撮影:今村拓馬
男性の育児休業取得が話題になっている。政府は、女性が出産後もキャリアを継続することができるよう男性の育児・家事への参加を促すとして、男性の育児休業取得率を2020年までに13%に引き上げることを目標として掲げているが、現状は6.16%に留まる(厚生労働省「平成30年度雇用均等基本調査」(確定))。
こうした中、国会議員の中には企業に男性社員に育休を付与するよう義務付けることを提案する動きも出てきている。
出産退職すれば給付金は受け取れない
一方、女性の育児休業取得率は2006年度以後80%~90%程度で推移しており、一見、女性の育児休業は十分に普及したかのように見える。
しかし「雇用均等基本調査」における女性の育児休業取得率は、あくまで職場の在籍中に出産した女性に占める育児休業取得者の割合(在籍者ベース)で、出産前に既に退職していた女性は分母に入らない。
この点を考慮し、在籍者ベースの女性の育児休業取得率と、出生数に対する女性の育児休業取得率を示したものが次のグラフだ。
2006年度に在籍者ベースの女性育児休業取得率は88.5%に達したが、同年度の出生数に対する女性の育児休業取得率はまだ12.0%に過ぎなかった。出生数に対する女性の育児休業取得率は上昇傾向が続いているが、2018年度時点でもなお36.9%に留まる。
出生数に対する女性の育児休業取得率を意識する必要があるのは、育児休業給付金が出産直後の家計を支える役割が年々大きくなっているからだ。育児休業中であれば雇用保険から育児休業給付金が受け取れるのに対し、出産を機に退職していれば給付金は受け取れない。
育休取得すれば平均151万円の給付金
撮影:今村拓馬
次のグラフは、育児休業給付金の支給額(女性平均)の推移を示すもので、2003年度の74万円から2018年度は151万円となり、2倍超に増えている。この間、支給額が月給の40%から月給の50%または67%に引き上げられ、最長の支給期間も1年間から(保育所に入れない場合につき)2年間に延長されたことが主な要因だ。
内閣府の資料(仕事と生活の調査(ワーク・ライフ・バランス)レポート2018)によると、2010年~2014年に第1子を産んだ女性のうち、育児休業を取得して就業を継続した者の割合は、正規職員では59.0%だったがパート等では10.6%に留まっていたことが示されている。就業の継続を望みながらも退職を余儀なくされ、結果として育児休業給付金を受け取ることができない非正規職員の女性を取り上げる報道も散見される。
夫婦ともに低収入の共働き世帯の場合、妻が出産後に育児休業給付金を受け取ることができないと、家計が「相対的貧困」に陥る可能性もある。また、夫婦2人分の収入(あるいは育児休業給付金)がなければ生活が成り立たないことが見込まれる世帯においては、そもそも子どもを持つことを躊躇(ちゅうちょ)するかもしれない。
政府が目指す「希望出生率1.8」を実現するには、出生数に対する比率で見た「女性の育児休業取得率」を引き上げていくことも重要ではないだろうか。
是枝俊悟:大和総研研究員。1985年生まれ、2008年に早稲田大学政治経済学部卒、大和総研入社。証券税制を中心とした金融制度や税財政の調査・分析を担当。Business Insider Japanでは、ミレニアル世代を中心とした男女の働き方や子育てへの関わり方についてレポートする。主な著書に『NISA、DCから一括贈与まで 税制優遇商品の選び方・すすめ方』『「逃げ恥」にみる結婚の経済学』(共著)など。