「次のアリババが明日始まる」「別の舞台で会おう!」ジャック・マー引退演説全文

ジャック・マー

9月10日、アリババの20周年イベントで歌うジャック・マー氏

REUTERS

中国EC最大手のアリババは9月10日、創業20年の節目に企業のビジョンやミッションをまとめた「新六脈神剣」を発表した。

「顧客第一、従業員第二、株主第三」「唯一変わらないものは変化」「今日の最も良い仕事は明日の最低限の要求」など、6つの短い文章からなる「新六脈神剣」は、ジャック・マー(馬雲)会長が引退を表明する少し前の2018年7月から1年以上をかけて、38人のアリババパートナーと467人の担当者が20回の修正を重ねて練り上げたという。

マー氏の後を引き継ぐダニエル・チャン(張勇)CEOは、「102年企業をつくるために、5年、10年、20年と同じ道を進める人を探さなければならない。だからこのビジョン策定に膨大な熱量を投じた」と説明した。

アリババは創業間もない2001年に企業の価値観を9の言葉に集約したビジョン「独孤九剣」を策定。2004年に「六脈神剣」にリニューアルした。15年ぶりとなる今回の改訂は、アリババを一からつくりあげ、そのカリスマ性で世界での存在感も高めたマー氏の引退に合わせたものだ。

そのマー氏は10日夜、杭州市内の体育館に集まった数万人の従業員を前に、会長としての最後の演説を行い、「世界を素晴らしいものにできる企業になってほしい」と語りかけた。

演説の全訳は以下——(動画はこちらから)。

この日がこんなに早く来るとは思わなかった

式典

アリババが本社を置く杭州市で行われたイベントには、従業員数万人が参加した。

REUTERS

この日が、こんなに早く来るとは思わなかったです。皆さまに感謝します、この偉大な都市(杭州)に感謝します。ここで存分に仕事ができ、楽しく遊べました。アリババが30周年を迎えるときには、世界をもっと素晴らしいものにできる企業であってほしい。

15年前、我々は制度を考え、多くの企業を訪ねました。多くは、企業を次世代につなぐことや、プロ経営者に引き継ぐ方法を採っていました。

アリババでは、文化や制度で企業の伝承を保証します。これは決して思い付きではありません。過去の20 年間、アリババ人は何も恐れませんでした。未来についても、恐れることはありません。

これから10年以上の経験を持つアリババ人を、年に1000人規模で社会に出してほしいです。アリババのようなパートナー伝承制度を取り入れたい企業は、最低でも10年間の準備が必要です。今日はジャック・マーの定年ではなく、制度としての伝承の始まりです。中国の企業家の友人たちに感謝します。そしてアリババ人の努力のおかげでここまでやってこれました。ありがとうございます。

これまでの20年とこれからの30年

ダニエル・チャン

会長を引き継ぐダニエル・チャン氏はプロ経営者としてマー氏を支えてきた。

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今日の世界、成長のスピードは速く、複雑に変化しています。望もうが望むまいが、全ての人が変化の影響を受けています。新しいテクノロジーが引き起こす不安、環境の悪化などの問題は、新たな時代のシグナルです。

現在のあらゆる悩み、不安や困惑は新時代を迎えるための陣痛です。技術革命は人間の想像をはるかに超える影響があるでしょう。

きたる技術革命は人間に決定的な変革をもたらします。5G、IoTやビッグデータなどの技術は、人々をより幸せにできないなら無意味です。世界は良くなっていくでしょう。過去の20年間がインターネット企業の時代なら、これからの30年はIT技術活用の時代です。

あらゆる陣痛は自己変革によって超えられます。昨日の自分から抜け出さなければなりません。

自分のことを考えるだけでなく、他人のことを考えてください。この20年、私たちもそういう考えのもとやり続けてきました。お互いが信じあうことです。

ここぞという時に正しい選択をした

杭州市

アリババは観光都市として有名な杭州市にテクノロジーの色彩を加えた。

REUTERS/Aly Song

私たちの時代の人間は、最も幸運でしょう。波瀾万丈の改革を経験し、間もなくチャレンジやテクノロジーも出合います。

私たちは皆、2つのテクノロジーの時代を経験しています。工業時代には大きく、強いことが良しとされました。21世紀は組織であろうが個人であろうが、強く、大きくなることでなく、良い振る舞いをして、善良であることが力になります。今回の変革は人類の自分への挑戦です。

