「Pairs婚→公私共にパートナー→離婚」で築いた軽やかで心地いい男女関係

婚活コンサルタントとして活躍する澤口珠子さん(41歳)と、ウェブメディア「LoveTech Media」を運営するあいテクテク代表の長岡武司さん(33歳)。

婚活コンサルタントとして活躍する澤口珠子さん(41)と、ウェブメディア「LoveTech Media」を運営するあいテクテク代表の長岡武司さん(33)。

撮影:竹井俊晴

日本のカップル文化が、少しずつ変わっていくかもしれない ──

そんな兆しを感じさせてくれる男女がここにいる。ウェブメディア「LoveTech Media」を運営するあいテクテク代表の長岡武司さん(33)と、婚活コンサルタントとして活躍する澤口珠子さん(41)だ。

ビジネスパートナーでもある2人は2015年冬に結婚し、2017年に長女が誕生。「この取材の後は娘と一緒に地域のお祭りに行くんだよね」と終始笑顔で会話する横顔を見ていると、まるで絵に描いたような仲良し夫婦。

しかし、この2人、実はもう夫婦を“卒業”している。2019年5月に正式に離婚届を出したというのだ。

2人の出会いは、人気マッチングアプリの「Pairs(ペアーズ)」。2人はたまたま同時期に登録していた。といっても、目的は「仕事のリサーチ」。澤口さんは「マッチングアプリに登録したら、3カ月で何人の男性と会えるのか?」を実験するために、長岡さんも当時働いていた会社でアプリの集客販促について調べるために、それぞれ数社に登録。

「正直、すぐに結婚したいという願望はなかった」(長岡さん)と振り返る。

3カ月間で会えた104人の男性のうちの1人が彼でした。でも、お互いに結婚に対して本気ではなかったので、彼の恋愛相談に乗ったりしていました(笑)」(澤口さん)


「結婚にガツガツしている女性が多い中で、ドライな彼女がかえって目立ちました。自立した雰囲気で話も面白くて好印象でしたが、華やかな雰囲気にちょっと引け目を感じたし、『コンサルって胡散臭い人も多いしな』とちょっと疑っていたんです」(長岡さん)

婚活コンサルタントとして活躍する澤口珠子さん(41歳)と、ウェブメディア「LoveTech Media」を運営するあいテクテク代表の長岡武司さん(33歳)。

撮影:竹井俊晴

気づけば24時間一緒

2人の距離が縮まったきっかけは、澤口さんが主宰する「婚活登山イベント」に長岡さんを誘ったこと。

出会って1カ月後に計画した登山に、たまたま男性の参加メンバーが足らずに声をかけたのだ。

「『事業を拡大したいのに、パソコンが苦手で困っている』と聞いて、下山したその足で家に行ってPC作業を手伝ってあげることに。本当に超アナログ人間なのだと分かって、『これは僕が助けてあげないとな』と。結局、終電を逃して泊まることになったんです」(長岡さん)

その日は深夜までウェブまわりの作業を手伝うだけだったが、澤口さんの仕事仲間にも紹介されるなど、一緒に過ごす時間が増え、澤口さんのメディア取材・講演のマネジメントやブランディングを長岡さんが担い始める。

「気の合うビジネスパートナー」として地方出張も共にし、気づけば24時間一緒に過ごしていた。「自然な流れで、お互いの両親に紹介し合い、半年後には入籍していました」(長岡さん)

一方の澤口さんは、20代後半に専業主婦に憧れた末、結婚を約束した男性から婚約破棄された苦い経験がある。自立した女性を目指し、「結婚するなら、一緒に仕事を発展させてくれる人がいい」と考えていた澤口さんにとって、長岡さんはまさに理想的な相手だった。

「夫婦をやめる」という選択

婚活コンサルタントとして活躍する澤口珠子さん(41歳)。

澤口珠子さんは、約8000人の婚活相談を受け、高い成婚率を誇る。「私の仕事に離婚はむしろプラス。『結婚は一度経験するだけの価値がある。嫌になったら無理せず別れればいいし、またいつでも結婚できる』と自信を持ってアドバイスできるようになりました」。

撮影:竹井俊晴

「それなのになぜ離婚したのかって不思議に思われますよね? 私も一応“婚活のプロ”なので、自分が離婚するなんて、夢にも思わなかったです。

きっかけは、私の事業の方向性が変わってきたこと。たくさんの人に認知を広げるより、もっと一人ひとりに深く向き合っていきたいと思うようになってきて。同時期に、彼が自分のメディアを立ち上げたことも大きかったと思います。

私の仕事の方向性に関して意見が衝突し始めて、私生活のケンカも増えていったんです」(澤口さん)

事業パートナーから始まった夫婦関係は、やはり事業の変化と共に転換期を迎えたのだった。

「このまま無理をするのは、娘のためにもよくない」とお互いに思い始めていた2019年の春、大きなケンカをした。数日後、ファミレスで話し合いのために顔を合わせると、澤口さんはすぐに離婚を切り出した。

「婚活コンサルタントのイメージを守るために、別居にとどめるべきでは」と長岡さんは気遣ったが、澤口さんは「それでは何の解決にもならないし、前向きな関係を築き直したほうがいい。私のキャリアとしても長期的にはプラスになるはず」と主張。話は15分でまとまったという。

