ソニーモバイルは、小型ハイエンドモデル「Xperia 5」をドイツ・ベルリン発表した。
撮影:小林優多郎
ソニーモバイルコミュニケーションズ(以下、ソニーモバイル)は9月6日(現地時間)に、ドイツ・ベルリンで新型スマートフォン「Xperia 5」を発表した。具体的な価格や発売時期は未定のものの、同社は「今秋以降、日本を含む国と地域で導入」としている。
2月に発売された最上位機種「Xperia 1」の特徴を引き継ぎながら、一層コンパクトなサイズを実現したスマートフォンだが、この機種の投入で同社は何を狙っているのだろうか。
縦長スマホ「Xperia 1」を小型化した「5」
Xperiaシリーズの新機種として投入された「Xperia 5」。横幅が68ミリとコンパクトになったことから、片手での持ちやすさは大幅に向上している。
撮影:佐野正弘
Xperia 5は、Xperia 1の大きな特徴だった6.1インチ縦横比21対9の有機ELディスプレイ「シネマワイドディスプレイ」や、瞳オートフォーカス(AF)を採用したトリプルカメラ機構などの特徴はそのままに、片手で持ちやすい幅68ミリのボディーサイズを実現している。
ハイエンドモデルと同等の性能を持ちながら、ボディーサイズをコンパクト化するという手法から、Xperia 5は従来の「Compact」シリーズに近い位置付けのモデルと見ることができる。
Xperia 1で大幅にリニューアルした新しいXperiaシリーズをより多くの人に体験してもらえるよう、手に取りやすいサイズ感にすることで利用のすそ野を広げるべく提供されたモデルのようだ。
「Xperia 1」のハイエンド性能のエッセンスを小型ボディーに詰め込む
21対9・秒間24コマという映画と同じ動画の撮影ができる「Cinema Pro」を搭載するなど、Xperia 5は映画を楽しむことに強くこだわったXperia 1のコンセプトを継承している。
撮影:佐野正弘
ソニーモバイルはXperia 1で、シネマワイドディスプレイや、映像制作の現場で用いられているマスターモニターの色を再現する「クリエイターモード」、人物の瞳を追従してフォーカスを当てる「瞳AF」などを搭載し、映画を観たり撮影する機能に強くこだわった。
そこには「Community of Interest」というコンセプトのもと、特定の趣味嗜好を持つ人達にターゲットを絞り、自社技術をフル活用してそれに応えることで、利用を拡大していく狙いがある。
瞳AFは演算処理を1秒間に15回から30回に増やすなど、アルゴリズムの強化によって改善を加え、動いている被写体により正確なオートフォーカスができるようになったという。
Xperia 5もそのコンセプトを継承した機能やサービスの搭載を重視している。
ディスプレイ解像度が4K(3840×1644ドット)からフルHD+(2520×1080ドット)に下がっていたり、スーパースロー撮影のフレームレートが落ちていたりするなど、小型化の影響から性能がダウンしている部分はいくつかある。
しかし、トリプルカメラ機構や前述の「Cinema Pro」アプリなど、Xpeira 1の大きな特徴となっていた機能のいくつかはしっかり継承している。さらにXperia 1ユーザーの声を聞くなどして、細かな改良も加えられているという。
心臓部のチップセットにはクアルコム製「Snapdragon 855」を搭載。ハイエンドモデルに相応しい性能を備えている。大画面化が進む中にありながらもコンパクト・ハイエンドにこだわりを見せてきたソニーモバイルだけあって、Xperia 5もXperia 1のコンセプトをコンパクトボディーに凝縮したモデルに仕上がっている。
ゲーミング関連の機能を強化しターゲットを拡大
「IFA 2019」ではXperia 5と世界的にヒットしている人気ゲーム「フォートナイト」によるeスポーツのデモも実施するなど、ゲーミングに力を入れている様子をうかがわせる。
撮影:佐野正弘
だが、Xperia 5の発表を機会に、ソニーモバイルは新しいXperiaがターゲットとする“趣味”の人達を、より広げようとしている。そのターゲットは「ゲーミング」だ。
無論Xperia 1の頃から、ソニーモバイルは21対9比率の広い画面でゲームがプレイできることを積極的にアピールしており、「フォートナイト」「アスファルト9」などいくつかの人気ゲームと連携し、横長の画面への対応を進めてきた。
だが、ソニーグループの技術を結集した映画に関する取り組みと比べると、注力の度合いがそこまで強いという印象を受けることはなかった。
Xperiaでのゲームプレイを補助する「ゲームエンハンサー」。
撮影:小林優多郎
ソニーモバイルは、その後Xperia 1をeスポーツで活用してもらう取り組みを進めるなどして、モバイルゲーミングに関するアピールを積極化している。
Xperia 5では、スマートフォンでのゲームプレイを快適にする機能「ゲームエンハンサー」にも改良を加えた。ゲームプレイ時により集中できるよう、ゲームプレイ中に着信通知やカメラキーを無効化する機能を追加した。
