500人超が殺到。ユーグレナの18歳以下CFO公募、面接開始直前に聞いた「本当の狙い」

ユーグレナ CFO 永田暁彦

ユーグレナ副社長の永田暁彦氏。東京都内の同社本社にて。

撮影:的野弘路

藻の一種ミドリムシや廃食油を主原料に、日本初の国産バイオジェット・ディーゼル燃料の実用化に取り組むユーグレナが突如発表した「CFO(最高未来責任者)」の公募。

東証一部上場約5年の注目成長企業による過去に例のないポジションの採用、しかもその対象は18歳以下限定ということもあって、世間の注目が集まった。

「新聞でユーグレナ、驚きの求人!」

「発想が興味深い。ちょっと唸った」

CFOは、同社の2030年に向けた「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals、SDGs)」に関するアクション、達成目標の策定に携わるサミットを議長として運営する、役員相当と言えるポストだ。定時株主総会や関係会合、イベントでのプレゼンテーションなど、かなりの大役をまかされる。

それでも挑戦しようという若者はどれだけいるのだろうか。

8月31日、3週間超の公募はあっという間に締め切られた。結果を知りたくて、さっそくプロジェクトを率いるユーグレナ副社長の永田暁彦氏を訪ねた。

「CFOとサミットメンバー(契約の発生しないインターンシップ)合わせて511件の応募がありました。想定していた以上の数です」

問題意識に突き動かされて応募した若者たち

ユーグレナ CFO 公募 フロー

ユーグレナのCFO募集の流れ。

出典:ユーグレナHPより編集部キャプチャ

エントリーに際しては、「SDGsの17のゴールの中で、あなたが関心のあるものと、そのゴールを達成するために、あなたがユーグレナ社で取り組みたいこと」という、18歳以下が普段から考えているとは思えないテーマについて、1200文字以内でまとめる課題が与えられた。

「意外だったのは、課題を出されてから考えたとは思えない、環境問題について明確な意見や主張の盛り込まれた作文が多くを占めたこと。それに、CFOに採用されるための作文というより、自然環境に関する大きな問題意識に突き動かされて書かれた内容が多かったのも印象的でした」

記者もその一部を特別に(もちろん匿名状態で)見せてもらったが、確かに、応募のために付け焼き刃の知識で書かれたようなものはあまりなく、「今回のような取り組みを待っていました、私はこれまで環境問題についてこんなことを考えて生きてきたんです」という声が聞こえてきそうな(実際にそう書いていた人もいた)作文が多かった。

今回の公募では、書類選考と2度の面接を経てCFO1人が選ばれることになっている。が、実は最初の書類選考、作文以外は名前と年齢、居住地くらいしか情報がなく、学歴や検定資格などは原則考慮されない。これで本当に選べるのか。

「作文がいずれも甲乙つけがたいという意味では、選考はかなり難航するでしょう。ただ、他に情報がないのは全然問題ナシ。そもそも、学校の宿題のような縛りがあるわけでもないのに、環境問題について1200字の作文を書いて応募する、その一歩を踏み出した若者であるというだけで、けっこうなスクリーニング(ふるい分け)になっていると思いませんか」

ちなみに、ユーグレナでは通常の採用時も、「例えば、英語で交渉できる人材が必要なら、TOEICの点数を見るより英語で面接するほうが確実」(永田氏)という発想で、学歴や職務経歴はさほど重要視していない。

ごく最近まで大手就活サイトには情報を掲載せず、自社ウェブサイトのみで人材募集を行ってきたため、(環境に関わる仕事を志し、関連情報を調べて)応募してくること自体がスクリーニングになっているという。そういう意味で、今回のCFO募集方法は紛れもなく「ユーグレナ流」なのだろう。

大人を巻き込むことがもうひとつの目的

ユーグレナ 永田暁彦

撮影:的野弘路

それにしても、記者自身の小中高生時代を思い返すと、こうしたアディショナル(追加的)な学業や仕事にはまったくやる気が起きなかった気がする。夏休みの宿題はその最たる例で、盆明けに親に怒られるまで手をつけた試しがない。

きっと今回のCFO募集でも、親に言われて仕方なく……という若者たちがいたのではないか。夏休みの工作みたいに、親が代筆した立派すぎる作文もあったのでは、と永田氏に意地悪な質問をしてみた。すると、待ってましたとばかりにこんな回答が。

「それは想定済みです。というより、大人を動かしたり巻き込んだりすることは、CFO公募の最も大事なポイントのひとつと考えていました」

公募開始を発表する際、朝日新聞に全面広告を掲載したのも、親世代にアピールするためだった。直接若者たちに訴えるのが狙いなら、中高年が読者の中心を占める新聞は媒体としてベストとは言えない。

全国から学校の教員たちが集まったSDGs関連のイベント「Think the Earth(シンク・ジ・アース)」で公募開始の発表会を行ったのも、やはり大人を巻き込むのが目的だった。

「環境問題に取り組んでいる企業が中学生や高校生のメンバーを探してるんだって、あなたも応募してみなさいよ、そんな会話が家庭に生まれることを初めから狙っていたんです」

永田氏はさらにこう続けた。

「CFO応募者を150人として、コンバージョン率はどのくらいでしょうか。おそらく(公募情報を知った人のうち応募したのは)どんなに多く見積もっても1000人に1人くらい。ということは、18歳以下のCFOを採用しよう、未来を生きる当事者の考え方を経営に取り入れようという考え方を、数十万人の若者たちやその親御さん、先生たちに知ってもらえたはずです」

CFOを採用してその意見を経営に活かすだけでなく、子どもたちや若者たちを取り囲む社会を同時に変革するのが、公募のもうひとつの狙いだったわけだ。

子どもたちの生きる未来に想像力が及んでいない

台風15号 アンテナ 会社員

台風15号が首都圏を襲った翌9月9日の朝、強風で吹き飛ばされた衛星放送アンテナを尻目に通勤する都内の会社員。

REUTERS/Issei Kato

こうした取り組みは日本の社会のあり方、企業のあり方を変えていくだろうか。

まったく関係ない話のようだが、先日の台風首都圏上陸時、社員に待機やテレワークを指示して安全確保、交通混乱の回避を図った企業と、特段の指示をしなかった企業、通常通りの出社を強制した企業、それぞれの判断の良し悪しが話題になった。

テレビレポーターの質問に、「朝8時30分に家を出て、会社に到着したのが午後2時でした」とコメントした男性のように、鉄道駅の外まで続く数時間の行列に並んで出社した大量の会社員たちを「社畜」と呼び、ニュースやSNSはこの話題であふれ返った。

Business Insider Japanも9月9日の記事「あっさり午後出社やリモートワークか、『絶対出社』か……台風一過でわかった“社畜日本”の現在地」で問題を報じている。

この騒ぎは、端的に日本の企業社会のありようを示しているように思われる。つまり、社会がどうあるべきか、自分の子どもたちがどんな社会に生きてほしいか、考えて行動に移している人間は相変わらず少ないのだ。

遅延、運休がわかっている交通機関に殺到し、狭い電車内で押しつぶされて腹を立てストレスを募らせ、思考停止に陥って自ら労働環境を改善しようとしない自分を、会社のルールだから仕方がないとスポイルする。

子どもたちにもそのような会社員になってほしいのか。そんな息苦しい社会を生きてほしいのか。

そして、もしあなたの会社に最高未来責任者がいたなら、この状況を見て何と言うだろうか。

ユーグレナはこの週末にもCFOの一次面接を始める。

(文:川村力、撮影:的野弘路)

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