防衛省、北朝鮮の新型ミサイル分析結果を発表。次の一手は「核搭載潜水艦」開発か

金正恩 北朝鮮 教員

9月7日、北朝鮮・平壌で開催された教員たちの年次大会に姿を見せた金正恩・朝鮮労働党委員長。

North Korea's Korean Central News Agency (KCNA) via REUTERS

日韓のバトルが連日テレビニュースを賑わしているが、その一方で、北朝鮮が強気の外交を進めている。結果として、核武装を既成事実化するのにほぼ成功したと言っていい。

北朝鮮は8月30日、国連総会(9月下旬予定)での演説に、李容浩(リ・ヨンホ)外相を送らないことを通告した。本来ならその機会に米朝で非核化について交渉するはずだったが、それを拒否したのだ。

また、ポンペオ米国務長官が「北朝鮮のならず者のふるまいは看過できない」(8月27日)と語ったことに強く反発。

31日には、崔善姫(チェ・ソンヒ)第1外務次官が「これほどまでの発言によって、開催が見込まれていた米朝実務者協議をいっそう困難にした」「アメリカ側の理由により、これまでのあらゆる措置を再検討せざるを得なくなっている」と、核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験の再開まで示唆している。

北朝鮮はポンペオ発言を口実として、非核化に向けた動きにストップをかけたわけだ。

トランプ大統領を「褒め殺し」

金正恩 トランプ大統領

「自分が金正恩・朝鮮労働党委員長と直接対話することで、北朝鮮に核・ミサイル実験を思い止まらせることに成功している」と自画自賛を続けるトランプ米大統領。

North Korea's Korean Central News Agency (KCNA) via REUTERS

そうした北朝鮮側の言い方に、トランプ大統領は激怒したかというと、まったくそんな素振りは見せていない。これまで同様、「自分が金正恩・朝鮮労働党委員長と直接対話することで、北朝鮮に核・ミサイル実験を思い止まらせることに成功している」といった自画自賛に終始し、大統領選向けの実績アピールにしか興味がなさそうだ。

金正恩委員長は明らかに、自己保身最優先のトランプ大統領を利用している。大統領個人に向けては親書などを通じて歯の浮くような文言で褒めまくりつつ、ポンペオ国務長官やボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)、ペンス副大統領など取り巻きを名指しで非難し、「彼らのせい」を口実にして非核化協議を先送りする戦術である。

実際、2018年6月にシンガポールで行われた米朝首脳会談で高らかに非核化への努力が合意されたものの、あれから少しも非核化交渉は進展していない。事実上、北朝鮮の核武装は黙認されてしまっている。

それだけではない。韓国がF35Aステルス戦闘機を調達したり、米韓合同軍事演習を行ったりしたことを挙げて、「文在寅大統領は平和などと口で言いながら、裏では戦争の準備をしている」と激烈に非難し、それを口実に新型の短距離弾道ミサイルの発射実験を重ねている。「敵対的な韓国のせいで、その攻撃に備える必要がある」という論理だ。

トランプ大統領はそれに対し、「短距離だから問題ない」と明言。たとえ短距離であっても弾道ミサイルの発射は国連安保理決議違反なのだが、あげくの果てに「私も米韓合同軍事演習には反対だ。なぜならカネがかかるからだ」とまで発言している。

いずれにせよ、このようにして北朝鮮は、対外的に公言していた「核実験と中・長距離弾道ミサイルの発射はやらない」ことさえ守れば、それ以下の射程の弾道ミサイル発射は安保理決議違反でも黙認される状況をまんまと手にしたのだ。

対話路線以前の北朝鮮の戦力

北朝鮮 ミサイル

8月6日、北朝鮮は「新型戦術誘導弾」と称する短距離弾道ミサイルを発射した。写真は韓国のテレビ局による速報。

REUTERS/Kim Hong-Ji

そうした状況のなか、北朝鮮はいまどのような新型兵器を開発しているのか?

