:竹下郁子
同社が特に力を入れるのが、急増する女性ファン「ワークマン女子」に向けた女性用の製品だ。「ワークマン女子」の年齢層は主に30代。アウトドアやジム通いのためにスポーツウェアが必要な女性たちにとって、スポーツブランドの半額以下の手頃な値段で一式揃えられるのが人気の理由だ。
同社の公認「ワークマン女子」であり、アンバサダーも務めるアウトドアライターのサリーさんは、ワークマンにハマったきっかけをこう語った。
「私は毎週キャンプに行っています。アウトドアブランドは(1着)2〜3万が当たり前の世界。キャンプで焚き火をした時に火の粉が飛んでくると、高い値段の服に穴を開けてしまうことがありました。ネットの情報でたまたまワークマンの『綿アノラックパーカー』が火の粉に強いと聞いて着てみたら、意外と普段のスタイルにもマッチして気に入りました」(サリーさん)
撮影:竹下郁子
「綿アノラックパーカー」はもともと「綿かぶりヤッケ」の製品名で販売されていた。ファスナーも首元までしか開かず、脱ぎ着する際に髪が乱れたりファンデーションがついたりしたという。
「一般の人からすると『ヤッケ=かっぱ』のイメージがあって。実はそれがアウトドア業界では『アノラックパーカー』というかっこいい名前で販売されているのを知って、商品名を変えた方が分かりやすいと提案しました。
ファスナーも胸まで全部開くタイプをつくってくださると嬉しいという話を(ワークマンの)社員さんに話したらすぐ『じゃあサンプルを』と言ってくれて」(サリーさん)
サリーさんの提案を元に商品名やファスナーなどに改良を加え、「綿アノラックパーカー」は大ヒット製品になった。
ワーク業界の固定観念はSNSで取り去れ!
ファイングリップシューズ。
撮影:竹下郁子
同じく人気製品「ファイングリップシューズ」も、もともと「コックシューズ」と呼ばれ、水や油で滑りやすい厨房でも安全に働けるのがウリだった。その安全性がSNSを中心に妊娠中や子育て中の女性たちの間で大きな話題になり、改良を加えて大ヒット製品になったという。
撮影:竹下郁子
「いま女性のお客様が増えているのですが、私たちには商品の固定観念があって……。
ワーク業界では『ヤッケ』と言ったらテッパンの名前なんですけど、それは通用しないんだなとびっくりしました。髪やお化粧という発想もなかった。こうした経緯もあって、今後は消費者目線をいかす『ワークマンアンバサダー』を増やしていきます。
もちろんSNSの情報には常に注目しています。我々が気づかない、想定していないあらゆるシーンでの使用方法があるからです」(大内さん)
撮影:竹下郁子
アパレルの原価に占める広告宣伝費の割合は3%前後といわれる中、ワークマンは0.4%(ダイヤモンドオンライン「ワークマンプラスに女性客続々、リーマンショックが新業態のきっかけに」2019年7月26日)。広告費をかけずとも、SNSが商品開発や製品のヒットにダイレクトにつながっているようだ。
同社は秋冬用PB製品では2018年の2.7倍の約300億円を生産し、「ダントツに強い秋冬製品で攻勢をかける」(土屋専務)。また2020年3月までにワークマンプラスを167店舗に増やし、「プロ客と一般客のご来店時間に合わせて、照明、パネル、マネキン、香りまで変化する店舗もつくる」(土屋専務)という。
(文・竹下郁子)