ボルトン補佐官が辞任へ。トランプ大統領はイランと「取り引き」開始か

ボルトン補佐官 辞任

2018年11月、記者会見で発言するジョン・ボルトン大統領補佐官。2019年、トランプ政権のキーマンになると予想されていたが……。

REUTERS/Kevin Lamarque

9月10日(日本時間11日未明)、トランプ大統領がTwitterでボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)解任を発表した。

Twitterの文面はかなり冷たいもので「私は昨夜、ボルトンに、もうホワイトハウスでの仕事は必要ないと伝えた。私は彼の提案の多くに反対したし、政権内の他のスタッフもそうだった」というものだった。

これに対し、ボルトン補佐官のほうはTwitterで「私は昨夜、辞任を申し出た。トランプ大統領は【明日、それについて話そう】と言った」と書き込んだ。つまり解任ではなく、自分の意思による辞任ということだ。

しばしば話を創作するトランプ大統領の性格からしても、ボルトン補佐官の言い分が正しいとみていいだろう。

ただ、言い出したのはボルトン補佐官のほうからかもしれないが、トランプ大統領は最近はボルトン補佐官を冷遇していて、それがあったからこそ辞任を決めた。つまり、直接の解任ではないものの、構図としてはそれに近い流れだったと言える。

トランプ大統領との路線の違いが目立った

ボルトン 辞任

ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)。5月22日、米沿岸警備隊士官学校の卒業式にて。

REUTERS/Michelle McLoughlin

もっとも、ボルトン解任の噂はかなり前からあった。トランプ大統領とボルトン補佐官の考えが合わないことはこれまでいくつもあったからだ。

ボルトン補佐官は基本的に対外強硬路線で、目の前の取り引きよりも原則を重視する。北朝鮮、アフガニスタン、ロシア、イランなどの問題で、トランプ大統領との路線の違いはしばしば見られた。

対北朝鮮では、トランプ大統領は金正恩委員長との対話に積極的で、非核化最優先で不用意な融和に反対するボルトン補佐官は事実上、対北朝鮮戦略から外された。

ただし、ボルトン補佐官の言動からすると、彼個人にとってそもそも北朝鮮問題の優先順位はそれほど高くない。大いに不満だったろうが、それで辞任を決めたということでもあるまい。

対ロシアでは、トランプ大統領は8月20日に「ロシアのG8再加入」を言い出すなど、相変わらずプーチン政権に甘い。それでも、米政権内にはボルトン補佐官以外にも対ロシア強硬派が多いため、実際の政策としては中距離核戦力全廃条約(INF条約)からの撤退を含め、ロシアにそれなりに強く対応している。したがって、ボルトン補佐官が辞任を決める決定打にはならない。

9.11から18年、ボルトン補佐官が考えたこと

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9月9日、アメリカでの秘密会談がドタキャンになった翌日、軍の前で訓示するアフガニスタンのガニ大統領。

REUTERS/Omar Sobhani

対アフガニスタンでは、ちょうど大きな動きがあった直後だった。

トランプ大統領は、実はタリバン幹部とアフガニスタンのガニ大統領をアメリカに招き、9月8日に大統領専用の山荘キャンプ・デービッドでそれぞれと秘密会談をする予定だった。ところが、前夜になって大統領本人がツイッターで、いずれも中止したことを明らかにしたのだ。

トランプ政権でタリバンとの交渉を主導したのは、ハリルザド・アフガニスタン和平担当特別代表だったが、ボルトン補佐官はそうしたタリバンとの「取り引き」交渉に反対していた。それゆえ、トランプ大統領の(会談中止の)決断はボルトン補佐官にとって歓迎すべき結果だっただろう。

しかし、ボルトン補佐官はすでにその前のタリバンとの交渉段階で、トランプ大統領にかなり不満を募らせていたと思われる。

ボルトン補佐官は、辞任の考えを表明するTweetの直前、こんな文面を投稿している。辞任を決意した後の投稿だろうから、重要度はきわめて高い。

「今週、私たちはあの恐ろしい9.11テロを思い出すように、我々がイスラム過激派とどう戦ってきたかを覚えておくことが重要だ。我々は、アメリカとその同盟国への暴力やテロを支援する体制には強く立ち向かうのだ」

さらに、その前日にはこんなツイートも投稿している。

「今週、9.11から18年を迎える。あまりに多くのアメリカ国民の生命を奪ったあのテロが起きたとき、あなたはどこでそれを聞きましたか?」

こうした文面からは、テロを引き起こしたアルカイダの庇護者だったタリバンに、ボルトン補佐官が並々ならぬ警戒心を持っていることが伺える。そのタリバンに対して、トランプ大統領が承認したハリルザド特別代表の交渉は、ボルトン補佐官からすればあまりに甘く、危険な結果をもたらすだけに見えただろう。

タリバン問題をめぐって「激しい口論」

ポンペオ 国務長官

ボルトン補佐官とは顔も合わせないほど対立していたとされるポンペオ国務長官。

Win McNamee/Getty Images

前述したように、結果的にトランプ大統領はタリバン幹部との秘密会談を中止したので、アフガニスタン問題での意見の相違が直接の辞任の引き金になったのかどうか、真相は不明だ。

