5月からNetflixで配信されている人気リアリティー番組「テラスハウス」東京編。
出典:テラスハウスHPより
Netflix(ネットフリックス)の修行中だ。地上波ヘビーユーザーでもあるので両立が難しい。まずは手堅くネトフリの出世作(?)、日本発の「テラスハウス(以後、テラハ)」からと、2019年5月4日に始まった「東京編」を追いかけている。
いろいろな発見があった。
小さなところでは、「チルする」という言葉。「ねー、少しチルする?」のように使われている。チル→chill→冷やす、と受験英語頭で変換する。場所を変えて何かを飲むことの総称のようで、「お茶する?」が近い。それがなんで冷えちゃうのかなあと考えるに、たぶん空気を変えるって感じではないかと推察。頭を冷やす感じ。ミレニアルなみなさーん、合ってますかー?
「働く」ことへの意識は圧倒的に女子
中くらいの発見は、男子より女子の方が「仕事」について考えているということ。
「テラハ」の基本構造は男女各3人、計6人が同じ家で暮らし、台本なしの恋愛模様を視聴者が楽しむというもの。デートや仕事の様子なども映る。だから自ずと、自由の利く仕事の人が多くなる。
全シーズンを見ているわけではないが、少なくとも現在の東京編は、「華やか」ではあるが「安定」とは遠い。そんな仕事との人たちで始まった。女性陣がイラストレーター、女優、フィットネストレーナー、男性陣がミュージシャン、俳優、アルバイト。
働くことと自己実現の意識の強さに男女の差。
出典:テラスハウスHPより
働くことへの思いは、圧倒的に女性が強い。もっと上を目指したいという気持ちを隠さず、そのためにどうするかを語り、だからこその迷いも口にする。容姿に恵まれた女子たちばかりだが、地に足つけて自分の足で生きていこうとしていると感じさせる。
対する男性陣は、基本ピシッとしない。「一つに絞らず、いろんなことをしていきたい」とか「伝わりにくいかもしれないけど、やりたいことはある」とか言っている。ま、いいんですけどね、息子でもないし、部下でもないから。そんな感じ。
割り勘に凹む女子
そして、大きな発見。それは、「割り勘」より「おごられるデート」の方が上。そう今どき女子が思っているらしいという事実。支払いは愛情の証。そんな感じになっている。
説明のため、関わる登場人物だけ紹介する。
カッコ内の年齢は、スタート時のもの。ミュージシャン(ケニー・31)に好意を寄せる女優(春花・24)とトレーナー(莉咲子・21)。他にイラストレーター(香織・28)とアルバイト(流佳・20)。ケニーだけ愛称だが細部はさておき、驚いた場面に。
「おごられる=女の子扱い」はやっぱり根強い(写真はイメージです)。
撮影:今村拓馬
ケニーと莉咲子がデートを終え、莉咲子だけが帰ってくる。春香と香織が感想を聞く。
「知らない間にお会計してくれたりして、なんか女の子になった気分で、すごく楽しかった」と莉咲子。流佳(男子)とは遊びに行ったけど、自分が女の子だってことを忘れる対応だったのに、と。
「莉咲子はね、日常的に女の子扱いされることが少ないの、だからお金を払ってくれたということがうれしいんじゃなくて、女の子扱いされたことがうれしかった」
おごってもらって、初めて女の子扱いなのかー。引っかかったには引っかかったが、まあ、21歳の女子のウキウキ気分の表現だ、幼いけどこれから成長するのだから。そう済ませようと思った。だけど、莉咲子だけではないことがすぐに発覚した。
春花と香織がカフェでランチをしている。「恋バナ」というのだろうか、春花がケニーへの思いを語る中、こう明かす。
「私、(莉咲子に)嫉妬しちゃったの、けっこう。私にはご馳走してくれなかったなー。割り勘だったなー、とか思っちゃって」
以前に食事をしたが、割り勘だったと嘆いている。
3人の女子の中で一番「努力」を語るのが、春花だった。夢があるならそれに向けて努力すべきだ、と。恵まれた容姿を前提に、自力で進みたい女子だと思っていた。それなのに、割り勘に凹んでいる。
まだ女子は「経済弱者?」
男性に頼らず、自力で進みたい女子でも食事はおごってほしいのか…。
出典:テラスハウスHPより
編集サイドが「割り勘問題」に目をつけたのは明らかで、すぐに春花とケニーの2度目のデートの場面になった。
春花行きつけの沖縄料理店で食事。1万800円の会計を1万円にしてくれると店主。「ありがとうございます。じゃあこれで」とケニーが1万円札を渡す。財布から5000円札を出す春花。「いいよ」とケニー。「いいの?」と春花。「ありがと、次、どっかでコーヒーおごるね」と春花のうれしそうな表情。