それを考える前に、北朝鮮は2017年11月のICBM「火星15」発射を最後に対米対話路線に転じ、最近まで核・ミサイル実験を自粛してきたが、その前の段階でどれほどの戦力を保有していたかを見ておきたい。

まず、核爆弾については、TNT火薬換算で160キロトン相当の爆発規模まで実験に成功。その出力だと、水爆もしくはその前段階のブースト型核分裂爆弾と考えられる。起爆装置の大きさや重さは不明だが、弾道ミサイルの弾頭に搭載できる程度には小型化に成功しているとみられる。

また、弾道ミサイルは、日本も射程に入る即応性の高い固体燃料型の「北極星2」に加え、グアムを射程に収める液体燃料型の「火星12」の実戦配備を宣言。アメリカ西海岸まで届く「火星14」と、さらに東海岸まで攻撃可能な「火星15」の発射実験にも成功しているが、実戦配備化には至っていないようだ。

北朝鮮 ミサイル 北極星1

北朝鮮海軍のトラックに牽引される、同国の潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)「北極星1」。

REUTERS/Damir Sagolj

弾道ミサイルについてはほかにも、潜水艦発射型(SLBM)「北極星1」の発射実験に成功している。ただし、それを運用する実戦的な潜水艦はまだ完成していない

他の兵器としては、300ミリ多連装ロケット砲「KN-09」を実戦配備。射程200キロで、韓国中部にある在韓米軍の主要基地キャンプ・ハンフリーズ(平沢)やオサン(烏山)空軍基地を攻撃できる。なお、このロケット砲は核戦力用ではなく、多数の砲弾を一斉投射する用途のものだ。

2種類の短距離と1種類の新型ミサイル

北朝鮮 ミサイル

8月16日、北朝鮮は短距離弾道ミサイルの発射実験を行った。米軍の地対地ミサイル「ATACMS」に似ているとの指摘がある。

North Korea's Korean Central News Agency (KCNA) via REUTERS

上記のような戦力を保有した段階で、北朝鮮は対話路線にカジを切った。それでも、安全保障に必要な戦力強化を目的とした兵器開発は当然、継続しているとみるべきだ。

開発においては、実際に作動するかどうか、結果は計算通りかを確認する試験がどうしても必要になる。そのため、北朝鮮はベトナム・ハノイでの米朝首脳会談(2019年2月)が決裂に終わったあと、5月に新型の短距離弾道ミサイルの発射実験を行い、トランプ大統領がそれを問題視しなかったことを受けて、7~8月にも米韓合同軍事演習を口実に、まとめて発射実験を重ねた。

5月以降に発射されたこれらの弾道ミサイルについて、岩屋毅防衛相は9月3日、防衛省の分析結果を発表している。それによると、少なくとも2種類の新型短距離弾道ミサイルと、さらにもう1種類の新型ミサイルも含まれているという。

前者の新型短距離弾道ミサイル2種類はいずれも、米韓のミサイル防衛システムを突破するためのもので、小型の操舵翼で滑空する機能を取り入れ、低い(ディプレスト)軌道で長い距離を飛ばす運用が想定されている。

そのうち一方は、ディプレスト軌道でほぼ韓国全土を射程に収めたうえ、降下中に水平滑空する(プルアップ機動)という変則的な軌道を実現し、米韓軍による迎撃を困難にする飛行を実証。ロシアの高性能短距離弾道ミサイル「イスカンデルM」に酷似したこのミサイルを、米軍は「KN-23」と命名している。

もう一方については、ディプレスト軌道で運用できる短距離弾道ミサイルであることは実証されたが、詳細がいまひとつ不明。米陸軍の戦術ミサイル「ATACMS」を大型化したような外見なので、「米軍の技術を韓国が北朝鮮に横流しした」という説も出ているが、そんな話の根拠はまったくない。

北朝鮮 ミサイル

8月24日、北朝鮮は「超大型多連装ロケット砲」と呼ぶ新型兵器の発射実験を行った。

North Korea's Korean Central News Agency (KCNA) via REUTERS

岩屋防衛相がもう1種類の新型兵器が含まれるとしたのは、北朝鮮が「超大型多連装ロケット砲」と呼んでいるものだ。北朝鮮が発表した画像から、既存の300ミリ多連装ロケット砲より相当に大型化され、口径は600ミリ程度と思われる。射程が大幅に延長され、韓国のほぼ全土を攻撃できる。

なお、北朝鮮による一連の発射実験では、ほかにも「大口径誘導多連装ロケット砲」と呼称する新型ロケット砲が使われている。画像を見る限り、上で説明した「超大型多連装ロケット砲」より小型に見えるが、不鮮明なのではっきりとはわからない。防衛省も現時点では「分析中」としている。

政治的駆け引きだけが目的ではない

金正恩 北朝鮮 労働党

新型とも言われる弾道ミサイルの発射実験視察中に笑顔を見せる北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長。