「あの時、あまり長引かせずに早く離婚を決めたことが、その後の僕たちの関係にとってもすごくよかったと思います。“我慢をして無理に夫婦関係を維持した記憶”がほとんどないから、相手に対する信頼やリスペクトも損なわれていないんです。ズルズルと別居していたら、むしろ関係は破綻していたと思います」(長岡さん)

ウェブメディア「LoveTech Media」を運営するあいテクテク代表の長岡武司さん(33歳)。

撮影:竹井俊晴

離婚後の方が絆が強まった

「夫婦をやめる」と決めた途端、前向きな話し合いが始まり、笑顔も戻ってきた。娘との面会ルールを書面化するために揃って訪れた公正役場では、公証人に「これから別れる夫婦にはとても見えない」と驚かれたという。

2人にとって「夫婦」は法律上の形式でしかない。今でも、澤口さんの仕事の一部を長岡さんがサポートし、“子育てパートナー”としての連携はむしろ強くなっている。週に2日は、澤口さんと長女が暮らす家に長岡さんが泊まって“家族3人”で過ごす。

「離婚してからのほうが、家族の絆は深まったと思います。彼ほど私のことを理解してくれている人はいません(笑)」(澤口さん)

3年半の結婚生活の間に公私共に濃密に過ごした期間が、信頼関係のベースになっている。とはいえ、どうしてそんなに軽やかに離婚や再婚を語れるのか?

思わず2人に尋ねると、「マッチングアプリを使ってみた経験は大きい」と口を揃えた。

「3カ月で100人超の男性と出会えた実験結果から、婚活アプリを活用すれば出会いのチャンスが無限にあると分かったんです。『結婚しようと思えば、またいつでもできる』という、ある種の気軽さを持てたから離婚を即断できた」(澤口さん)

「またきっと出会える」という確信。加えて、「離婚後の生活を快適にスタートしやすい環境」が整ってきた変化も、2人の選択を後押しした。

嫌になる前に別れたからこそ

婚活コンサルタントとして活躍する澤口珠子さん(41歳)と、ウェブメディア「LoveTech Media」を運営するあいテクテク代表の長岡武司さん(33歳)。

撮影:竹井俊晴

通常、離婚に伴う別居が始まると、新たな住居探しに伴うコストが相当かかるものだが、長岡さんの場合はあえて「アドレスホッパー=住所不定生活」を選択している。

もともと地方出張が多く「1人暮らしのために家賃を払うのはもったいない」と考えた長岡さんは、週2日を元妻・娘と暮らす以外の日は、定額制住居サービス「HafH(ハフ)」で効率的に寝床を確保し、都内の下町で見つけた清潔な簡易宿泊所にもよく通う。

長岡さんあての郵便物の送り先・長岡さんの事業に関連する住所は、月額1万円で住民票が置けるサービス「ポケットレジデンス」を活用している。

週2日は元妻と暮らすとはいえ、これが長岡さんの「線引き」。2人で話し合って決めた。

婚活コンサルタントとして活躍する澤口珠子さん(41歳)と、ウェブメディア「LoveTech Media」を運営するあいテクテク代表の長岡武司さん(33歳)。

撮影:竹井俊晴

「長野県が“関係人口”を増やす事業として始めた『東京から長野への交通費やオフィス利用費などを補助する制度』にも、応募して通ったところです。地方のエモい話題を記事にして仕事にもつなげていければ」

と嬉々として話す。

現在の仕事はネットさえつながればどこでもできるので、昼間は図書館で過ごすことも多いという。そんな新生活を澤口さんも応援し、「洗濯や荷物の入れ替えは、うちでどうぞ」と開放している。

こういった協力体制が続いているのも、「お互いに嫌いになる前に別れたから」。離婚して親権が元妻に渡った男性にありがちな「子どもに会えなくなって寂しい」という悲壮感も、長岡さんにはない。

「娘にとって生物学的な父親は彼だけだから、これからもずっと会える関係でいてほしい。それを許してくれる相手じゃないと、再婚は難しいかも。娘にも“きょうだい”はつくってあげたいけれど、私は年齢的に難しいかもしれないので、彼が新しい奥さんと子どもをつくってくれたらいいですね。お互いのステップファミリー同士が交流し合うような新しい家族の形が、もっと日本にも広がればいい」(澤口さん)

すでに2人とも、新たな出会いを求めてマッチングアプリに再登録し、「こういう写真を選んだほうがいい」などアドバイスをし合っているという。

今の時代ならではの環境やサービスを上手に使うことで、親世代が経験してきた「結婚は忍耐」という価値観を軽やかに捨て去った2人。「今、お互いをどんな存在だと思う?」と聞くと、「男女を超えたソウルメイト。困ったらいつでも頼れる相手」という答えが返ってきた。

結婚してもしなくても、きっとそんな存在を、誰もが求めているのかもしれない。

(文・宮本恵理子)


宮本恵理子:1978年福岡県生まれ。筑波大学国際総合学類卒業後、日経ホーム出版社(現・日経BP社)に入社し、「日経WOMAN」などを担当。2009年末にフリーランスに。主に「働き方」「生き方」「夫婦・家族関係」のテーマで人物インタビューを中心に執筆する。主な著書 に『大人はどうして働くの?』『子育て経営学』など。家族のための本づくりプロジェクト「家族製本」主宰。

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