以上で、この回(7話)は終了。
12話で、春花はテラハに住んでいない第三の男性と食事をした。詳細は省くが、21歳のウクレレ&ギター奏者。ちゃんと売れている。彼の矢印が春花にすごく向いていることは、春花本人もよーくわかっている。そういう状況。
払ったのは彼だった。払おうとする春花に、彼がこう言う。「絶対もう、(あなたには)おごらせない」。「何、今、すごい男らしかった」と春花。「ありがとう」と彼。
そっかー。女に払わせない男が、男らしいのかー。うーん。男らしいってなんだろう。払わせるのが、女らしい女?軽い会話と思いつつ、あれこれ考えてしまう。
そもそも「デートでは男子が支払う」という考え方は、「男は仕事、女は家事」時代のものだと思っていた。世の中のシステムが、「男性=経済強者」「女性=経済弱者」にしている。だから強い側が弱い側の分もみる。そんな昭和スタイルだと思っていたのに、「男女共同参画」の平成を経て令和になっても、まだその考えが残っている驚き。
もう、割り勘でよくない?
おごるのが男らしさ。令和になっても根強い。
撮影:今村拓馬
支払い場面は他にもあった。女子最年長の香織と男子最年少の流佳とのデート。食事に行って、支払ったのは香織。「大丈夫です、大丈夫です」とお金を出そうとする流佳に香織は、「さすがに20歳の子に(出させられない)」と言う。家に帰って流佳は、先輩男子に「おごってもらっちゃった。めっちゃショックだった」と話す。
香織にしてみれば、「バイトで年下」の男子には「さすがに」出させられない。これはわかりやすい。経済力が上の人が出す。職場などでは普通にあることだろう。でも、それだから流佳はショックを受けたのだろうか。「僕って、部下なの?」と。
やはり流佳も「恋愛の場面で支払うのは男」と思っているということか。経済力と関係なく、好きな女子には払わせないのが男子の仕事、と思っている。そういうこと?
香織はどうなのだろう。もし流佳に恋愛感情を持っていたら、年下でバイトの子だけど、やっぱり払ってほしいのだろうか。好きじゃないから、ビジネスライク。好きなら、別な判断?
仮に愛情の尺度に、「おごる」「おごられる」があるとしよう。おごってもらえたら愛されていて、おごられないなら愛されてない。そうだとしても、女子が愛する男子におごるというのは無し? おごってあげられない男子は、愛する資格無し? どっちも、おかしくない?
えーい、めんどくさい。割り勘でいいよ。っていうか、割り勘がいい。
割り勘=恋愛弱者なのか
もうそろそろ男女で「おごり、おごられ」に愛情値踏みするの、やめない?
shutterstock/Rawpixel.com
と思っていたところに登場するのが、林真理子さんだ。
ある調べものをしていて、10年以上前の林さんのエッセイを読んだ。男性3人、女性2人でおいしいワインを「じゃぶじゃぶ」飲みながら、おいしい野鳥料理を食べたという話が書いてあった。最後に会費を出そうとしたら、男性陣の1人に押しとどめられたそうだ。
「今夜は我々3人の男に任せてください。こんなに楽しいひとときをご一緒出来たんですから」
そう言った男性は、ヨーロッパで教育を受けた人だ、しかもハンサムだ。そう林さんは、感動を綴る。
そして自分のことを嘆く。「思えばモノ心ついてからのワリカン人生」と。ロマンティックな関係になりかけても、いつもワリカンにしてきた、と。この話の最後はこうだ。
「そして私はつくづく思う。男の人にお金を遣わせなければ、執着心を持ってもらえない……」
このエッセイを書いた時、林さんは51歳。もしや「テラハ」の女子たちは、20代にしてすでに林さんの50代の域に入っているのか? そして58歳にして、「割り勘でよくね?」などと言っている私は、正真正銘の恋愛弱者なのか。
「テラハ」、深すぎる。
矢部万紀子(やべ・まきこ):1961年生まれ。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、「AERA」や経済部、「週刊朝日」などに所属。「週刊朝日」で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長を務めた後、2011年退社。シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に退社し、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』。最新刊に『美智子さまという奇跡』。