さらにゲームエンハンサーでは、新たにゲームの画面を最大20枚連写で撮影する「スクリーンショットバースト」や、ナレーション入りの動画を撮影できる機能などを盛り込んでいる。
ゲームプレイをSNSや動画投稿サイトなどでよりシェアしやすくすることで、さらにソーシャルネイティブ世代向きのゲームの楽しみ方ができるよう工夫している。
スマートフォン版の「フォートナイト」をDUALSHOCK 4でプレイできる仕組みも用意。リモートプレイ以外でもDUALSHOCK 4を活用できるようになった。
撮影:佐野正弘
加えてソニーモバイルは、Xperia 1/Xperia 5とPlayStation 4のゲームコントローラー「DUALSHOCK 4」をBluetoothで接続することで、「フォートナイト」をDUALSHOCK 4でプレイできる仕組みも新たに用意する。
これまでDUALSHOCK 4を接続し、PlayStation 4のゲームを遠隔でプレイできる「リモートプレイ」に力を入れてきた同社だけに、あえてスマートフォンのゲームをプレイしやすくしてきた所からも、スマートフォンによるゲーミングへの力の入れ具合を見て取れるだろう。
期待に見え隠れする「懸念」も
懸念1:ライバル機に対するカメラの評価
Xperia 5のカメラは基本的にXperia 1のカメラ性能を継承しているが、そのXperia 1のカメラに対する外部の評価は必ずしも芳しいものという訳ではない。
撮影:佐野正弘
ターゲットの範囲を広げ新しい機能を追加するなど、Xperia 5は「新しいコンパクトモデルの形」を作り出したともいえる。
ソニーモバイル関係者は、2019年後期以降のラインナップについて「フラッグシップの“1”、コンパクトモデルの“5”、そしてミッドレンジの“10”の3シリーズで展開する」と話しており、それぞれの進化にも期待がかかる。だが、Xperia 5からは、Xperiaシリーズの今後を考える上で気になる点もいくつか見受けられる。
その1つはカメラの性能。カメラ性能の評価サイト「DXOMark」での評価結果がふるわないのだ。
最近、Xpeira 1のDXOMarkによる評価が公開され、その数値が「91」と、軒並み100を超える「HUAWEI P30 Pro」や「Galaxy S10+」「iPhone XS Max」などと比べても低い評価であったことが話題となった。Xperia 5もXperia 1のカメラ機能をほぼ継承しているだけに、この点には気になるところだ。
Xperia 1に対するDxOMarkの検証結果。
出典:DxOMark
ソニーモバイルの関係者によると「DXOMarkでXperia 1のカメラが高い評価を得ている部分もある」とする一方で、Cinema Proや瞳AFなど「注力している部分がDXOMarkの評価軸に入っていないことなどもあり、点数を高める上では難しさがある」とも話している。
DXOMarkの評価ですべてが決まる訳ではないが、数値による評価軸は消費者に伝わりやすいものだけに、Xperiaシリーズの評価を高めていく上では、今後何らかの対策が求められる所かもしれない。
懸念2:デザイン言語の再定義
Xperia 5では背面ガラスの表面に蒸着処理をすることで、メタルを磨き込んだような仕上げを実現しているとのこと。右が処理前、左が処理後となり、色の表現がかなり変わっていることが分かる。
撮影:佐野正弘
もう1つ気になるのが、デザインランゲージの復活だ。ソニーモバイルはXperia 1を投入した際、端末シリーズのデザインコンセプトを明確に打ち出していなかった。
Xpeira 5ではXperia XZ2やXZ3と同様に「Flow of Light」のコンセプトを継承していることを打ち出した。背面ガラスの表面に蒸着処理をすることで、ガラスとフレームに一体感が生まれ、光をまとった1枚の板のような、一体感のあるデザインを実現したとしている。
もちろんデザインランゲージを打ち出すこと自体は、他のメーカーもやっていることだ。だが、過去を振り返ると、同社がデザイン面での訴求を強く打ち出すほどに消費者のニーズとの乖離する傾向もある。
2018年8月に発表された「Xperia XZ3」。
撮影:小林優多郎
2016~2018年の「Xperia X」シリーズの頃を思い出してみよう。そうしたこだわりによって狭いベゼルや薄型ボディ、縦長ディスプレイなど、消費者が強く求める「分かりやすいデザインの変化」に対応できず、当時の評価を大きく落としていた印象は否めない。
個人的に、Xpeira 1では「21対9の板」と割り切り、アピールしたい機能の訴求に重点を置いてきたことには好感を持っていた。
だからこそ、Xperia 5で再びデザインランゲージを打ち出してきたことには、多少の不安がある。
Xperia 1でソニーモバイルのこだわりが良い方向に働いてきただけに、そのこだわりが再びマイナスに働くことがないことを期待したい。
(文・佐野正弘、撮影・佐野正弘、小林優多郎)