この20年、マーさんは運がいいとか、アリババはすごいとか言われることもありました。実際は違います。どの会社に比べても、アリババが犯したミスは少なくないです。ただし、ここぞというときには正しい選択をしました。この20年、アリババを左右する決定はどれも、お金とは関係のないものです。我々は、現実的な問題を解決できるかどうかに、お金を使っています。

ビジネスの決定は容易ではないですが、価値観の選択はより痛みを伴います。この20年、私たちは常に疑念を持たれ、挑戦を受けました。懲りない人たちだとまで言われたことがあります。きちんとした道があると分かっても、私たちは誰も歩んだことのない道を選びました。

将来、アリババにはただ金儲けのうまい凡庸な会社になってほしくありません。私たちの目標はライバルに勝つことではなく、社会、世界や人びとに良い会社と認められることです。強い企業になるのは容易ではないですが、良い会社になるのはもっと難しいです。強い企業はビジネスの能力がありますが、良い企業の基準は責任と善良です。

過去の20年の努力によって、アリババは最も強い技術、資産と人材を持つ企業になりました。これは社会がアリババを信任してくれた結果です。アリババ人として、自分の行動で社会にもっと多くの驚きや喜びをもたらして、恩に報いてください。

世界は中国とテクノロジーを恐れている

孫とマー

ソフトバンクの孫正義氏との出会いがアリババの飛躍をもたらした。

REUTERS/Toru Hana

これからの20年、私たちは技術と人材を十分に活用し、世界を良くする責任があります。中国にとってチャンスは大きいです。1つの省の人口がヨーロッパ一国の人口より多い。そんな国は多くありません。

内需は将来の中国経済成長の重要な要素になります。内需は政府の経済政策ではなく、市場経済に頼っています。中国の内需が良くないなら、アリババに責任があります。内需が良ければ、アリババは関係ないです。

新たなグローバル化はもう一つのチャンスです。世界は中国とテクノロジーを恐れています。テクノロジーは善意に類するもののはずです。絶望ではなく希望を人びとにもたらしてください。将来、アリババは新グローバル化に参加し、世界にチャンスをもたらします。世界中の人々に金融サポートを行きわたらせます。世界中の商品を自由に流通させます。

テクノロジーの強さを生かし、アリババの技術者たちは想像力を働かせて世界にチャンスをもたらします。テクノロジーは、良いことのために使います。現代サービス業を成長させることは、技術、人材や資源を持つアリババの責任です。こういった真に大切なミッションを担うことで、我々は102年企業になれるのです。

アリババは私の夢の一つにすぎない

ジャック・マー

9月10日、アリババの20周年イベントで歌うジャック・マー氏

REUTERS

102年間の責任を担い続けて初めて、102年間稼ぎ続けることが可能です。私は自分自身のことをしっかり考えました。グリニッジ天文台に行ったことがあります、銀河宇宙では太陽も地球も見つけられませんでした。この世界では、we are nobody。人生は、何を得るかではなく、何を経験したかです。

世界の素晴らしくない、正しくない、人が望むものではないものを、何とかしないといけません。

この6年間、私はさらに忙しい生活でした。アリババは私の多くの夢の一つに過ぎません。私はまだ若いので、やりたいことがたくさんあります。教育、環境保護や公益事業などはこれまでもやってきました。

明日になると、新しい生活が始まります。会長の椅子から降りたら、もっと忙しくなるでしょう。世界は素晴らしい、私はわいわいやるのが好きで、チャンスがたくさんあります。

こんなに若くて引退するのはもったいないですね。私は江湖(舞台)を変えただけで、初心を忘れることはありません。またどこかで会おうではありませんか。

(文・浦上早苗、協力・李華傑)

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