North Korea's Korean Central News Agency (KCNA) via REUTERS

こうした新型兵器はいずれも、北朝鮮にとってきわめて大きな戦力になる。

例えば、プルアップ機動を含むディプレスト軌道での発射が可能な「KN-23」は、核弾頭を搭載して米韓軍のミサイル防衛を突破できる可能性が高い。北朝鮮は韓国を攻撃できる核ミサイルを以前から持っていたものの、こうした新型ミサイルの登場は、米韓軍側の頭を悩ますやっかいな問題だ。

また、当然ながら核兵器使用の政治的なハードルは非常に高いので、核戦争に至る以前の段階の戦闘では通常兵器による攻撃力も重要になる。韓国全土を通常砲弾の「量」で攻撃することができる「超大型多連装ロケット砲」は切り札になる。

いずれにせよ、北朝鮮は政治的駆け引きのためだけにミサイル発射実験を繰り返しているわけではなく、実戦的な戦力の強化を着々と進めていることに注意しなくてはならない。

次は「固体燃料ICBM」「核搭載潜水艦」

韓国 日本 対立 安倍晋三

8月24日、韓国・ソウルで行われた反日デモの参加者たち。日韓関係悪化の背後で北朝鮮は着々と兵器開発を進めている。

REUTERS/Kim Hong-Ji

さて、北朝鮮は今後どう動くだろうか。

核爆弾に関しては、おそらくさらなる小型軽量化が進む。その次に目指すのは多弾頭化だ。同時に威力強化も目指すだろう。しかし、核実験まで踏み込んではアメリカとの対話の構図が崩れるため、そこはまだしばらく自粛する可能性が高い。

弾道ミサイルについては、ICBMの完成・実戦配備に向けた開発が続いているとみられる。既存の液体燃料型ICBM「火星15」だけではない。北朝鮮はおそらく、即応性が高く実戦的な固体燃料型の新型ICBMの開発も進めている。

9月5日、北朝鮮の核開発と制裁に関する調査を続けている国連安全保障理事会の専門家パネルが、新たな報告を提出している。それによると、北朝鮮は一連の短距離弾道ミサイル発射実験によって、確実に固体燃料型ロケットの技術を向上させており、それは固体燃料型ICBMの開発に結びつくという。

専門家パネルは、北朝鮮がICBM発射基地の整備を進めていることも指摘しており、新型ICBMの開発(が現実の脅威となること)に強い懸念を示している。

北朝鮮 金正恩 潜水艦 視察

北朝鮮は7月23日(現地時間)、金正恩委員長が潜水艦を視察した際の写真を公開した。

North Korea's Korean Central News Agency (KCNA)

また、発射実験を経て、米韓軍のミサイル防衛を突破して韓国全土を攻撃できるディプレスト軌道のミサイル開発に成功したいま、次に狙うのは、日本(というより在日米軍)を攻撃できるディプレスト軌道用の準中距離弾道ミサイルだろう。

まず考えられるのは、「KN-23」短距離弾道ミサイルを改良し、耐熱面も強化して射程を延ばす新型ミサイルの開発だ。ただ、ディプレスト軌道で1000キロ以上の射程を実現するのはそう簡単なことではない。

それより気になるのは、北朝鮮がすでに進めている核ミサイルを搭載するための新型潜水艦の開発だ。

北朝鮮公式メディアは7月23日、金正恩委員長が建造中の新型潜水艦を視察したことを報じているが、これが完成すれば、日本海を潜航してディプレスト軌道の射程に入る位置まで近づき、自衛隊のミサイル防衛を突破できる可能性が出てくる。

しかも核搭載潜水艦は、発射した側の生存性がきわめて高い究極の核戦力プラットフォームだ。

北朝鮮としてもおそらく最優先で、この核搭載潜水艦の開発を進めていると考えられる。日本の安全保障を最も大きく左右するのも、その進捗状況にほかならない。


黒井文太郎(くろい・ぶんたろう):福島県いわき市出身。横浜市立大学国際関係課程卒。『FRIDAY』編集者、フォトジャーナリスト、『軍事研究』特約記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て軍事ジャーナリスト。取材・執筆テーマは安全保障、国際紛争、情報戦、イスラム・テロ、中東情勢、北朝鮮情勢、ロシア問題、中南米問題など。NY、モスクワ、カイロを拠点に紛争地取材多数。

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