しかし、この問題をめぐってトランプ大統領とボルトン補佐官が激しい口論をしていたとの米メディア報道もある。

アフガニスタン問題だけではないだろうが、こうした意見の相違がくり返されるなかで、ボルトン補佐官とトランプ大統領の間に感傷的なしこりが生まれていった可能性は高い。

トランプ大統領はその性格から、イエスマン以外を受けつけない。ポンペオ国務長官などはトランプ大統領に完全追従だが、ボルトン補佐官はそうした性格ではなく、意見ははっきり言うタイプだ。

それもあって、トランプ大統領はボルトン補佐官を遠ざけ、ポンペオ国務長官を重用してきた。ポンペオ国務長官とボルトン補佐官はもはや会合でも顔も合わせないほど険悪な関係になっていたとのメディア報道もある。

ボルトン解任直後、イランに「取り引き」を提案

ロウハニ イラン 大統領

4月18日、テヘランで演説するイランのロウハニ大統領。

Tasnim News Agency/via REUTERS

トランプ大統領との意見の相違は、ボルトン補佐官が最も重視している対イラン政策でも生じていた可能性がある。

トランプ大統領がボルトン解任を明らかにした直後、ポンペオ国務長官は「トランプ大統領が前提条件なしでイランのロウハニ大統領と会談する用意がある」と発表した。イランに対して、「そろそろ取り引きしないか」と持ちかけたわけだ。

これは、トランプ大統領の対北朝鮮政策に似ている。当初は高圧的に圧力をかけて追い詰めておき、ある時点で取り引きに持ち込む。そしてその成果を実態以上に喧伝し、自身の実績としてアピールするのだ。

「ディールの天才」を自称するトランプ大統領にとっては、北朝鮮との取り引きが一種の成功体験になっていて、イラン問題でその再現を狙っているのかもしれない。

トランプ大統領自身は、もともとイランには強硬な意見だった。それは、ボルトン補佐官が政権入りする以前からのことで、娘婿のクシュナー上級顧問を通じたイスラエルのネタニヤフ首相との親密な関係や、自らの支持層で大口の献金元でもあるアメリカ国内のキリスト教右派などの意向もその背景にあった。

それでも、政権発足後しばらくは、イランとの核合意からの離脱には躊躇(ちゅうちょ)していた。ところが、2018年4月にボルトン氏が補佐官に就任した直後の同年5月、核合意から離脱している。

ボルトン補佐官は前述したように基本的に対外強硬派だが、特にイランに対しては厳しい見方を持っていた。イラン封じ込めは、彼の政治的主張の中核といっていい。

ボルトン補佐官からすれば、せっかくイランを追い詰めてきた流れを、仮にトランプ大統領が自己アピールのために歪めようとしたなら、とても容認できるものではない。相当強硬に反対したはずで、そのあたりも今回の辞任の原因のひとつになったのではないか。

ボルトン補佐官にとっての本丸は、イランの封じ込めだ。そこで主導権を握れるうちは、辞任は考えにくい。

詳しい経緯についてはいずれアメリカのメディアが詳細に検証するだろうが、第一報を聞いた筆者の現時点での推測としては、おそらく対イラン政策で意見が通らず、辞任を考えていたところに、タリバン対策でトランプ大統領と激しい口論になり、秘密会談の中止までは呑ませたものの、関係維持は限界に達した……というところではないか。

「ボルトン後」のトランプ政権は……

ボルトン 辞任

4月13日、ホワイトハウスにて。トランプ大統領のシリア問題に関する声明に耳を傾けるボルトン補佐官。

REUTERS/Yuri Gripas

ボルトン補佐官は辞任を決意した後、こんなTweetもしている。

「国連総会から2週間が経過し、イランの詐欺的行為が明白になった」

「イランは(シリアへの密輸だとしてイギリスが英領ジブラルタルで拿捕した後、解放した)石油タンカーがシリアに向かっていたことを否定していたが、本日、シリアに売却されたことが確認された」

イランなどまったく信用できないというわけだ。

前出の「アメリカとその同盟国への暴力やテロを支援する体制には強く立ち向かうのだ」というボルトン補佐官の“遺言”Tweetの矛先は、タリバンだけでなく、イランのイスラム保守派政権にも向けられているのだろう。

ボルトン補佐官が政権を去ることで、トランプ大統領が本当に対イラン政策を融和路線に転換するかどうかはわからない。深い思慮もなく場当たり的に発言するトランプ大統領なので、そこは誰にも読めない。

イラン側も、権力の中枢を握っているのは交渉派のロウハニ大統領ではなく、革命防衛隊を筆頭とする対米強硬派だ。2018年の米朝対話路線への転換のような急展開が起きる可能性はそう高くないだろう。

トランプ政権は前提条件なしでロウハニ大統領との首脳会談を提案しているが、アメリカが圧力緩和策に動かなければ、イラン側もやすやすと応じることはない。とはいえ、ボルトン流の強硬一辺倒な路線でこれまで通り突き進むとも考えにくい。


黒井文太郎(くろい・ぶんたろう):福島県いわき市出身。横浜市立大学国際関係課程卒。『FRIDAY』編集者、フォトジャーナリスト、『軍事研究』特約記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て軍事ジャーナリスト。取材・執筆テーマは安全保障、国際紛争、情報戦、イスラム・テロ、中東情勢、北朝鮮情勢、ロシア問題、中南米問題など。NY、モスクワ、カイロを拠点に紛争地取材多数。

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